秘話で振り返る「北京五輪・日本人メダリストの強さの秘密」
北京2022オリンピック 裏話&厳選フォトであの感動をもう一度
冬季五輪史上最多となる18個ものメダルを獲得した日の丸アスリートたち。歴史を塗り替えた大会で一際輝いたのは選手団の主将も務めたスピードスケート女子の高木美帆(27)だ。5種目に出場し、金メダル1つ、銀メダル3つを獲得。この大活躍には、帯広南商業高校時代に高木を指導した東出俊一元監督も舌を巻く。
【スピードスケート女子】高木美帆(27)
1000m 金メダル 500m、1500m、団体パシュート 銀メダル

「前回の平昌(ピョンチャン)五輪では得意の1500mで勝てず、悔しさが残ったと漏らしていました。今回は表情にも鬼気迫るものがありましたね。昔は感情を表に出すことはほとんどなかった。今大会に懸ける美帆ちゃんの本気を感じました」
“5刀流”の片鱗は学生時代からあった。
「高1から出られる競技には全て出場していました。私は何度も1種目に専念するように言ったのですが、『出続けることに意味があるんです。結果はどうでもいい。いまやることに意味がある』と聞かなかった。当時はわかりませんでしたが、もしかしたら10年前から、この未来が見えていたのかもしれません」(東出氏)
メダルの数だけドラマがある。感動の瞬間を厳選フォトで振り返る!
【スノーボード男子】平野歩夢(23)
ハーフパイプ 金メダル

過去2大会連続で銀メダルだった平野歩夢(23)にとって、3度目の正直となる金メダルだった。五輪では史上初となる『トリプルコーク1440』を連続成功させての文句なしの頂点。スポーツライターの矢内由美子氏が語る。
「強さの秘密は安定した滑りにあります。ハーフパイプ内での滑りを徹底して鍛え、雪の状態に左右されずに高さを出せるようになった。だから決勝の舞台でも、臆することなく大技にトライできたのです」
矢内氏によれば、’18年から始め、東京五輪にも出場したスケートボードの経験が活かされているという。
「スケートボードはボードに足を固定できないのでバランス感覚が磨かれます。これがジャンプに活きました。重心が安定しますし、何より踏み切りのタイミングが格段によくなった」
まだ23歳。伝説は始まったばかりだ。
【スノーボード女子】村瀬心椛(ここも)(17)
ビッグエア 銅メダル
現役JKスノーボーダーは決勝でも大技を連発。浅田真央の持つ冬季五輪日本女子メダル最年少記録を2年以上縮める銅メダル獲得。

【スノーボード女子】冨田せな(22)
ハーフパイプ 銅メダル
決勝では今年1月に初めて成功した大技『フロントサイド1080』に果敢に挑戦。2度目の五輪で、同種目で日本女子初のメダルを獲得。

【フィギュアスケート男子】鍵山優真(18)
シングル 銀メダル
団体 銅メダル
元フィギュア日本代表である父・正和氏と二人三脚で夢の舞台へ。ミスの少ない正確な演技で史上6人目となる300点台をマーク。

【フィギュアスケート男子】宇野昌磨(24)
シングル 銅メダル
団体 銅メダル
フリーでは4回転5本を跳ぶ自身最高難度の構成を完遂。ショートでも自己ベストを更新するなど充実の内容で2度目の五輪を終えた。

【フィギュアスケート女子】坂本花織(21)
シングル 銅メダル
団体 銅メダル
トリプルアクセルなどの派手な技はないが、スピードに乗ったパワフルな演技と完成度の高さで勝負。見事に銅メダルを勝ち取った。

【ノルディック複合】渡部暁斗(33)
個人ラージヒル 銅メダル
団体 銅メダル
ジャンプで5位につけ、得意のクロスカントリーでは早々にトップに躍り出るも最後に力尽きた。それでも3大会連続のメダルを獲得。

【フリースタイル男子スキー】堀島行真(24)
モーグル 銅メダル
超高速ターンと滞空時間の長いエアを武器に、今季W杯3勝の実力を存分に発揮。転倒により11位に終わった平昌五輪の雪辱を果たした。

【スピードスケート男子】森重 航(わたる)(21)
500m 銅メダル
小・中学生時代は練習場まで片道20㎞を自転車で通っていた。強靭な足腰による粘り強い走りを武器に、初の五輪でも快進撃を披露。

【スキージャンプ男子】小林陵侑(りょうゆう)(25)
ノーマルヒル 金メダル
ラージヒル 銀メダル

「陵侑を育てた父・宏典さんは、クロスカントリーの有望選手でした。中京大スキー部で活躍した後は、中学校の教員をしています。子供たちにかける情熱は、並々ならぬものがある人ですよ」
そう語るのは、元岩手県スキー連盟強化委員長の高橋俊彦さん(67)だ。県内の温泉地・松川温泉で『峡雲荘』を営む高橋さん。小林一家とは約30年の付き合いになる。
「陵侑の実家がある松尾村(現・八幡平市)からうちまでは車で10分。週に何度も家族で遊びに来ています。私もクロスカントリーの選手だったこともあり、宏典さんとは何度も語り合った仲です」
小林一家は、兄の潤志郎(じゅんしろう)(30)、姉の諭果(ゆか)(27)、陵侑、弟の龍尚(たつなお)(20)の4人兄妹。北京五輪に出場した潤志郎だけでなく、姉と弟もジャンプや複合の有望選手として活躍している。
「宏典さんは当初、兄妹をクロスカントリーの選手にしたかったんですよ。小学生くらいのときには、車のライトで照らしながら山道を走らせるなど、徹底的に鍛え上げた。金銭的な負担も相当あったと思いますが、まったく妥協しなかった。そのストイックさに、『あまり厳しくしすぎると競技を嫌いになってしまうよ』とアドバイスしたのを覚えています(笑)。陵侑はやがてジャンプに専念するようになりましたが、彼の強靭な足腰は幼少期に培われたものでしょう」
スキー選手だった父の情熱を背負い、陵侑は北京の空を飛んだのだ。

『FRIDAY』2022年3月11日号より
PHOTO:アフロ 共同通信 ゲッティイメージズ 日本雑誌協会