サイトを通じ男女3人を殺害 男を駆り立てた「性衝動の中身」 | FRIDAYデジタル

サイトを通じ男女3人を殺害 男を駆り立てた「性衝動の中身」

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若い3人の男女に手をかけた前上。異常な性衝動を抑えられなかった

日本を震撼させ、自殺サイト殺人事件を世に知らしめることになった12年前の「大阪自殺サイト連続殺人事件」。前編に引き続き、犯行に至る詳細を示したい。

【前編・男が抑えきれなかった性衝動】

白いスクールソックスを履いている人間に発情し、窒息させることで性的興奮を得る前上博(当時36)。これまで数十件の犯行に及んでいたものの、彼は被害者を死に至らしめることはしていなかった。適当なところで逃げ出し、家に帰って自慰をするのが、彼の欲求を満たす方法だったのだ。

加古川刑務所を出た直後、前上は深く反省し、自分を変えようと決意する。そして、病院へ行って性欲を抑える薬の処方を頼むなどして、なんとか性的衝動を抑えようとしていた。このままいけば、悲劇が待っていることを彼が一番わかっていたのだ。

だが、治療の甲斐なく、性衝動は膨らむばかりだった。前上は性欲がなくならないのならば、相手と同意の上で窒息プレイをすればいいのではないかと考えつく。ネットでSM系の出会いサイトにアクセスするようになったのは、それからだ。だが、望んでいたような相手を見つけ出すことはできなかった。

彼は、公判でこう語っている。

「SM関係のネットには、(窒息プレイを求める人が)いることはいるのですが、襲われる対象が、どうもガタイの大きい筋肉マンでないとダメだという人が多かったのと、あと襲われた後にどうも薬物を使用してくれという書き込みがたくさんありましたので、せっかく刑務所に入りたくない一心でやっているのに薬物事犯で捕まるのも、と思って連絡とらずじまいでした」

自殺サイトで知った現実

この種のゆがんだ性癖を持つ人間の中には、薬物を使用してでも欲求を満たしたいと思う人もいるかもしれない。

だが、前上は発達障害もあってそのようには考えられなかった。それが彼の不器用さともいえる。そして、その特性が彼をさらに深い沼地に引きずり込むのである。

SMサイトでの出会いに失敗した前上は、一旦は自殺することを思い立つ。このまま死んでしまえば、性衝動に悩まされることはない、と。

彼は自殺に失敗した経験があったため、今度はマニュアル本ではなく、自殺サイトへ行って情報を得ようとした。

自殺サイトにアクセスしてみると、多くの人が詳しい情報をやりとりしていた。だが、そこで知ったのは、必ずしも自殺がうまくいくとは限らないという現実だった。

たとえば、一般的に車での練炭をつかった自死が楽な方法と言われることがある。だが、体験者の中には、やってみたところ、苦しさのあまり、無意識のうちにドアを開けて、未遂に終わった人もいるらしかった。

前上はだんだんと自殺に希望を見いだせなくなる一方、自殺サイトを通して、死にたい人ってこんなに大勢いるんだ、と考えるようになる。

むろん、自殺サイトにアクセスする人の中には、死にたいと口にしても本音はそうではない人や、からかい半分の野次馬根性の人もいるだろう。だが、視野の狭い前上には、全員が全員、死を望んでいるように思えた。

そこで前上は最悪の結論に出てしまう。

――ここのサイトに集まっている人たちは死にたいんだ。だとしたら、それを手伝うことで、僕が性的な満足感を得てはどうだろうか。

性衝動を抑えたくても抑えられない、死にたくても死ねない。前上は裁判で「苦しまぎれに犯行を思いついた」と話したが、狭い考えの中で、そこへ向かうしかなくなっていたのだろう。そしてついに最悪の犯行に及ぶ。

ICレコーダーで一部始終を録音

最初の犠牲者は、25歳の女性だった。前上は自殺サイトに出入りしていた彼女と知り合い、メールを交換する。信頼関係を築いたところで、「一緒に練炭自殺をしよう」と持ちかけると、彼女から了承する返事が届いた。

後日、前上はレンタカーを借り、ひと気のないところへ連れて行った。そして車の後部座席で彼女の手足を縛り、口を塞いだり蘇生させたりしながら、何度も苦しませた末に命を奪った。この時、彼はICレコーダーを持ち込み、一部始終を録音していた。後で思い出して自慰をするのが目的だった。

