ウクライナ開戦前夜 日本の対ロシア外交「絶望的誤ち」の元凶 | FRIDAYデジタル

ウクライナ開戦前夜 日本の対ロシア外交「絶望的誤ち」の元凶

軍事ジャーナリスト・黒井文太郎レポート

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世界中がロシアのウクライナ恫喝を懸念している。

米英独仏など主要国の首脳は、プーチン大統領に対し軍事的恫喝をやめるよう再三求めたが、プーチン政権は拒否した。今後、ロシア軍はまずはウクライナ東部に侵攻するが、そこからさらにウクライナ各地に侵攻する可能性が高い。当然ながら、西側主要国は強い非難を表明している。

日本政府の「誤り」の元凶は。今こそ、虚しい期待を捨て、忖度をやめて、事実を見るべきときだ。写真は2016年、「蜜月」風のプーチンと安倍元首相 写真:代表撮影/AFP/アフロ

日本が常に弱腰な理由は「北方領土」

しかしそんななか、日本政府だけは直接のロシア非難を回避している。岸田政権のロシアへの態度は常に腰が引けているが、それには理由がある。北方領土問題への悪影響を懸念しているからだ。

たとえば、2月17日の岸田首相とプーチン大統領の電話会談後の記者会見で岸田首相は、記者から「北方領土についての話があったか?」などと対ロシア外交の進め方について質問が出たことに対し、「日露関係について、様々な分野で関係を進展させていくことは重要であるということでは一致した」と答えている。交渉継続を重視しているのだ。

日本の主要メディア各社による報道でも、日本政府内で「交渉継続が重要なので、ロシア側を刺激したくない」との意見が多いことが指摘されている。

なお、自民党内では外交部会を中心に2月15日頃から政府の対露「弱腰外交」を批判する声が出始めているが、じつはそのような動きもごく最近のことだ。たとえば2月8日に衆議院で採択されたウクライナ情勢決議では、緊迫した事態を「深く憂慮する」とはあるものの、ロシアを名指しで批判する文言は盛り込まれなかった。反米系の野党の意向もあったが、自民党の多数も対ロシア強硬路線を回避した。自民党内の親ロシア派議員への忖度である。

日本の国益を考えた場合、今後、台湾問題などをめぐり武力による恫喝に乗り出す可能性のある中国を牽制するためにも、力による現状変更やその脅しを許さないことが重要になる。つまり、今回のウクライナの件でも、ロシアの軍事恫喝を明確に非難することが日本の国益を守ることに繋がる。

北方領土、そもそもの前提が「間違っている」

しかし他方で「ロシアを刺激したら北方領土返還が遠のく」という観点もあり、それが事実ならたしかに国益毀損に相当する。日本国民の悲願である北方領土返還の一部の実現に悪影響があるということになれば、日本政府内に「ロシアを怒らせてはまずい」との判断があるのも一理ある。

だが、それはあくまで「ロシアが領土を返還する意思を持っている」ことが前提になる。ところが、実際にはそんな事実はなく、そもそもの前提が間違っていたことは明らかだ。

日本政府は長い間、「プーチン大統領は少なくとも2島なら日本に引き渡すつもりがある」と認識してきた。安倍政権はそのため領土返還交渉を動かす目的で、日本政府のそれまでの「4島一括返還」要求から事実上の「2島先行返還」要求に方針を変えた。仮にプーチン大統領が2島引き渡し決着を望んでいるなら、その線での交渉がすぐにも動き出すはずだったが、現実にはそんな日本側の期待は「無残にも打ち砕かれた」のは周知のとおりだ。

ロシアは1島だって返すつもりはない

これについて、一部には「米露関係が悪化したのでプーチン大統領は考えを変えた」あるいは「ロシア国内で強硬な意見が増えたのでプーチン大統領もそれを無視できなくなった」といったメディア解説が散見されるが、それは日本側の単なる「想像」であって、ロシア政府周辺からはそういった「物語」を裏付ける根拠情報は一切ない。

筆者自身は北方領土返還問題をモスクワに居住していたゴルバチョフ政権時代からもう四半世紀以上も取材・追跡しており、「ロシアはこれまで一度も、1ミリたりとも、島の返還・引き渡しなど本気で考えたことはない」との見方だが、少なくとも近年は確実に、2島引き渡し意思など皆無であることは明らかだった。

(※ロシアはそもそも島の引き渡し意思はなかったとの筆者の分析については、たとえばこちらの記事を参照されたい↓)

北方領土 日本メディアが「プーチンは一度も『2島なら引き渡す』と言っていない事実」を報じない謎 (黒井文太郎)2021/2/16

今こそ、過去の誤りを認めて未来に向かうべき

プーチン政権にもともと1島引き渡しの意思もなかったのだから、交渉継続を最優先してロシア側を忖度し続けてきた日本政府の対ロ外交は、日本の国益を毀損していたことになる。したがって、日本政府がまずすべきは、「2島先行返還を現実的と認識したのは間違った分析だった」ということを認め、誤分析に至った経緯を反省し、本当の国益を考えた対露外交を再構築することである。

いちばん間違った対応は、過去に一切「誤りはなかった」ことにするため、今後もその誤った分析を前提に、誤った外交方針を惰性で続けていくことだろう。誤った分析に基づく外交方針を主導してきた森喜朗元首相や安倍晋三元首相ら自民党の大物議員・OBへの忖度や、外務省の「間違いを認めない原則」を死守するために「国の安全」を毀損することのないよう、関係者に強く求めたい。

  • 取材・文黒井文太郎写真代表撮影/AFP/アフロ

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