売春宿が売りに出され…日本人が知らない「アメリカ性産業」の現実 | FRIDAYデジタル

売春宿が売りに出され…日本人が知らない「アメリカ性産業」の現実

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

<コロナ禍、あらゆる産業が大打撃を受けている。世界一の経済大国・アメリカも例外ではないが、他の産業と比べて、その現実に光が当たらないのが性産業だ。ノンフィクション作家の林壮一氏が、コロナ禍を生きるアメリカの性産業従事者のいまを追った――。>

年収は5分の1に

ラスベガスから西に128.7キロメートル。パーランプという地にある975.4平方メートルの建物が、120万ドルで売りに出された。

建物の名は「LOVE RANCH」。15の部屋がある、かつての売春宿だ。パーランプはネバダ州の市の一つだが、同州は16のカウンティ―に分けられ、そのうちの10箇所が売春宿の経営を合法としている。

ネバダ州にある老舗「CHICKEN RANCH」

2015年10月13日、元NBAのスター選手、ラマー・オドムが、このLOVE RANCHで意識不明の重体に陥った。オドムは3日前から当地に滞在し、コカインを使用しながら娼婦たちとの時間を過ごすなかで体調が急変。倒れた直後は「非常に危険な状態」と報じられたが、回復し、現在は社会復帰を果たしている。

LOVE RANCHは2018年10月のオーナーの急死後に閉じられ、引き継ぐ者が現れないままであった。

ネバダ州のRANCHビジネスは年間で7500万ドルを生むとされてきた。だが、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、2020年3月中旬から2021年4月末日まで、営業停止を宣告される。州の決定によってである。当然のことながらコロナ禍で娼婦たちも稼ぎを失う。

彼女たちの何人かは、労働者の権利を主張し、ネバダ州を訴えた。あるいは自身のサイトを立ち上げ、オンラインセックスでカネを作ろうとしたが、2019年の収入には遠く及ばないそうだ。年間10万ドルを売り上げていた娼婦の収入が、2万ドルになってしまったというボヤキも、ラスベガスの地元紙が拾い上げていた。

FOX TVによれば、コロナによって被ったラスベガスの観光ビジネスのダメージは340億ドル。経済損失はマイナス53.5%で、12万5000もの職が消えている。既に閉められたLOVE RANCHの取材は不可能だが、私は今回、競合であるCHICKEN RANCHで働く人々へのインタビューを試みた。

ネバダ州ラスベガス、マッカラン国際空港から車でおよそ1時間。人里離れた砂漠の一角に、11台の車が停まっている。外観はレストランのようだ。ベルを押すと大きなブザー音が鳴る。およそ10秒後に扉が開き、体温の検査とマスクをしているか否かの確認、そして車の免許証やパスポートなど、写真付きの身分証明書の提示を求められる。

CHICKEN RANCHで働く女性たち(写真提供: Chicken Ranch)

ベルを鳴らしたのが客である場合、その姿を内部のカメラで娼婦たちが確認し、「この男とであれば商売が出来る」「ちょっとこの人は遠慮したい」等の判断を下し、ビジネスとして成立させたいと感じた女性だけが、訪れた男の前に立つ。

客の前に横一列に並んで源氏名を告げ、指名されれば自身の部屋へと誘う。二人切りになってから、どういった金額でいかなるサービスを施すかを話し合い、宿のマダムに金額を報告してコトに向かう。取り分は宿が50パーセント、娼婦が50パーセントという決まりになっている。

まず、私のインタビューに応じてくれたのは、マーケティング会社から派遣されている48歳の男性だった。

「2021年5月1日の再オープンまで、14カ月近くも営業できなかったのですから、大きな痛手を負いました。最初は2020年3月17日から1カ月間、店を閉めろ、ということでした。ネバダ州の北部では、3月15日から営業停止勧告を受けた宿もあったようです。停止期間がどんどん延長されましてね……。いつでも再開出来るように、ここを維持しなければなりませんから、100パーセント負の状況に陥りましたよ。常にカウンティ―の担当者と話し合っていましたが、なかなか目処が立たず、ストレスは相当なものでした。

