稲本潤一「42歳になっても第一線でサッカーを続けられる理由」
元日本代表MF・稲本潤一スペシャルインタビュー 『キャプテン翼』の作者・高橋陽一氏が代表を務める『南葛SC』(関東1部)に入団
「加入の決め手は、一番初めに声をかけていただいたこと。僕を必要としてくれているという熱意を感じましたし、このチームでサッカーができることにすごくやりがいを感じました。カテゴリーや契約内容はまったく関係ありません」
1月18日、『南葛SC』は、元日本代表の稲本潤一(42)の加入を発表した。『南葛SC』は東京・葛飾区をホームタウンとするサッカークラブ。前身は1983年に発足した『常盤クラブ』だが、’13年に人気漫画『キャプテン翼』の作者である高橋陽一氏(61)が後援会長に就任したのを機に、主人公・大空翼が小学生時代に所属した『南葛SC』に名称を変更したことで注目を浴びた。
現在は、関東サッカーリーグ1部に参戦しており、将来的にはJリーグ加盟を目指している。とはいえ、リーグ構成でいえば、J1を筆頭にJ2、J3、JFLと続き、関東サッカーリーグ1部はもう一つ下のカテゴリーに位置する。
稲本はこれまでワールドカップ3大会出場の経験を持ち、昨季までJ2のSC相模原でしっかりと実績を残している。そんなビッグネームの下部リーグへの参戦はファンにとってまさに青天の霹靂(へきれき)だった。
「いまJ1で僕が必要とされているかというと、正直難しいでしょう。やれる自信はあるけれど、J1のチームからしたら、42歳の僕を取るくらいなら20代の若い将来有望な子を取ります。その中でチームは現状の自分をしっかりサッカーで評価してくれた。僕のパフォーマンスが期待されていると感じました。それはすごく嬉しかった。
岩本(義弘)GMの、なんとしてもJリーグに上がりたいという想いをうかがい、スタジアムを造る計画や、この2年で二つカテゴリーを上げている勢いも含めて、すごく可能性のあるチームだと思ったんです。
もちろん、南葛SCを多くの人に知ってもらうために自分が呼ばれたという立場もわかっています。まさかフライデーさんの取材を受けるとは思ってもいませんでしたが(笑)」
現役を続ける秘訣は徹底的な自己管理
とはいうものの、稲本は今年43歳になる。歴代代表の中でも極めて身体能力が高く、頑丈で知られる稲本だが、身体の痛みや小さな怪我は日常茶飯事だという。
「酒は一切飲まないし、身体に必要のないものは極力摂取しないようにしている。夜の食事の時間、回数はこまめに決めていて、睡眠時間は最低8時間は取ります」
長年にわたる徹底的な自己管理能力と、それを持続させる強靭なメンタリティがあるからこそ現役生活を続けられているのだろう。その原動力はいったいどこにあるのだろう。
「仲間と一緒にボールを蹴って楽しめる環境がある。これが一番の原動力ですね。ボールを蹴っていたら楽しいんで。サッカー辞めて他のことやってこれと同じくらい楽しめるかって考えたら……不安になるんで(笑)。42歳になっても変わらずやれているので、いまさらそれを裏切れない。正直、何歳までやれるのか? 何歳までやりたいのか? そういうのは全然わからないです。ただ、サッカーが楽しいという気持ちは何歳になっても変わらないでしょうし、チームに求められるうちはやりたい。だから必要のないことはやらない。それだけのことなんです」
若いチームにとって、稲本の力はまだまだ必要だろう。では今年、彼はどのような貢献を果たすのか。
「ひとつはプレーの面でどれだけ戦力になれるか。その過程で自分の経験だったり技術だったりを伝えることも重要だと思っていますが、まずは試合に出てしっかり勝つということ。そして、そういう姿勢を若い選手たちに見てもらえたらなと思います。これまで自分は、誰かに何かを伝えるということはやってこなかったんですけど、そういう姿勢を見て、何か感じてもらえたらなと。そういう想いはあります」
インタビュー終了後、ピッチに立った稲本は現役大学生も含む若い選手たちの先頭を走り始めた。その背中は、
「おまえらにはまだまだ負けてない」
そう語っているようだった。





『FRIDAY』2022年3月11日号より
PHOTO:濱﨑慎治