18年最注目のCM「ハズキルーペ」はなぜ炎上しないのか

指南役のエンタメのミカタ 第2回

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産休明け最初の仕事としてハズキルーペのCMを選んだ武井咲

今年、最も話題になったCMと言えば、ハズキルーペを置いて他にないだろう。

auの三太郎でも、日清どん兵衛のどんぎつねでもなく、ハズキルーペ。一体、同CMの何が面白くて、何が新しかったのか。

予兆はあった。昨年末に公開された同CMの舘ひろしサンが出演する「親子でデート」編だ。舘サンがビルの高層階の高級レストランで、若い女性と食事している。「元気そうだな」「パパもね」――どうやら親子の設定らしいが、舘サンがエロすぎて別の意味のパパに見えてしまう。不意に窓の外で花火が打ち上がる。娘が一瞬立ち上がり、すぐに座り直すと、お尻でハズキルーペを踏んでしまう。「大丈夫、大丈夫。日本製だし」いや、そういうことじゃなくて、なんで今掛けていたハズキルーペを娘の椅子の上に置いているの!

で、いよいよ今年4月に公開された、世界の渡辺謙サンと菊川怜サンが共演するバージョンである。何やら巨大なホールで、聴衆相手に謙サンがプレゼンテーションしている。「新聞も企画書も、(文字が)小さすぎて読めない!」ステージ上で派手に紙を放り投げる謙サン。「でも、ハズキルーペを掛けると世界は変わる」――そう言って次々と同商品の利点を解説していく。菊川サンも「私も世界が変わりました」。まるでCMだ。おっとCMだった。クライマックスは「ちょっと、見ていてくださいね」と謙サンが椅子の上にハズキルーペを置くと、その上に菊川サンが座り、「わぁ!」とわざとらしく立ち上がる。「さすが、メイド・イン・ジャパン」カメラ目線でキメる謙サン。最後は菊川サンの「ハズキルーペ、だぁい好き!」と手のハートマーク。もう圧巻だ。たちまちSNSで拡散され、その異様な世界観にハマる人々が続出した。「世界の渡辺謙サンがどうしてこうなった」「菊川怜、大根すぎるだろ!」――云々。

そして現在、同シリーズは武井咲サンの主演で、実際に彼女がママを演じたドラマ『黒革の手帖』ばりに、高級クラブが舞台の最新作が流れている。言っとくが、彼女の産休明けの復帰作がこのセルフパロディのCMなのだ。いいのか?

「ハズキルーペをお店で売ります」「わぁ!」歓声を上げるホステスたち。もう、のっけからおかしい。そこに客として訪れる小泉孝太郎サン。ハズキルーペの話題になると「字が小さすぎて読めない!」と、おしぼりを放り投げて謙サンのモノマネを披露。「謙サンには内緒だよ」フルネームで呼ばないのは契約上の制約か。「おっ、新色?」「ルビーカラー」ここの艶やかな武井サンの芝居が素晴らしい。「大きく見えるね、ハズキルーペは」何やら隣の席から声。見ると、舘ひろしサンがホステスに囲まれ、ワインのラベルを覗き込んでいる。「これ、エミの生まれた年だね」「た、舘サン!?」立ち上がって驚く小泉サン。こっちは契約継続かよ! 僕らも驚く。

クライマックスはいつものアレだ。「みんな、ハズキルーペを置いて」ママの言葉に、次々とホステスたちがソファーに座り「キャッ」と驚いて立ち上がる。今回は4連投の豪華バージョン。ラストは武井ママが「ハズキルーペ、大好き」と艶やかなウインク。

圧巻である。昨今、セクハラやパワハラが原因で炎上するCMが後を絶たず、最悪打ち切られるケースも見られるが、同CMはどこ吹く風。確かに批判も多いが、それ以上にその世界観にツッコむ人々が続出、結果としてウケている。いい炎上だ。10月にはCM好感度ランキングで並みいる強敵を抑え、首位に立った。

そして、同CMでもう一つ話題になったのが、その制作体制である。なんと企画したのが、当のハズキルーペを率いるプリヴェ企業再生グループの松村謙三会長自身なのだ。CD(クリエイティブディレクター)から、CMプランナー、コピーライター、撮影ディレクター、スタイリストまで全部、会長自ら取り仕切ったという。「スポンサーの金を使って自分の好きなように作ろうというクリエイターに腹が立って」。

曰く、渡辺謙さんから『怒り』をテーマにしたいという提案をもらっていたのに、出てきた案では無視されていた、と。タレントのプロモーションビデオではなく、スポンサーが商品を売るためのCMでなくてはおかしい、と。いや、おっしゃっていることはもっともだ。

現代広告の父であるデビッド・オグルビーは、タレントや有名人を使ったCMについて、こう述べている。

「有名人は記憶されるが、商品は忘れられる」

昨今、テレビCMはやれブランディングだ、やれリーチだ(商品との距離感を縮めるという意味)などと理論武装されがちだが、やはり広告の原点はモノを売るための手段である。そこを忘れちゃいけない。事実、これら一連のハズキルーペのCMが流れて、同社は売上げを大きく伸ばしたという。

同CMがボヤ程度に炎上を抑えているのには、2つの理由がある。1つは開き直っていること。例の“お尻踏み”にしても、明らかに狙っている。日清食品のカップヌードルの『フランダースの犬』をパロったCMもそうだが、とことん振り切った演出をされると、人は逆に叩かないもの。

もう1つは、実際に商品が売れていることだ。この世界は結果がナンボ。色々言われても、商品が売れたCM以上に、この世界にクリエイティブな広告などないのだ。

ただ――最後に、僕から1つだけ忠告を。昔から物は使いようと言って、広告代理店のクリエイターも、上手く使えば、すごく役に立ってくれる。彼らは世界の最先端の広告表現に敏感だし、柔軟な思考回路も持っている。現実的なA~C案の他に、とびきりバカげたD案を持ってこいと言えば、ちゃんと考えてくれる。コツは、ソフトバンクの広告を手掛ける佐々木宏サンみたいに、クリエイター自身がトップ(孫正義会長)のコンサルタント化して、何でも話し合える関係を築くこと。

人は生涯、誰でも最低1本は名画を撮れると言われる。でも2本以上となると、やはりそこは「餅は餅屋」なのである。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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