開戦目前ウクライナで「偽情報」を流し続けるプーチンのヤバい思惑 | FRIDAYデジタル

開戦目前ウクライナで「偽情報」を流し続けるプーチンのヤバい思惑

軍事ジャーナリスト/プーチンウォッチャー黒井文太郎の状況分析と警笛

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すべては「プーチンの手のなか」に…。専門家が指摘する危険の背景は? 写真:代表撮影/ロイター/アフロ

いよいよ緊迫してきたロシア軍によるウクライナ「恫喝」問題。ロシア軍は、本当に侵攻するのか?

ロシア側からはあたかも「侵攻はない」ことを匂わせる情報が発信されている。2月14日、ロシアは、「プーチン大統領とラブロフ外相」の会談の様子をわざわざテレビで報道。ラブロフ外相が「米国および米同盟国との協議を続けるべきだ」と進言したことを伝えた。

翌15日にはドイツのショルツ首相がモスクワを訪問してプーチン大統領と会談したが、プーチン大統領はそこで、欧米と交渉を続ける用意があることに言及した。

また、同15日にはロシア国防省が一部の演習終了と部隊撤退を発表。クリミア半島に展開していた部隊の一部が移動する様子の動画も公開した。

こうした情報だけみると、ロシア軍の侵攻は「遠のいた」ような印象を受けるが、事態はそうではない。まず、プーチン大統領の一連の発言が、実際にはまったく「姿勢の軟化」になっていない「微妙な言い方」になっていることに留意すべきだ。プーチン大統領のそうした発言は、もちろん十分に意図的に、計算して使い分けられている。

プーチンが「強気」な理由

たとえば、ショルツ首相との会談で、プーチン大統領は「交渉継続」の姿勢を示しながらも、ロシアの安全保障上の要求が「無条件の優先事項だ」と明言している。プーチン政権は、NATO不拡大の確約など、「NATO/米国側が絶対に受け入れないこと」を求めているのだ。つまりプーチン大統領は、この発言をしておくことで、後に「交渉はするが、侵攻しないとは言っていない。悪いのはロシアの要求を無視したNATO側だ」と言える布石を打っているのだ。

もちろん、国際社会においてそんな屁理屈は認められないが、ロシア側は自分たち自身で侵攻を自己正当化できればそれでいい。実際、プーチン大統領は2014年のクリミア併合でも、その後のウクライナ東部の親ロシア派武装勢力支援でも「自分たちの正当化」をもれなく行った。「ネオナチがロシア系住民を弾圧しているから救わなければならない」など、事実ではない無理やりな理屈を喧伝する。他国を納得させなくてもいい。自己正当化が目的なのだ。

プロパガンダと偽情報

したがって今回も、「プーチン大統領が妥協的な姿勢に転じた」と判断することはできない。

しかもショルツ首相との会談でプーチン大統領は「ウクライナ東部で起きていることは、ロシア市民への『ジェノサイド(集団殺戮)』だ」とも発言している。これは2014年と同じく、ロシア側が後に「同胞を救ったのだ」と侵攻を正当化する布石。もちろん要警戒だ。

今後、ウクライナ東部での局地的な軍事衝突あるいは住民が巻き込まれる攻撃・テロなどがあれば、それをきっかけにロシア軍が侵攻する可能性は高い。謀略工作を常套手段とするロシア軍なら、自作自演テロ(偽旗作戦)を仕掛ける可能性も非常に高い。実際、2月18日には紛争中の東部ドンバス地方で親ロシア勢力が幼稚園などへの砲撃を開始し、ロシア側は「ウクライナ側が攻撃をしている」とのプロパガンダを流している。

「撤退」情報は、まったくの嘘

現地のロシア軍の現状についても、ロシア側は「撤退」と発表しているものの、実際には逆に「増強」されている。ロシア軍の動きは米軍の偵察衛星や現地発のSNS情報などで確認されていて、隠しようがない。砲兵部隊の集結拠点から攻撃拠点への展開や、さらなる部隊の前線投入などの動きが次々と報告されている。

黒海艦隊は揚陸艦をも投入した演習が拡大されており、航空部隊の展開もさらに続けられている。ベラルーシでの合同演習では、ロシア軍のウクライナ国境での活動が活発化しており、国境近くの川に橋がかけられたことも判明している。

ロシア国防省の「撤退」発言の後、同15日に会見したバイデン大統領は「撤退の事実は確認されていない」「むしろ15万人に増強されている」と指摘。翌16日にはブリンケン国務長官も「撤退は偽りで、実際にはここ数日で7000人増強されている」「むしろウクライナ国境に向かって移動している」と語った。

NATOのストルテンベルグ事務総長も同日、「撤退の動きはない。むしろ増強を続けている」とロシアを非難。翌17日には、再びバイデン大統領が「数日中にも侵攻の可能性がきわめて高い」「ロシアによる自作自演攻撃もあり得る」とかなり強い危機感を表明した。

いくつもの「作戦」を準備している

もちろんこうしたロシア軍の言行不一致の行動は要警戒だが、そのうえで、「最前線のロシア軍の動き」だけで「ロシア軍の侵攻の有無」を判断するのも危険だ、ということを指摘しておきたい。

たとえば、ロシア軍の一部が後方に移動しても、兵站部門も含めて全体がロシア東部などの本来の拠点に戻っていなければ、また状況に応じてロシア軍は素早く攻撃態勢に入ることができる。

プーチン大統領は米国の対応などを見ながら、状況に応じた作戦をいくつも準備しているはずで、欺瞞としての「一部部隊の見かけ上の撤退」というパフォーマンスくらいは容易に可能だ。したがって、ほんの一部の部隊の動きだけで、過大な期待は禁物である。

実際のところ、ロシア軍はウクライナに侵攻する充分な戦闘態勢を維持しており、どんな作戦を選ぶかは、今、間違いなくプーチン大統領の手の中にある。

  • 取材・文黒井文太郎写真代表撮影/ロイター/アフロ

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