スーツ違反で高梨沙羅は号泣…それでも日本が4位に入った特殊事情
非情な判定だった。
北京冬季五輪4日目(2月7日)に行われた、スキーのジャンプ混合団体。日本のトップバッターとして1回目に臨んだ高梨沙羅(25)は、ヒルサイズへ3mに迫る103mの大ジャンプを決める。1人目がすべて飛び終えた時点で、参加10チーム中2位の好成績だ。
だが……。
「直後に行われた抜き打ち検査で、高梨のスーツが規定違反であることがわかったんです。ジャンプのスーツは、表の面積を広げて揚力を受けやすくならないように身体にフィットすることが求められます。
しかし高梨のスーツの両太モモ部分は、規定よりも2cmほど大きいと判断された。規定違反で、せっかくの大ジャンプも高梨の成績は無効となりました。より記録を伸ばすために、規定ギリギリのスーツで挑んでいるのは高梨だけではないのですが……」(大会関係者)
高梨は2日前に行われた女子ノーマルヒルを、同じスーツで飛んでいる。当然、違反はなかった。通常は競技直前に、筋トレなどをし筋肉を増大させ身体をできるだけスーツにフィットさせる。だが、混合団体が行われた標高1600mの会場は当日氷点下15度の寒さで、筋肉が萎縮してしまったのかもしれない。
「茶番だ!」
違反を知って、高梨は泣き崩れた。
「規定違反と判断されたのは、高梨だけではありません。4チーム5人の選手が違反と、失格者が続出したんです」(同前)
この厳しい処分に、各国からは怒りの声が相次ぐ。1回目でカタリナ・アルトハウスが失格となった、ドイツのシュテファン・ホルンガッハー監督のコメントだ。
「操られた舞台のようだ。ありえないくらい頭に来ている。とても理解できないことだ。スーパージャンプだったのに!」
14年のソチ五輪で銀メダルを獲得したダニエラ・イラシュコが失格となった、オーストリアのコーチ、マリオ・ステケルトは「これは茶番だ!」と激怒。2回目のジャンプが違反とみなされたノルウェーのシリエ・オルセットも、報道陣へ不満を漏らした。
「(大会運営者は)まったく異なるルールでスーツを測定している。これまでと違う方法で(ジャンプ台に)立つように言われた」
詳しい説明がないまま次々と違反と判断された各国選手は、不満を爆発させ、モチベーションは大きく後退する。失格者を出したオーストリアは5位、ノルウェーは8位、ドイツにいたっては9位に沈んだ。
だが、日本は違った。横川朝治ヘッドコーチは不平を口にせず報道陣へ「ボクらスタッフのチェックミス」と謝罪し、男子個人ノーマルヒルで金メダルをとった小林陵侑は「まだ最高のパフォーマンスができる」と自身を鼓舞。そして失格となり号泣していた高梨は、涙をぬぐい「最後まで飛びます」とスーツを着替え2回目のジャンプに挑んだ。
「責任を感じた高梨は、気持ちを切り替えられなかったと思います。ジャンプの前に小林が、憔悴した高梨を抱きしめ何度も『大丈夫』となぐさめていましたから。それでも2回目は、K点超えの98.5mをマーク。着地後も高梨の涙は止まらず、両手で顔を覆いしゃがみ込んでしまいました。
高梨の姿に、チームメイトも意気に感じたのでしょう。最後は小林が106mの大ジャンプで4位に入ります。小林のジャンプを見た高梨は、胸を手で押さえ再び号泣していました。厳しい違反判定で高梨の1回目が無効にならなければ、銀メダルを獲得していた成績ですよ。胸を張って良いと思います。世界に誇れるジャンプです」(日本スキー連盟関係者)
思わぬ逆境に見舞われても、決して諦めなかった日本。最後は外国の選手たちも、涙が止まらない高梨を抱きしめた。
- 写真:アフロ 共同通信社 JMPA