批判にさらされ続けても長友佑都がプレーで示せた「タフさの源」 | FRIDAYデジタル

批判にさらされ続けても長友佑都がプレーで示せた「タフさの源」

W杯アジア最終予選で批判にさらされた35歳の長友の現在地

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
2月1日、サウジアラビア戦で伊東純也が勝利を決定づける2ゴール目をあげた瞬間。ラストパスを出した長友は喜びを爆発させた(写真:アフロ)

サッカーのカタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選、日本は中国を難なく下し、続くグループB首位のサウジアラビアにも快勝。気づけば次戦3月に予定されるアウェイでのオーストラリア戦で勝利すれば突破が決まるところまできた。日本代表の森保一監督は「まだなにも手にしていない」と気を引き締めてはいるが、序盤の2敗から始まった「W杯出場を逃す」危機は脱したといっていいだろう。

「テレビでも長友批判が盛り上がるくらいじゃないと…」

さて、今回のホーム2連戦、なにより盛り上がったのは35歳のベテラン・長友佑都の起用法をめぐる一連のやりとりだったのではないか。報道やSNSで不要論、限界論が噴出、それに対して長友本人が反応したことが多く報じられた。

流れを追うとまず、1月27日の中国戦でのパフォーマンスへの批判から不要論が噴出。それに対しサウジ戦2日前の取材対応時に本人が反応。2月1日、サウジアラビア戦では外野の声を吹き飛ばすような熱いパフォーマンスを見せると、試合後の取材対応にも本人が登場した。いわば”世間の声”と長友本人とのやりとりが数日間かけて可視化された。

何かの報道に対し、本人が反応すること自体は決して少なくないが、最近では多くの場合、自身が持つSNSで発信される。だが、今回長友はメディアを通じたやりとりの中で、批判に対し怒るのではなく、持ち前のユーモアと自虐を交えながら率直な受け止め方を晒し、さらにパフォーマンスで回答を出した。珍しいケースだったのではないかと思う。

1986年生まれの長友は現在35歳。世代交代の足音がひたひたと迫っている年齢だ。それを裏付けるかのように昨年9月に始まった最終予選、10月ラウンドの第3節から常に24歳の中山雄太と後半途中交代するようになった。先のサウジアラビア戦まで数えれば実に6試合連続で中山と交代しており、森保監督が現時点では中山を長友の後継者だと見ている、と解釈するのが自然だ。だから少しでも長友が低調で中山が好調、などということがあれば、「世代交代を」と言いやすい状況は出来上がっている。

1月30日に行われた取材対応で長友は批判について「ありがたい限り。自分を成長させるチャンス」と自身に矛先を向け、競争が生まれている現状について「素晴らしい状況。若くていい選手が出てくれば自分自身もエネルギーがよりいっそう出てくる」と歓迎した。さらに、自身が過去にプレーしたイタリア、トルコ、フランスと日本との違いにも言及している。

「日本のサッカーのレベルが上がっているし、見る側のレベルも上がっていると思う。日本のサッカーも発展してきたんだなとしみじみ感じます。ただまだ、叩き方が中途半端。インターネットだけでなく、テレビでも取り上げるくらい長友批判が盛り上がるくらいじゃないと、サッカーファンは増えない」

欧州サッカーの熱狂を体験しているからこそのコメントである。と同時に、昨年夏に11年ぶりにFC東京に復帰した際「(FC東京の試合の雰囲気は)正直ぬるい」などの発言への印象とも通じる、自身と周囲を刺激するワードチョイスは長友らしくも感じる。負けん気の強さを感じさせるコメントだが、これだから世界と戦って来られたのだと改めて感じさせる。

ただ長友のコメントにあるような、「テレビで”長友批判”」はなかなか現状では難しい。まず、サッカー番組が地上波全国放送から姿を消して久しい。ニュース番組のいちコーナーで最終予選などの試合は扱われるが、現状を伝えるので精一杯だ。

一方で、比較に出たイタリアや筆者の住むドイツではサッカーは国技とされ最も人気のあるスポーツだ。欧州選手権やW杯では首相が試合会場に姿を見せるし、オンラインで激励することもある。つまり、国民行事として捉えられており、簡単に言えばサッカー自体のステイタスが違う。

