対プーチンで「米国とEUの対応」に温度差がある決定的な理由 | FRIDAYデジタル

対プーチンで「米国とEUの対応」に温度差がある決定的な理由

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世界中から非難を受けているプーチン大統領(AFLO)
世界中から非難を受けているプーチン大統領(AFLO)

3月4日、ウクライナ南部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所がロシア軍の攻撃を受けて占拠された。原子炉自体に対する攻撃は確認されていないが、発電所内研修棟で火災が発生。稼働中の原発施設が軍事攻撃の対象となったのは人類史上初めてで、ジュネーブ条約に違反する暴挙だ。

一歩間違えれば、放射性物質の飛散や炉心融解(メルトダウン)を招いた危険性があり、1986年のチェルノブイリ事故が再来するのかという「ウクライナ黙示録」の悪夢に、世界は震撼した。

2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、当初想定されたよりも露軍が苦戦している戦況が伝えられているものの、ロシアは支配地域を着々と拡大しつつある。今回の侵攻に対して、欧米各国は国際決済システムSWIFTからの露大手銀行排除や、プーチン大統領や側近、オリガルヒ(新興財閥)関係者の個人資産凍結などの経済制裁措置を発動するとともに、直接的なウクライナ支援策として、武器や資金の提供を始めている。

特にEU(欧州連合)では、安全保障政策の一大転換を伴う積極支援が行われており、フォン・デア・ライエン委員長は5億ユーロ(約628億円)の資金提供を表明。そのうち4.5億ユーロ(約565億円)分は兵器の調達資金で、EUとして史上初めて紛争下の域外国に武器資金を提供することになる。ドイツのショルツ首相も、対戦車砲と地対空ミサイルをウクライナに提供するとともに、独軍増強のために今後は対GDP比2%以上を国防費に充てることを決めた。

これに対してアメリカは、3.5億ドル(約402億円)の資金・武器援助を決めているものの、直接的な軍事介入は早々に否定。3月1日の一般教書演説でバイデン大統領は「Go get ’em.」(彼を捕らえろ)と気勢を上げたが、同時に「米軍はウクライナでのロシア軍との紛争に関与しない」と明言している。

こうした欧州と米国の間に見られる温度差について、前駐日デンマーク大使館上席戦略担当官で欧州情勢に詳しい北島純・社会情報大学院大学特任教授はこう解説する。

「前提として地政学上のリスクがEUと米国では異なります。ウクライナと地続きのEUとしては、『ウクライナが陥落したら次は旧ソ連を構成した東欧諸国だ』という切迫した危機感があります。

アフガン撤退における失態の記憶が生々しい米国は、核保有大国ロシアと事を構える軍事介入には及び腰で、11月の中間選挙を控えて国内インフレに苦しむバイデン政権は、EU側に広まる衝撃を理解こそすれ、一線を引く構えです。

シェールオイル産出大国である米国と異なり、EU諸国はロシア産天然ガスの輸入に大きく依存しています。エネルギー供給戦略の観点からも、一日も早い停戦合意がEUにとって死活問題になっています」

プーチン大統領は3月3日、マクロン仏大統領との電話会談で、「非ナチ化と非軍事化」によるウクライナの中立化要求を改めて強調した。「非ナチ化」というのは、ゼレンスキー政権が東部地域の親露派住民を「虐殺」しているというロシア側の一方的な主張で、ゼレンスキー政権の排除を意味している。

「ウクライナ危機でもう一つ重要なポイントは『人間の尊厳』(human dignity)という概念です。ナチスによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を直接経験した欧州にとって『人間の尊厳』は不可侵で、諸国の憲法が保証する『人権』を支えるファンダメンタルな価値と言うべきものです。

米国の外交政策でも人権は重要視されますが、EUにとって今回のロシア侵攻は『人間の尊厳』を蹂躙するものとして深い危機感をもって理解されています」(前出・北島特任教授)

ウクライナからの避難民に対する人道的支援の輪が広がっている。しかし、プーチンの仕掛けた戦争が、米国とEUとの「温度差」を見透かして、米国とNATO(北大西洋条約機構)の軍事介入がないことを前提にして計算されたものだったとしたら……。

NATOはあくまでも米国が主導する軍事同盟の枠組みだ。EU加盟国のみから構成される常設軍(EU軍)は未だ欧州には存在しない。果たしてEUはプーチンの野望を挫くことが出来るだろうか。

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