中学生の口をふさぎ殺害…男が抑えきれなかった「異常な性衝動」 | FRIDAYデジタル

中学生の口をふさぎ殺害…男が抑えきれなかった「異常な性衝動」

ノンフィクション作家・石井光太が日本社会の深層に迫る!

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著者の石井氏が入手した加害者の直筆の手記。葛藤がうかがえる

「止めてめて、めて、めて。何でこんなことするの。何でこんなことするんよ。めて、めて、めて、こんなことめて。もう、めてって。約束が違うじゃない!」

これは、日本で初めて自殺サイト殺人として脚光を浴びた事件で、被害者が殺される間際に発した叫びである。

ネットの世界には、自殺を志望する人々が集まるサイトが複数存在する。楽な死に方を尋ねる書き込み、一緒に命を絶たないかという書き込み、未遂に終わったプロセスを記す書き込み……

殺人者は、こうしたサイトにアクセスし、自殺希望者を装って「一緒に死のう」と言って誘い出し、本人が望まないやり方で命を奪う。

この種の事件は、「自殺サイト殺人事件」と呼ばれ、国内外問わず多数起きてきた。近年の日本で大きな話題となったのは、座間9人殺害事件だろう。

日本で起きた自殺サイト殺人事件として最初に大きな話題になったのは、それからさかのぼること12年前の「大阪自殺サイト連続殺人事件」だ。犯人は前上博(当時36歳)。被害者は25歳の女性、14歳の男子中学生、21歳の男子大学生の3名。

前上は、人を窒息させて苦しめることと、白いスクールソックスに異常なほどの性的興奮を覚える人間だった。彼は小学校時代から数え切れないほどの犯行を重ね、ついには立て続けに3人の命を奪った。

逮捕後、彼がまだ発覚していなかった事件を自供し、自ら進んで死刑を受けた背景には、大きな理由があった。彼は自らの命と引き換えに、一つの問題を日本人、そして日本国家に投げ掛けたかったのである。

今回、逮捕後の前上に関する細かな資料が新たに手に入った。それを参考に、この事件の全容と、前上が最に残した問題を明らかにしたい。

劣悪な家庭環境

逮捕された前上。性衝動が制御不能となっていた

1968年、大阪で前上博は生まれる。父親は警察官で母親は専業主婦、妹が一人がいた。

前上は生まれつきの発達障害だったが、IQは128と非常に高かった。記憶力が抜群に良く、人生のいつどこで何をしたということを細かく暗記できる特性があった。障害を持つ人が何かに特出した天才的な能力を持つ「サヴァン症候群」だったのだ。

著者自身、こうした特性を持った人に刑務所や少年院で会ったことがあるが、生まれ育った環境によっては、それが大きなことをなしとげる才能にもなれば、生きづらさにもなることがあるということなのだろう。

その点、前上の家庭環境は劣悪だった。父親は警察官としては優秀だったが、毎日のように泥酔するまで飲み歩いていた。酒癖も悪く、酔った勢いで家族に暴力をふるうことがあった。

子育ては母親に一任されていたが、当時はまだ発達障害への理解も進んでいなかった。そのため、母親は前上が他の子供と異なる言動をする度に目を吊り上げ、布団叩きで殴るなどの体罰をした。逃げようとすると、線香に火をつけ、臀部に押し当てられたというからよほどだったのだろう。前上はそうした虐待の経験も端から端まで記憶してしまう。彼にとって子供時代は悪夢のようなものだったのではないか。

学校もまた、彼にとって安心できる場所ではなかった。その特性から教室でも浮いていたのだろう。友達とだけでなく、教員ともうまくいかなくなり、小学5年の担任からはこう宣言された。

「おまえのことを無視するわ」

授業中も休み時間中も、担任は彼を「存在しないもの」として扱った。担任がカメラマンをする修学旅行の写真には、前上が1枚も写っていなかったという。同級生たちも担任にならって、前上をつま弾きにした。いじめは、卒業までつづいた。

前上が異常行動を示しはじめるのはこの頃からだった。たまたま読んだミステリ小説に、犯人が麻酔薬を染み込ませたハンカチで被害者の口と鼻をふさいで失神させるというシーンがあった。前上はそのシーンを克明に記憶し、執着するようになる。

そして、いじめが激しくなった5年生の時に、道で出会った小学生の女の子に後ろから走り寄り、小説同様に手で口をふさいだ。彼は、苦しむ少女の姿に鳥肌が立つような興奮を覚えた。それ以降、前上はこの行為が自分に大きな性的満足感をもたらすことを知った。

前上は中学、高校でも同じことをくり返す。その間の犯行件数は40件以上にのぼった。公判での前上の証言である。

「悪いことだとは深く考えることはしなかったですね。中学2年の時に同級生と話をする中で、自分が感じる性的興奮が他の人と違うものだと気づきました。それでちょっと止めようと思ったこともありましたが、3ヵ月くらいすると我慢できなくなってまたやりました」

中学2年から興奮するようになった意外な物

石井氏が入手した手記の続き。加害者は事件の影響にも思いをはせている

中学2年の頃から、窒息に加えて白いスクールソックスにも興奮するようになる。それをはいた人を狙って襲っては、後で窒息させたことを思い出して自慰するのだ。

この犯行は、暴力を伴う激しいいじめを受けていた中学時代にもっとも頻繁に行われた。いじめと犯行には因果関係があったのか。

前上は、公判で次のように語っている。

「当時は学校でいじめられて、つらいことが多かったので、家に帰ってきても、すぐにそういう犯行に走るという生活をずっとつづけている状態でして、3ヵ月経ったらまたそのような生活にもどっていたような感じですね。1日に2件犯行をしている時もありました」

