衝撃…!高梨沙羅を失格に至らしめた「最悪五輪」の重圧
今回の北京五輪でも、スノーボード男子ハーフパイプ決勝で平野歩夢(23)が2回目の滑走で大技「トリプルコーク1440」を五輪史上初めて成功させたが、91.75という低得点に終わった。
「ハーフパイプは審判員が演技全体の印象で採点します。今回は平野選手の技術に対して審査技量が追いついていなかった。印象による審査が物議を醸した典型例が’02年のソルトレークシティー五輪のフィギュアスケートペアのフリーです。ロシアが優勝し、カナダが銀メダルだったのですが、その後、フランスが自国のアイスダンスペアを勝たせる代わりに、フィギュアのペアではロシアを勝たせるという密約をロシアと交わしていたことが判明。
これを機に採点方法が、ジャンプなどの技に基準点を設ける現在の方式に変更されました。スノーボードはかつてのフィギュアと同じ問題を抱えている。五輪の正式種目となってから歴史が浅く審判制度が未熟と言えます」(前出・生島氏)
北京五輪でもフィギュアスケートでは理解に苦しむ「裁定」があった。ROCのカミラ・ワリエワ(15)には〝ドーピング疑惑〟が持ち上がったものの、急遽個人種目の出場が認められたのだ。
「ロシアのアンチドーピング機構が、ワリエワの資格停止処分をすぐに解除してしまったのです。そもそも、ロシアが国として北京五輪に参加を認められなかったのは、国家ぐるみの組織的なドーピングが原因でした。今回の〝ワリエワ事件〟は、ロシアのアンチドーピング機構が全く仕事をしていないということの証明です。フィギュアスケートの競技としての公平性が担保されていないのは大きな問題ですし、ROCとしての参加を認めているIOCも弱腰で、日和見主義と言われても仕方がありません」(同前)




カネに目が眩(くら)んだIOC
かねてから商業五輪を批判してきたスポーツ文化評論家の玉木正之氏は「団体競技の増加」に着目している。
「今大会からスキージャンプ混合団体、スノーボードクロス混合団体、フリースタイルスキーエアリアル混合団体が追加されました。『オリンピック憲章』には『オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない』と記されています。しかし、近年の五輪は国の対抗戦で国威を発揚させようという意図が隠れています。IOCはオリンピック憲章を忘れ、国対抗戦の構図を煽ることで、大会を盛り上げ、カネ集めに奔走しているのです」
冒頭で触れたスキージャンプ混合団体の失格者は「商業五輪」の被害者。そう語るのは、欧州在住のスキー関係者だ。
「高梨選手のスーツ規定違反は正直、一目瞭然でした。実は今回、失格になった5人は勝つために失格覚悟で違反スーツを着用していた〝常連〟選手たちです。というのも、女子ジャンプは歴史が浅い上に日本以外では人気がなく、欧州では客が入らない。スポンサーが弱く、食べていくには勝つしかないのです。関係者もなんとか競技を盛り上げなければという思いがあるので、見逃していた部分がありました。
今回の裁定に各国、怒りの声を上げていますが、正式に抗議していないのは自分たちがルール違反していたことを分かっているからです。高梨は人気選手でスポンサーを多く抱えていた。本人としては難しいと思っていても『金メダルを狙います』と言わざるを得なかった。五輪のプレッシャーは相当なものだったでしょう」
冬季五輪の抱える闇を知る由もないファンや視聴者たちは、結果だけを見て自らの正義を振りかざす。炎上し、袋叩きにされ、謝罪に追い込まれる選手たちはいったい、何に謝っているのか。
今回、北京冬季五輪が炙(あぶ)り出したのは、「スポーツの祭典」という言葉からはかけ離れたオリンピックの惨状だった。


写真:日本雑誌協会・AFLO