2回目の犯行は、3ヵ月後のことだった。次にターゲットにされたのは、14歳の男子中学生だった。この中学生は、学校でいじめに遭っていたことから、自殺サイトにアクセスしているうちに、前上と知り合った。

前上は同じように彼を信頼させ、呼び出す。そして最初の女性と同じように手足を縛ってから、何度も窒息させた末に死に至らしめた。

最初の犯行と異なるのは、前上がICレコーダーに加えて、カメラを持ち込んで撮影していたことだ。それを、後で自慰をする時の道具にしようとしていたのである。

3回目の犯行はさらに時期が短く、わずか1ヵ月後だった。犠牲となったのは、21歳の男子大学生。こちらも他の犠牲者同様の手口で呼び出された上、殺害されるところをビデオに撮られるなどした。

事件が明るみに出たのは、3回目の犯行から約2ヵ月後のことだった。

最初の犠牲者である25歳の女性の遺体が発見されたのだ。警察は通信履歴などを分析し、前上を突き止めた。

警察署へ連れて行かれ、取り調べを受けて間もなく、前上は犯行を自供した。警察が驚いたのは、この後だ。女性の殺害を認めたと思ったら、いきなり他にも2件の殺害事件を起こしていると自ら供述しはじめたのである。

自らの罪を重くした理由

なぜ前上は、自らの罪を重くするようなことを証言したのか。その理由についてこう語っている。

「もう、やってしまったことは責任を取らなければならないと。それと、すべてを正直に話して、3人も殺してしまってますから、間違いなく死刑になるであろうと。そういう形で幕引きをしたかったというのが正直なところです。

こういう自分で自分が止められないということにピリオドを打ちたかったということです。事件について責任を取るということもそうですし、自分で自分を抑えられないということに幕を引きたかったんです」

裁判の中で、裁判官から「妄想するのと、実際に殺害するのとでは、かなりギャップがあると思わないか」と尋ねられた時、躊躇なく「そんなになかった」と答えている。殺人に対するハードルが低くなったことを自分でもわかっていたのだ。

だからこそ、3人を殺害した彼は、もはや自分の力では暴走を止めることができないと思っていた。それで死刑という形で幕引きをするしかないと考えたのである。

また、彼はこうも言っている。

「家族(遺族)が死刑を望んでいるなら、そうなろうと思いました」

多くの悪人は、死刑になるほどの重罪を犯しても、なんとか罪を軽くしようとしたり、死刑執行までの日を引き延ばそうとしたりする。

しかし、前上は真逆だ。このあまりに率直な思考も、彼の特性に基づくものではないか。

事実、一審の裁判で死刑判決が出た後、前上は控訴審で減刑を求めて闘うことを望まなかった。一審の死刑判決を受け、すぐに執行されることを望んだのである。それは彼の覚悟が言葉通りのものだったことを物語っている。

ただし、彼は死刑判決が出た後、あることを行っている。精神鑑定をきちんと受け、なぜ自分のような殺人鬼が生まれてしまったのかというメカニズムを明らかにしたいと思ったのである。そして精神鑑定で有名な長谷川博一(臨床心理士)の精神鑑定を受けてから、死刑を受けることにする。

長谷川の著書『殺人者はいかに誕生したか』によれば、前上は鑑定を受けるにあたって次のように述べていたという。

「ボクを徹底的に調べてください。ボクのような犯罪者が生まれないために、先生の研究に役立ててください」

彼は、自分の狂気がなぜ生まれたのかを明らかにし、再犯予防につなげることが、自らの最後の使命だと考えたのだろう。

こうして前上は精神鑑定を受け、死刑判決が下されてからわずか2年という短期間で執行されることになる。

現在の刑務所では、昔とは異なり、性犯罪者に対する矯正プログラムが行われるようになっているし、民間でも性犯罪を抑制するための新しい治療や、自助グループの活動が広がりつつある。

私も犯罪者への取材だけでなく、そうした予防や更生の現場を数多く取材してきたが、性犯罪の再犯を防ぐのはことのほか難しいと言わざるをえない。それは前上のように自ら抑制したくても抑制できないという状況があるからだ。

前上が残した問いは、今の日本で起きている様々な性犯罪にも通底するものだ。犯罪者を罰するのは当然だ。矯正プログラムを受けさせるのも当然だ。出所後の監視も必要かもしれない。ただ、それ以外に、この病理の解明と矯正について取り組んでいかなければならないだろう。

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。

  • 撮影朝井 豊

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