前上がどうしてこうした行為に性的興奮を感じるようになったのかは、彼の特性や成育歴、それに偶然の出会いなど様々なものが絡んでいる。

だが、それを実際に行動に移すかどうかは別の話だ。小学5年という早い時期から、前上が犯行に及ぶようになったのは、家庭での虐待のストレスや、学校でのいじめのストレスと無縁ではないだろう。

そんな彼にとって数少ない理解者が祖母だった。家で虐待を受けるなどした時、逃げ込むのは少し離れたところに暮らす祖母の家だったという。

高校まで多くの犯行を重ねたが、大ごとになることはほとんどなかった。この行為が彼の人生に初めて影響を及ぼしたのは、大学時代だった。

ある日、彼は白いスクールソックスをはいていた同級生に欲情し、後ろから襲い掛かって口をふさいで首をしめた。刑事事件にならなかったものの、これが切っ掛けでトラブルになり、大学を中退することを余儀なくされる。

その後、前上は建築資材の工場、トラック運転手などの仕事を転々とした。その間の7年ほどは心が落ち着いていて、犯行に及ぶことはなかった。だが、25歳になる年に郵便局で働きはじめると、職場の人からいじめを受ける。それが原因で、再びゆがんだ性衝動に駆られるようになった。

ある日、前上は同僚の身柄を拘束し、後ろ手に手錠をかけ、スタンガンを浴びせかけるという犯行に及ぶ。警察に通報され、前上は逮捕。仕事は解雇され、裁判で執行猶予付きの判決を受けた。

前上は次のように語る。

「人生でそれ以外のことはすべて覚えているのに、なぜかこの事件の時の記憶がほとんどないのです。逮捕された時のことも覚えていない。この事件をきっかけに、精神科に行くことにしました。先生は事件のことも知っていて、投薬治療ということでお薬を処方されました」

アダとなった抜群の記憶力

加害者の小学校時代の文集

天才的な記憶力を持つ前上にとって、記憶が抜け落ちるのはありえないことだったのだろう。逮捕のショックも重なり、彼は医学によってゆがんだ性癖を治そうとする。

前上は週に1度のペースで病院へ通った。ただ毎回、3時間待って3分の問診で薬が処方されたというから、さほどきちんとした治療ではなかったのかもしれない。

そんな中、郵便局の事件の被害者から、前上は1500万円ほどの損害賠償請求を受ける。彼は請求額を払わなければと思ったが、貯金はほとんどなかった。そのため、自殺すれば保険金をねん出できると考える。

手に入れたのはベストセラーとなっていた自殺のマニュアル本だった。彼はそれを熟読し、酔い止め薬120錠を酒と共に飲んだ。ところが、彼はアルコールを受け付けない体質だったため、途中で吐いて未遂に終わってしまう。

この驚くほど律儀で、かつ融通の利かない性格は、彼が抱える日常生活での生きづらさを示しているように思えてならない。

その後、前上は陸送会社でリアカー運転手をしたり、精神病院に入院したり、生コン会社で働きだしたりと、不安定な生活をはじめる。

しばらくは性衝動が影を潜めていたが、逮捕から5年が経ってまた心の中の悪魔が動きだす。彼は男子中学生に発情し、後ろから押しかかって鼻と口をふさいだのだ。この日、自宅に帰った彼はそれを思い出して自慰をした。

この犯行によって、再び歯止めがかからなくなり、犯行をくり返す。次から次に人を襲っては手やハンカチで口を塞いで窒息させ、家に帰ってからそれで自慰にふけるのだ。ちなみに、犯行の対象は、男性でも女性でもどちらでもよかった。彼にとっては「苦しませる」ことが重要だったのである。

翌年、ついに犯行を重ねた前上は逮捕される。2件の事件によって起訴され、懲役1年、執行猶予3年の判決を受けた。

社会にもどった前上は深く反省し、性衝動を何とか抑えたいと考える。この時に思いついたのが、欲望を小説にすることだった。前上の言葉である。

「高校生の時に1回自分の中の空想や妄想を小説という形にノートにまとめたことがありました。その時は落ち着いて、犯行に走るということがなかったので、もう1回同じように小説の方で性的欲求を満たすことができれば、実際に人を襲うことはないだろうと思いました」

それで彼は、自分の性癖を赤裸々に小説にし、ネットに掲載をはじめた。

だが、高校時代のようにはいかなかった。またもや彼は道で出会った人を襲いだす。そして、ゴム手袋をはめて、男子中学生の鼻と口をふさいだことで警察に逮捕。執行猶予中だったため、1年半の実刑判決を受けて、加古川刑務所に収監された。

「刑務所内ではカウンセリングも何らかの矯正プログラムもありませんでした。精神科の先生に手紙を出したところ、先生から返事があり、まあ出てきたら一緒に頑張っていきましょうという返事でした。それで治すしかないなと思いました」

前上の中には常に「性癖を治したいけど我慢できない」という葛藤があった。その葛藤を抑える術を、刑務所も病院も示すことができなかった。

そして加古川刑務所を出た後、彼は自殺サイトというものに出会い、日本を震撼させる「大阪自殺サイト連続殺人事件」を引きこすのである。

自殺サイトとの出会いと、事件の詳細は【後編・男を駆り立てた性衝動】をお読み頂きたい。

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。

  • 撮影朝井 豊

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