規制撤廃から1ヵ月「感染者多数でも問題ナシ」デンマークの仕組み | FRIDAYデジタル

規制撤廃から1ヵ月「感染者多数でも問題ナシ」デンマークの仕組み

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コロナはもはやインフルエンザと変わらない扱い!? 

2月1日にデンマーク政府がコロナに関する規制を全面撤廃してから1ヵ月、現在のデンマーク人の生活や街の様子を現地で通訳・コーディネーターを務めるウィンザー庸子さんに聞いた。

「デンマークでは、コロナはもはやインフルエンザと変わらない扱いです。『感染した』と聞いても、『お大事に』というだけで、特別な病気という感じではありません」

3月2日現在、デンマークで3回目のワクチン接種を受けた人は約61%。65歳以上の94%。

だが、メッテ・フレデリクセン首相が規制撤廃の記者会見を行った1月26日は、1日の新規感染者が過去最多の5万3000人超。デンマークの人口は約590万人だから、日本に当てはめると1日に100万人が感染していたことになる。

「デンマークでは、もはや『コロナに感染したことがない』という話をほとんど聞かないくらい、相当数の人が感染しています。私自身も、私の家族も感染しました」

庸子さんが感染したのは、昨年のクリスマス。息子さんが合唱クラブに入っていて、教会でクリスマスコンサートを開いたときのことだ。コンサート自体はオンライン視聴で行われ、教会に集まったのは、合唱に参加する子どもと手伝いに来た大人、総勢20人程度。3日以内に抗原検査をして、陰性証明を得てから参加することが条件だった。

「けれど、検査をすり抜けた人がいたようで、まず息子が感染し、そのあと順番に家族が感染しました」

大丈夫だったのだろうか?

「私は1日だけ、ちょっと起きるのがつらく、息子は頭が痛いと言っていましたが、1日で回復しました」 

すでに感染して免疫をもっている人も多く、3回目のワクチン接種率も高かったので、たとえ感染しても重症化しないという思いから、規制撤廃に反対する声は聞かれなかったという。もうコロナ前の日常に戻ってもいいと言われた2月1日には、 

「ショッピングセンターに行ったら、マスクをつけている人はほとんどいない。お店の人はお客様への配慮でつけているかと思いましたが、つけている人はいませんでした」 

重篤化リスクのある人向けやシーンでの一部規制は残っているものの、デンマークではすっかり日常が戻ったようだ。

フレデリクセン首相は、ワクチンを「強力な武器」とし、ワクチン接種が進むなか、「コロナウイルスは社会を脅かす病気ではない」と規制撤廃を決めた(写真:アフロ)
フレデリクセン首相は、ワクチンを「強力な武器」とし、ワクチン接種が進むなか、「コロナウイルスは社会を脅かす病気ではない」と規制撤廃を決めた(写真:アフロ)

テレビでもコロナに関するニュースは、ほとんど聞かない

日本ではデルタ株が蔓延したとき、自宅で亡くなる方も出た。オミクロン株が流行っている今、コロナ以外の病気の人も入院がむずかしくなったこともあった。デンマークでは、病床がひっ迫するということはなかったのだろうか。

「デンマークの人口は兵庫県とほぼ同じ。国土の大きさは九州くらいです。国が小さいせいか、大きな病院は多くありません。家庭医の制度が普及していて、病気になったら、まず家庭医に診てもらい、必要があれば紹介状を書いてもらって、総合病院に行きます。 

総合病院にはコロナに対応する科がありますが、そもそもコロナに感染しても病院には行きませんでした。 

基本は自宅隔離。自宅が隔離に適していない場合は、市に指定されている隔離ホテルに行きました。デンマークでは亡くなった方も多いので、自宅隔離中に亡くなった方もいたかもしれませんが、社会問題にはなりませんでした」

ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターの調べによると、規制撤廃されてから1ヵ月経った3月3日現在でも、1日の新規感染者は約2万458人、新規死亡者数は37人。東京都の人口はデンマークの約2倍。東京都に当てはめると新規感染者は4万人ということになる。2月15日から17日の3日間の新規感染者は4万人を超えていた。

