アメリカの性産業で働く女性たちが明かした「壮絶人生」 | FRIDAYデジタル

アメリカの性産業で働く女性たちが明かした「壮絶人生」

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<コロナ禍、あらゆる産業が大打撃を受けている。世界一の経済大国・アメリカも例外ではないが、他の産業と比べて、その現実に光が当たらないのが性産業だ。ノンフィクション作家の林壮一氏が、コロナ禍を生きるアメリカの性産業従事者のいまを追った――。>

「オンライン性サービス」でしのいだ

前編ではネバダ州の売春宿のいまと、働き始めて3カ月という女性から話を聞いたが、次に「CHICKEN RANCH」で19年仕事をしているという大ベテラン、レクシーにもICレコーダーを向けた。

「私は長くこの仕事をしているから、相応の貯えがある。だから、14カ月に及んだ営業停止中も何とかなった。この仕事は、お金を得ようと思えば青天井なの。ミリオン稼げるからね。2週間だけの契約の子もいれば、1カ月契約を何回も繰り返す子だっている。ノンストップで24時間、週に7回働こうと思えば、それも可能なのよ。

私は、CHICKEN RANCHが閉まっていた間、休暇だと思ってリラックスしたわ。でも、固定客には会いたくなったわね。『あの人、どうしているかな』とか『このまま、疎遠になってしまわないかしら』なんて感じていた。私たちはプライベートでお客さんと電話で話すことや、店の外で会うことを禁じられている。宿へのリスペクトを欠いてはいけないから、絶対にルールを守る。だから、お馴染みさんたちとは、EmailやSNSで連絡を取っていたの。

この仕事を始めたばかりの新人の子たちは、非常に苦しい時間を過ごしたでしょうね。だから、オンラインでのサービスに力を入れていたみたい」

シングルマザーとして2人の子を養うためにこの仕事を始めたというレクシー

レクシーには27歳の息子と26歳の娘がいる。シングルマザーとして2人の子供を養うために、この世界に入った。

「私、21歳で結婚して、33歳で離婚したの。離婚を決めた頃、2人の従業員を雇って、清掃会社を経営していた。でも、なかなか上手くいかなくて……。ボロボロになるまで必死で働いたけれど、おカネにはならなかった。小学生の子供2人を抱え、自分で食べていかねばならなくなった。セックスが好きだし、オーガズムも毎日感じる(笑)。お客さんから花束を頂いたりもする。だから楽しんで仕事が出来るのよね。

それに……ノースキャロライナ州で暮らしているので、毎月『出張に行ってくるね』って子供たちに告げてネバダまで来られた。2週間働いて、また自宅に戻って、ということを繰り返した。日々の生活と、収入を得る行為を切り離して考えられた。家庭では母親であることに集中して、ネバダでは仕事をした。子供に手が掛からなくなってからは自宅にいる時間を少なくして、CHICKEN RANCHでの時間を増やしたの」

今年、50歳を迎えるレクシーは、昨年の母の日に息子からプレゼントを受け取った際、自分がいかなる方法でカネを稼いできたかを告白した。ずっと隠していることが辛かったのだ。

「息子はショックを受けていたけれど、『失望した』とは口にしなかった。『僕たちを守ってくれたんだね。素敵なママだ』って言ってくれたわ。今、軍に勤務している。

娘は私に負担を掛けないようにと、コミュニティーカレッジ(短期大学)を卒業した後、4年制の大学に入って心理学を専攻した。コミュニティーカレッジの方が学費が安いでしょう。2年分浮くことを理解して、そうしたのね。彼女は今、コンサルタントとして働いているけれど、『心からママを尊敬しています』という言葉を掛けてくれた」

レクシーには、子供たちに言い聞かせた教育方針がある。

「私が母親として子供たちに何度も説いたのは、『他者に優劣を付けてはならない』ということ。人にはそれぞれの良さがあるから、〇〇はどうだとか、××にはこんな欠点がある、なんて言うものじゃない。比較しないでいい。あなた自身も、誰かのようになりたいなんて思う必要はない。自分らしく生きることが人間には最も大事だ、と伝えたわ」

彼女の発した言葉からは、母親として出来る限りのことをしたのだ、という思いが伝わってきた。

「夢はレストラン」

次にインタビューに応じてくれたのは、26歳のスージーだった。ニューヨーク、ブルックリン出身で背の高いヒスパニックだ。彼女は2002年にケーブルTV局で放送されたドキュメンタリー番組で売春宿の存在を知る。

ドキュメンタリー番組で売春宿の存在を知ったというスージー

「まだ幼かった頃、HBOのシリーズ『Cathouse』を見ていました。へぇ、こんな世界があるんだって。父はキューバ人、母はプエルトリカンです。私はコミュニティーカレッジで観光学を専攻したけれど、母は学が無い分、いいキャリアを積むことが出来なかったみたい。貧しくてね、私が4歳半の時に里子に出されました。だから血の繋がりの無い、プエルトリカンのおばあちゃんが育ててくれたんです」