「中山雄太、いけ、おらあ」。後半23分、先発した長友が24歳の中山を大声で鼓舞しながら交代。「中山先発起用論」を唱える声が多い中、自分の地位を脅かす若手を鼓舞する姿勢にSNS上でも称賛の声が上がった(写真:アフロ)

長い目で見ればゆっくりと日本におけるサッカーの地位は上がっているものの、ここ数年を見れば追い風ではなく凪の状態。認知はされているが、プロ野球ほどでもない。だからこそW杯で結果を出し、継続的な興味に繋げるということを4年ごとに地道に続けていくしかない。テレビ離れという言葉がウィキペディアに載るような現状はあるが、若者だけでなくサッカーファンを全世代で増やすとなるとやはりテレビの国内向けの力は大きい。

また、肌感覚ではあるが、そもそも正当な批判を口頭で行うという文化は日本にはあまりないように感じる。昨今、忖度という言葉が流行っているようにできるだけ優しい言葉の掛け合いの中から改善点を見つけて成長していこうというのが日本的だ。文字面では厳しいことを言っていた人が、面と向かうと案外優しいというのは多かれ少なかれ経験があるのではないだろうか。

もしくは、批判と怒りが混同してしまう。「日本人はすぐ怒っちゃうから」というのは日本人に詳しい海外の人や海外に長い日本人からときどき言われることで、怒らずに批判や反対意見を伝えるということがどうやら我々は苦手なようだ。だからこそ、テレビで大好きな人気選手を批判することは難しく、ネット上のほうが批判は盛り上がりやすいのかもしれない。

とはいえ、長友への世代交代論が出てくるのは年齢を考えても致し方のないことだ。長友がかつてプレーした欧州各国では日本よりも年齢に対しては厳しい。続々と有望な若手が出てくるので、何もまあまあな30代を使い続けることはないのだ。

例えば、38歳で今なおブンデスリーガ1部フランクフルトの主力であり続ける長谷部誠の場合、記事になるときは“おじさん”や“チーム最年長の”といった枕詞がつくことが多い。批判でもなんでもなく現実だからだ。また実際に、現在のグラスナー監督も、その前に指揮をとっていたヒュッター監督も就任初期は長谷部を外した形でのレギュラー編成を試みている。

年齢がいった日本人よりも若く将来性のある選手を試したいのは自然なこと。だが、長谷部の場合、幾度となく実力でポジションを奪い返し、いまだに奇跡のような活躍を続けている。長谷部と3歳違いの長友が日本代表で年齢を理由に不要論、限界論を唱えられるのは自然なことで、やはりこれはパフォーマンスで覆していくしかないのだ。

実際に長友はサウジアラビア戦でそれをやってのけた。前半13分、左サイドの高い位置で粘りに粘ってマイボールのスローインにしたシーンは大きな拍手を浴びた。そして後半5分、伊東純也の得点につながったシーンは長友がゴール前に詰め、相手に寄せられながらも伊東にラストパスをつけた。コメントを求められ「アシストつけてくれるんですか。優しいですね」とはにかんだ。

30日の時点では炎上上等としていた長友も、サウジ戦後には「今日くらいは賞賛という名の栄養、水をください。そうでないと燃えきってしまうから」とこれまた冗談交じりに要求した。オンライン取材に対応する長友の様子は後輩たちに見守られていたようで「今(この取材風景を)写真に撮られてます」とパソコンの画面越しで見る私たちからは見えないシーンを教えてくれた。とても嬉しそうだった。

これで左サイドバックは長友で安泰、というわけではない。本大会までの10ヶ月の間にメンバー入れ替えもあり得る、現時点で代表メンバー外の選手にもチャンスありと感じさせるポジションの一つだ。ただ、長友の批判を跳ね返すパフォーマンス、日本代表としての矜持、メンタルの強さと意地と発言のユーモアと率直さ。ベテランの魅力をあらためて感じさせてくれるものだった。

  • 取材・文了戒美子

    1975年、埼玉県生まれ。日本女子大学文学部史学科卒。01年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース(現・U-20W杯)UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯4大会、夏季オリンピック3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住

Photo Gallery2

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事