悲劇のショートP直後に羽生結弦がみせていた衝撃の「神対応」
本誌特派記者は目撃していた
今日2月10日、フィギュアスケート男子シングル。羽生結弦(27)は運命のフリーを迎える。8日のショートプログラムでは、冒頭の4回転サルコーの「ミス」に世界中が息をのんだ。ただ、最も大きなショックを受けたのは、羽生本人であることは間違いない。しかし、そんな衝撃のショートプログラムのあと、本誌特派記者は羽生が見せた「神対応」を目撃していた。
ショートプログラム直後、羽生が「キス・アンド・クライ」で自身の得点を見届けたあと、首都体育館には宇野昌磨(24)の名前がコールされた。すると羽生は大きな拍手で宇野を出迎えていた。単なる礼儀としてではなく、テレビカメラが切り替わったあとも、しばらく拍手をし続けていた。
競技を終えると、選手たちはキス・アンド・クライの裏側にある衝立で仕切られた通路を通って、リンクをあとにする。テレビには映らず、ほとんどの観客席からも見えない場所だ。しかし、記者席にいた本誌記者の位置からは引きあげる羽生の姿が確認できた。衝立で仕切られた通路を通り、リンクから出る際、ドアの開閉役のスタッフに対して、深く頭を下げていた。自身の演技を終えて、まだ10分も経っていないときのことだ。
演技が終わって20分ちょっとが経った頃、報道陣の前に羽生が姿を現した。少し紅潮した顔つきで羽生は開口一番、
「よろしくお願いします。ありがとうございました」
とお礼の言葉を述べた。そして、
「なんか……、穴にのっかりました」
と言いながら、少しはにかんだ表情をみせた。
その後も、
「なんか氷に嫌われちゃったな」
「一日一善じゃなくて、一日十善ぐらいしないといけないのかな」
と何度も冗談めかして、自身の演技の振り返りとフリーへの意気込みを語った。
羽生が取材エリアにやってくるまで、報道陣の多くもショックを受け、羽生にどう声をかけたらいいかはかりかねていた。そうしたメディアや関係者の緊張感と自身への気遣いを、羽生は敏感に感じ取っていたように映った。
取材の最後に羽生は、
「ありがとうございます。つぎがんばります!」
そう言って報道陣に3秒間にわたって深々と頭を下げた。最後まで、周囲への気配りを欠かさなかった。
5年前のフィンランド・ヘルシンキで行われた世界選手権のときのように、羽生は何度も逆転劇や奇跡的な勝利を手にしてきた。しかし、それらは奇跡でもなんでもなく、羽生の真摯な姿勢とたゆまぬ努力で勝ち得たものだ。ショート後の「神対応」にそんな彼の強さの一端を見た気がした。
9日の練習では4回転半の着氷にも成功している。羽生はまだなにも諦めていない。
- 撮影:日本雑誌協会