少なくともスージーを引き取ってくれた家庭には、他人の子供を預かり、HBOを観る余裕があった。

「学生時代、私は調理場で働いていましたが時給は7ドル25セントでした。週に60時間の労働をこなしても、大した金額にならないでしょう。授業にも真面目に出ていたから、午後5時から午前3時までのシフトなんかでホットドッグを作ったりしていました。HBOのシリーズを見る度に、おカネになるならこういう道で生きていこうかなって考えました。

コミュニティーカレッジを卒業した後に、売春宿で働くことにしたんです。いつまでも里親に頼っていられなかったし、自分でアパートを借りなきゃいけなかったので」

この道に入って3年です、と彼女は早口で捲し立てた。

「一年のうち、CHICKEN RANCHで働くのは、トータルで5~6カ月ですね。それで、10万ドルは得られるから、悪くないですよ」

コロナによるCHICKEN RANCH閉鎖中は、ニューヨークに戻っていた。

「ここほどの金額ではないけれど、ニューヨークのクライアントを相手にして稼ぎましたから、それほど金銭的な苦しみは無かったです。内容は…マッサージってことにしておきましょう(笑)。CHICKEN RANCHが再開した翌月には、ここで働き出していましたよ。金銭的な安定を得られるということは、人生において非常に大きいです。貯金して、いつかレストランを開きたいと考えています。私、料理が好きなんですよ。美味しい物を食べて、人々がニッコリする様子を見ることにも、喜びを感じます。

今から4年生の大学に入って、医者や弁護士を目指すようなモチベーションも無いし、家族を連れて私のレストランを訪れる方に、最高の料理と楽しい時間を提供出来たらって思うんですよね。プエルトリコ料理の店をラスベガスにオープンする夢があります。ニューヨークは家賃が高いので、こっちがいいですね」

スージーの言葉の端々からは、家庭に恵まれなかった彼女の半生が垣間見えた。

両腕のTATTOOが目立つラナ(30)は読書好きなようで、彼女の部屋には14冊の本が重ねられていた。

大学のローンがまだまだ残っていると明かすラナ

「この仕事をやり始めて、まだ3週間目なの。最初の2週間契約が終わって、今、2度目の勤務。ここに来るまでは、9時から17時まで働いて年収4万5000ドルだったから、もっと稼げる仕事をリサーチして、CHICKEN RANCHを見付けたわ」

カネにならなかった仕事って? と訊ねると、私と同じライターだと応じた。

「あなたのようなジャーナリズム的なリポートじゃないけれど、企業をPRするような文章や報告書などを書いていた。退屈だったわ。物凄くストレスを感じていた。ライティングが好きでも、なかなか作家として生きていけるようにはなれないでしょう……」

ラナの机の上には本が山積みにされていた

とはいえ、独身で子供のいない女性が一人暮らしをする際、4万5000ドルの稼ぎがあれば何とかなるのではないか。

「私、とても小さい頃に、獣医に憧れたことがある。教師だった母は、いつも教育の重要性を説いていた。世界が広がるって言ってね。本当にそう感じたわ。私も読書が大好きだったし、そのうちライティングを極めたいと思うようになった。大学院まで進んでクリエイティブ・ライティングの修士号を取ったの。

ただ、その折に学生ローンから5万5000ドルを借りて、まだ借金が残っているのよ。返すには、年収4万5000ドルの仕事じゃ厳しいわ。私にとっては大きな金額だもの。全て返却することが、当面の目標よ」

アメリカ社会における大学の授業料の高騰は、国民を悩ませ続けている。貧困家庭には進学のチャンスすらない。昨年10月に『Forbes』誌に掲載されたジョージタウン大の研究によれば、大卒者の生涯年収の中央値が280万ドルであるのに対し、高卒者のそれは160万ドル。誰もがより良い暮らしを求めはするが、空腹を満たすために目先のカネを得ようと高校を中退してブルーカラーに身を置く若者も、あるいは犯罪に手を染めてでも貧しさから逃れたいとドラッグディーラーとなる10代も後を絶たない。

ラナは学問の重要性を理解しながら成長し、大学院を出た。それでも尚、借金に苦しんでいる。娼婦たちはそれぞれが、生きる術としてCHICKEN RANCHで職を得た。

全米ランキングでAプラスに分類されるカリフォルニア州立大学サンディエゴ校の社会学部教授、ジョン・スクレントニーは「貧しい家庭の子供は、得てして学の重要性が分からないまま生きていきます。そして、高卒以下のキャリアで終わる。格差は広がるばかりです」と主張する。言い得て妙ではあるが、貧しい家に生まれた人間に手を差し伸べる策も必要ではないか。

RANCHビジネスとは、追い詰められた彼女たちにとって人生逆転の合法的な切り札であるように感じた。彼女たちは自らの言葉で己の選択を語り、コロナ禍でも動じない意志を示しながら客を迎えていた。その様に、人間としての強さを見た。

  • 取材・文林壮一

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