ロコ・ソラーレが銀メダルを獲得できた「3つの要因」
北京冬季五輪名場面 カーリング女子日本代表
快進撃を支えた「ナイスぅー」な秘話を大公開
「彼女たちをたとえるなら――負けるたびに強くなる『サイヤ人集団』とでも言うのでしょうか(笑)。『ドラゴンボール』の主人公・悟空のように、敗戦を糧にして強く、逞しく成長しました」
’10年のバンクーバー五輪に挑んだ本橋麻里擁する『チーム青森』から代表チームの取材を続けているスポーツライターの竹田聡一郎氏はそう言って目を細めた。
日本勢初の銀メダルに輝いたカーリング女子日本代表の『ロコ・ソラーレ』。前回大会の銅メダルからわずか4年でカーリング娘たちを決勝の舞台へ押し上げたものは何だったのか。竹田氏は「勝つための心の準備ができていたことが大きい」と分析する。
「最初に投げるリードの吉田夕梨花(28)は淡々と仕事をこなす職人気質。基本的には物静かな選手ですが、準決勝ではショット成功率99%と驚異的な数値を残しています。そんな彼女が決勝では、『諦めずにやっていこう!』と最後までチームメイトに声をかけ続けたと聞きました。経験を積み、視野が広がったことでメンバーのサポートができるように成長したのだと思います。
セカンドの鈴木夕湖(30)はいつも自然体でマイペース。しかし予選のROC(ロシア)戦では、勝ったにもかかわらず自分のプレーに満足できなくて号泣。普段は見せない勝負へのこだわりの強さが顔を覗かせました。サードを務める吉田姉妹の姉・知那美(30)はメンバー全体のお姉さん的な存在。『ナイスぅー』などキャッチーで前向きな言葉で、メンバーを鼓舞し続けました。彼女のポジティブさに救われた場面も多かったですね」
チーム最後の一投を担当するスキップの藤澤五月(30)も勝負への情熱では負けていない。
「ゴルフとカメラが趣味で日本酒が好きな藤澤ですが、この4年間はとにかくカーリング漬け。オフもカーリング好きな父親を連れ立って近所の競技施設を訪れ、家では他国の試合動画を研究。まさに『カーリングオタク』という感じ(笑)。圧倒的な熱量と、データに裏打ちされた経験と試合勘で、今大会でも随所でスーパーショットを披露しました」(竹田氏)
藤澤と混合ダブルスを組む山口剛史選手は「磨きがかかったコミュニケーション能力」を進化の要因として挙げる。
「カーリングで重要なのは氷のコンディションを適確に把握すること。しかし、トップ選手でも完璧に読み切ることはできません。そこで大切なのがメンバー内で意見を擦り合わせ、客観的な分析を行うこと。平昌(ピョンチャン)五輪以来、『ロコ・ソラーレ』は基本的にメンバーを変えずにやってきた。昨年秋からはカナダを中心に遠征続きで、半年以上一緒に生活していました。その中で育まれたコミュニケーション能力が今大会で輝いた。
チーム内で氷の状態の予測が確立しているからこそ、予選では出場した全10チーム中、ショット精度で日本はトップに立てた」
フィフス(5番手)としてチームを支えた石崎琴美(43)の存在も大きかった。
「石崎の役割はチームの渉外やコーチとのミーティング、『もぐもぐタイム』用の軽食手配など多岐にわたります。リザーブですから、緊急時には選手としてプレーしなければならない。五輪出場経験があり、さらに7年近く解説者として活動してきた石崎は知識も豊富。チームの精神的支柱として、これ以上ない存在でした。知那美が『1000回はラブコールを送った』というほど熱烈な勧誘を受け、’19年に正式加入。石崎というラストピースがハマったことで、『ロコ・ソラーレ』はチームとして完成したと思います」(竹田氏)
決勝後の囲み取材で、藤澤は「今後のことをしっかり考えて、次の4年間を過ごしたいなと思います」とミラノ・コルティナダンペッツォ五輪への意欲を覗かせた。悲願の金メダルへ、挑戦は続く。
『FRIDAY』2022年3月11日号より
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