岸田政権の「対ロシア弱腰姿勢」が危うくする日本の未来 | FRIDAYデジタル

岸田政権の「対ロシア弱腰姿勢」が危うくする日本の未来

軍事ジャーナリスト・黒井文太郎レポート

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ドイツで行われたG7で、各国外相のセンターで記念撮影におさまった林芳正外相。だが、帰国後発表されたのは激烈な「弱腰」文書だった 写真:代表撮影/ロイター/アフロ
ドイツで行われたG7で、各国外相のセンターで記念撮影におさまった林芳正外相。だが、帰国後発表されたのは激烈な「弱腰」文書だった 写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2月21日、ロシア政府は緊急の国家安全保障会議を開催し、プーチン大統領はウクライナ東部でロシア軍の非公式支援で親ロシア派が支配している自称国家の承認を決定。さらにロシア軍を自称「平和維持軍」として同エリアに投入することを命じた。

プーチン政権の侵略行為をなんとか思いとどまらせるため、ドイツのショルツ首相やフランスのマクロン大統領がモスクワを訪問してプーチン大統領と会談したり、米バイデン大統領がプーチン大統領と電話会談したりするなど、国際社会の外交努力が続けられてきたが、そうした努力がまったくの無駄に終わったわけだ。

日本政府もまた、そうした外交努力に参加してきた。ただし、その姿勢は他の主要国とはだいぶ異なる。主要国はロシアの危険な行動を非難し、軍の撤退を要求しているのに対し、日本政府は徹頭徹尾、ロシアを名指し批判することを避けているのだ。

国際社会が必死の努力をするなか日本は…

2月19日にはG7外相会合がドイツで開催され、ロシアに対する懸念を共有した。外務省の発表によると、「ウクライナ周辺のロシア軍の増強についての重大な懸念を共有」し、「ロシアに対して、軍の撤収を実際に行うことを含め、緊張緩和に取り組むよう求める」ことで一致したという。もちろんそれには日本の林芳正外相も同意しており「ロシアに軍撤収を求める陣営」に、日本も正式に参加したことになる。

ところが外務省の発表文では、ロシアにモノ申した主体はあくまで「G7外相会合」となっており、林外相の発言についての記述には、ロシアを名指し批判するような文言は一切書かれてなかった。外務省の発表は以下のとおりだ。

「林大臣からは、現下のウクライナ情勢は、力による一方的な現状変更を認めないという国際社会の根本的な原則に関わる問題であり、欧州の安全保障の問題にとどまるものではない、日本としてもウクライナの主権及び領土の一体性を一貫して支持している旨述べるとともに、岸田総理からプーチン大統領に直接外交交渉による解決を訴えたことを紹介しました。そして、引き続きG7を始めとする国際社会と緊密に連携して対応していく旨述べました」

緻密に計算された「プーチン忖度」の理由

こうした文書は、官僚の手によって注意深く言葉や言い回しが計算されて作成される。この緻密に「ロシア非難の直接表現が盛り込まれていない文章」は、日本外務省によるプーチン政権への忖度であり、同時に、日本国内の政界の親プーチン派への忖度でもある。「日本政府はしかたなくG7に参加してはいますが、積極的にプーチン政権を非難しているわけではありません」とのアピールである。

岸田文雄首相も同様だ。岸田首相は2月17日にプーチン大統領と電話会談したが、その後の記者会見によると、首相はプーチン大統領に「平和的な解決」を要請しただけで、ロシアに「軍の撤退」は求めていない。

記者から「ロシアに対する経済制裁の話は?」との質問が出たが、「さまざまな意見交換は行った。基本は外交努力での解決」とのみ答え、米国と約束している経済制裁を明言して強くロシアに撤退を迫ってはいないことが浮き彫りになった。

実は岸田首相はプーチン大統領電話会談に先立って、2月15日にウクライナのゼレンスキー大統領とも電話会談を行っているが、外務省発表によると、岸田首相から「ロシア軍増強の動きを重大な懸念を持って注視」していることは伝えられたが、ロシアを名指しで直接批判する言葉は一切なかった。

こうした日本政府の腰の引けた対露外交の姿勢には、自民党外交部会などでも批判が高まっている。とくに林外相が、前述した岸=ゼレンスキーと同日の2月15日に、ロシア側閣僚らと日露間の経済協力を推進する「貿易経済政府間委員会」会合に出席したことが批判された。国際社会が対露制裁をどうしようかと議論している時期に、日露経済協力の閣僚級会合である。あまりに非常識であり、批判が出るのは当然だ。

「今」の弱腰が「将来」の対中外交に大きく影響する

一部の自民党議員らから、とくに懸念が示されているのは、今、軍事力による現状変更に対し毅然として異を唱えないと、将来、中国が台湾侵攻したような場合に、日本は国際社会に何も言えなくなってしまうという危機感だ。日本の国益を考えた場合、当然の懸念である。

しかも、国益毀損はそれだけに留まらない。ロシアを利すれば、中国ももちろんその主要な一画を占める「世界の民主主義や人権擁護に挑戦している反民主主義陣営」全体を利することになる。世界の民主主義陣営全体への重大な不利益であり、ひいては日本の国益を大きく毀損することになる。

この点、たとえば「中国に対抗するためにロシアを日本側に引き寄せておくのが得策」との考えも散見するが、現実をみれば、中露はともに協力して米国・G7中心の西側国際社会に打撃を与える存在であり、ロシアが中国より「米国の同盟国である日本」側につくなどということは起こり得ない。日本側の非現実的な願望にすぎない。

以上のように、今こそ日本は、国益を守る観点からも毅然とした態度を示さなければならない。れっきとした独立国であるウクライナの国土であるウクライナ東部を勝手に独立承認したり、さらに大軍を差し向けて軍事恫喝したりしているロシア政府の行為に対しては、毅然と非難しなければならない。いつまでもトラブルから逃げ回るような日本の外交は、世界の安定・安全や正義を毀損するだけでなく、日本の安全保障のためにもならない。今の日本の外交は危うすぎると言える。

  • 取材・文黒井文太郎写真代表撮影/ロイター/アフロ

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