荒川静香さん「突然の笑顔」が教えてくれた五輪選手のその後の人生 | FRIDAYデジタル

荒川静香さん「突然の笑顔」が教えてくれた五輪選手のその後の人生

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北京五輪フィギュアスケート女子で、坂本花織選手が銅メダルを獲得した。スケート界のニューヒロイン誕生に日本中が感動したが、私の脳裏に浮かんだのは、あるレジェンドとの記憶だった。

そのレジェンドとは、荒川静香さんのことだ。

トリノで金を獲得後、日本で喜びの報告をした荒川静香(AFLO)

「ギリギリ」でトリノに出場した荒川選手

2006年に開かれたトリノ五輪。この大会への参加出場権がかかったフィギュアの「全日本選手権」が行われたのは、その前年、2005年の12月のことだった。日本の出場枠はわずか3枠。同選手権の上位2位に入れば、五輪への出場権を得られるだろう…という状態だった。

この選手権の結果は、1位が村主章枝選手、2位が浅田真央選手、そして3位が荒川選手だった。本来ならこの結果を受けて、村主選手と浅田選手が五輪へ出場する…はずなのだが、このとき、浅田選手は年齢制限のため、五輪へ行くことがかなわなかったのだ。選考は難航し、もろもろの協議を経て出場することになったのが3位の荒川だった。

選手権が終わり五輪出場が決まった直後に、村主と荒川の記者会見が行われた。「棚ぼた」と言っては失礼かもしれないが、「荒川はラッキーだよな」という雰囲気が記者の間に広まっていたのは事実。なかには「真央ちゃんが出場できたら、金メダルだって期待できるのに」という心無い声も飛んでいた。

実際、このとき日本選手がトリノ五輪で上位に入ると予想した者は少数派だったと思う。ましてや日本選手権で3位だった荒川が五輪で活躍するとは、ほとんどの人が思わなかったはずだ。

ところが、である。結果は皆さんご存じの通り。荒川選手は見事に金メダルを獲得し、一躍「日本の顔」となった。本当の主役は、運も味方につけ、ここ一番の勝負の時に、本領を発揮するのだと思い知らされた。

「本音をしゃべらない」と言われていたが…

さてその荒川だが、金メダルを獲る前に、記者の間ではこんな評判が広まっていた。

「彼女は本音をしゃべらないからね…」

たしかに、彼女の会見は少々退屈なものが多かった。それは、この全日本選手権後の会見でも同じだった。ところが、である。この記者会見が終わった直後、彼女は何度かの取材を通じて顔見知りになっていた私のところに近づいてきて、こういったのだ。

「私、ようやく取材記者の大変さが分かったんです」

一体どういうことか。実は彼女、04年に早稲田大学を卒業しているが、「スポーツマスコミ」をテーマに卒業論文を書いたというのだ。

「私、大学の卒論でスポーツマスコミのことについて書いたんです。それで、取材をする記者さんたちが、選手から本音を引き出すのがいかに大変なことかを、やっと理解することが出来ました」

「ああ、そうだったんだ」。突然の話に、私はこう反応するしかなかった。

「今までメディアの方々に対して、数々の失礼をしたなって反省しているんです。私は将来スポーツ解説の道に進みたいと思っていますんで、一言これまでのことを謝りたいと思いまして」

「そうかぁ~。でも失礼されたとは思っていないから大丈夫だよ。わざわざ言ってくれてボクのほうこそ恐縮するって(笑)。それよりトリノでは悔いを残さないように頑張ってきてね」

「はい、分かりました。今まで本当にありがとうございました!」

満面の笑みに、私は少々面食らってしまった。明るい表情で白い歯を見せてお辞儀をしたのを今でもしっかりと覚えている。

トリノ五輪で金メダルを獲得した彼女は、きっぱりとアマチュア競技を引退。プロに転向し、スポーツ界はもちろん、芸能界でも活躍したのはご存じの通りだ。

彼女は決して失礼だったわけでも、言葉がなかったわけでもない。ただ、フィギュアのことだけを考え続けてきたのだ。それが、卒論を書くというきっかけのなかで、自分の新たな夢に気づき、夢に向かって振る舞い方を変えた。それが記者への挨拶につながったのだろうし、「その後の夢を実現するためにも金メダルを獲りたい」という気持ちを強く持ったことで、「男女通じて初の日本人フィギュア金メダル」という栄光をつかみ取ることが出来たのではないか。

新たな夢を見つけたとき、人はこんなにも変わるものなのかと教えてくれたのが荒川静香さんだった。坂本花織選手をはじめ、今回の五輪でもたくさんのオリンピアンたちが夢をつかんだ。そしてまた、新たな夢に向かっていくのだろう。その時、彼ら彼女らがどう一皮も二皮も向けていくのか。取材記者としては、それが本当に楽しみなのだ。

  • 取材・文吉田隆

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