それでも病院への入院者数や集中治療室の患者数が減ってきたとして規制は撤廃されたままだ。

「デンマークでは、コロナは終わったというとらえ方をしていると思います。テレビのニュース番組でもコロナに関するニュースは、ほとんどなくなりました。 

2月の2週目に冬休みが1週間あって、スキーに出かける人が多いのですが、デンマークには山がないので、ノルウェーやスウェーデン、イタリアやフランスに出かける人も多くいました。 

レストランはどこも混んでいて、もうだれもコロナを気にしていないように思えます」

これも多くの人が感染して免疫をもち、3回目のワクチン接種を終えているからだろうか。

「デンマークでは、『コロナパス』というデジタルツールを使って、ワクチンを接種していない人は抗原検査で陰性か、2回のワクチンを接種していなければ、レストランに入れなかったんです。 

それが3回目のワクチン接種が始まって、3回接種を受けないとコロナパスが使えないことになりました。コロナパスがないと、学校の保護者面談もできない。2回目までは、感染するのが怖い、人にうつしたらいけないという気持ちでワクチン接種をしていましたが、3回目はコロナパスがないと不便だから接種するという感じでした」 

もはや「コロナは怖い」という感覚はないというのだ。

「こんなにのんきでいいのかと思いますけど(笑)」 

各地でロシアのウクライナ侵攻に反対するデモが。「ニュースでもコロナ関連はほとんどなく、今はウクライナがトップニュースです」
各地でロシアのウクライナ侵攻に反対するデモが。「ニュースでもコロナ関連はほとんどなく、今はウクライナがトップニュースです」

先の見通しと対策をつねに示す政府に厚い信頼

規制撤廃の記者会見をしたとき、フレデリクセン首相は、この先1年の見通しを3つのフェーズに分けて示した。

【フェーズ1:2月1日~】基礎疾患などで免疫力が低下している人に4回目の接種を勧める。3回目接種から3か月以上過ぎている人に4回目のワクチン接種を勧める(対象者はすでに1月中に4回目接種の招待状を受け取っている)。

【フェーズ2:春から初秋】祭りやフェスティバルなどの実施。

【フェーズ3:秋から冬】新たな変異株が登場する可能性があり、場合によってはすべての人がワクチンの4回目を接種する。

実際、すでに免疫力が低下していると思われる3回目接種から3ヵ月以上過ぎている市民には4回目接種が推奨され、日本の“ワクチン接種券”にあたる招待状も送られているという。

デンマークの人々がのんきでいられるのは、政府が先を見通し、それに対しての対策を、つねに国民に示しているからだろう。

デンマークは、ヨーロッパでもいち早くワクチン接種に踏み切り、近所で気軽に抗原検査ができる。3回目のワクチン接種が素早く行えたのも、抗原検査のキットやマスクが不足しないのも、政府が先を見通して手を打っているからだと考えられている。検査キットが不足して、右往左往するどこかの国とは大違いだ。

「確かに政府に対する信頼は厚いと思います」

まん延防止等重点措置が延長された日本。デンマークのように日常が戻るのはいったいいつになるのだろうか。

「日本は欧米に比べて、ずっと感染率が低い。正直、私たちヨーロッパで暮らす人間から見ると、そんなに状態は悪くないのに、慎重すぎるくらいだな、と。特異な感じがします。もうそろそろ緩めてもいいのではないでしょうか」

先を見通す力。これさえあれば……。

ウィンザー庸子 デンマーク公認ライセンスガイド・通訳・コーディネーター。デンマーク人の夫、中学校1年生と、4年生の男子と、3歳の女の子の5人家族。デンマークの教育や生活、働き方、制度やデンマーク人の考え方について「北欧デンマーク通信」を発信している。

ウィンザー庸子さんの「北欧デンマーク観光・プライベートガイド」の案内はコチラ

  • 取材・文中川いづみ写真アフロ

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