当店は、常時10人から15人の女性がお客様をお迎えします。ここで与えられた自分の部屋で生活し、お客様と触れ合うのもその部屋で行います。でも、それが出来なくなったので、女の子たちは自宅に戻ってオンラインのアダルトページ等で新たなチャレンジをして、糊口を凌いでいたようです。我々はあくまでもライセンスを得て、合法的にこのビジネスをやっておりますから、ランチ以外の働きぶりについてはノータッチですがね。

以前は女の子たちと最低2週間から雇用契約を結びましたが、再開後は最短で10日となりましたね。このところ、コロナ感染テストを10日ごとに受けさせていますので。働き始める前に、必ずテストを受けてもらって、陰性証明を持ってこないと契約しないことにしております」

2021日5月1日の再オープンから「待っていました!」とばかりに、常連客を中心にカスタマーが戻っており、2022年に入ってからは、営業停止前とほぼ同じ数字に近付いているとのことだ。

彼は具体的な数字は「企業秘密」だと教えてくれなかったが、手応えを感じている、という表情で言葉を続けた。

「カスタマーの比率は、ラスベガス市民よりも観光客の方が若干多い、というくらいですね。非常に忙しくしていますよ。日本人を含むアジア系のお客さんは、全体の25%くらいでしょうか。COVID後に、10%ほど減っていますが」

ミアという源氏名の25歳と、彼女の部屋で向かい合う。

ここで働いて3カ月目だというミア

「ネバダ州では売春宿が合法的として存在していることをYouTubeで知りました。私が住んでいるアリゾナ州からパーランプなら車で簡単に移動できる距離だし、オンラインで申し込んでみたんです。今、ここで働いて3カ月目です」

州の南側がメキシコとの国境であるアリゾナはメキシコ移民が多いが、彼女もそうであり、黒い髪で小柄だった。インタビュー開始前に、彼女はカツラを被った。

「私自身もメキシコ生まれです。両親はメキシコの伝統を重んじる古いタイプで、女は仕事をせずに家事をやれ、という感じでした。ですから、母は専業主婦だったんです。父は建設労働者として日払いの仕事をやっていましたね。

幼い頃はカメラマンになりたい、なんて思った時期もありますが、『女性は早く結婚して子育てに専念しろ』と躾られたんです。それで私も22歳で結婚し、元旦那の給料だけで生活していました。でも、ちっとも幸せじゃなかった……」

ミアの結婚生活はおよそ3年で破綻する。

「25歳で離婚してから、フィニックス近郊の弁護士事務所やホテルの受付係として働いていました。午前9時から午後5時まで週に5回働いて、年収は2万7000ドルくらい。未来が無かったんですよね。そのうえ、コロナウィルスに覆われ、ホテルを利用する人がさっぱりいなくなってしまった。多くのホテルが倒産に追い込まれました。私の同僚たちも全員が解雇されましたよ。正確な数字は分からないけれど、私が体感した限りでは、アリゾナ州一の大都市、フィニックスの観光業は8割以上の人が仕事を失ったんじゃないかしら。

“稼げる”ということが今の仕事の最大の魅力です。最高レベルで年に120万ドル。この仕事に就けて、今は本当に幸せです。楽しんで働いているしね。受付係の給料とは比較になりませんよ」

客へのサービスも、自らの睡眠も、このベットでやるんです、と彼女は語った。

「RANCHのなかにジムがあって、休憩時間はそこで汗をかいたり、同僚とゲームをしたり、映画を観たりもします。2週間の契約で働いて、少し休んでまたここに戻って来る。週に一度、火曜日の午前8時から午後1時まではオフがもらえます。買い出しに行ったり、レストランで食事をしたりと気分転換をしますね。

どれだけ働いたかで、稼ぐ額が決まるので、ほぼ24時間休みなく客をとる日もあれば、今日は少し眠ろうという日もあります。ブザーが鳴ってお客さんを見て、『よし』って同僚と一緒に並んで指名されても、要求と対価が折り合わないことも稀にあります。でも、頑張って働けば固定客も付きます」

ミアへのインタビュー中、彼女目当ての客がCHICKEN RANCHに到着し、部屋がノックされた。

「今、行きます!ちょっと待って。」と言いながら、彼女は結んだ。「あと5年は、この仕事で稼ぎたいです」

(同じ「売春宿」で働く女性たちにインタビューした後編「アメリカの売春宿で働く女性たちが明かした壮絶人生」に続く。)

  • 取材・文林壮一

Photo Gallery4

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事