ウクライナ侵攻 プーチンが握っていた「ヤバすぎる6つの選択肢」 | FRIDAYデジタル

ウクライナ侵攻 プーチンが握っていた「ヤバすぎる6つの選択肢」

ロシア侵攻の予測的中!〜黒井文太郎レポート

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<ロシアのウクライナ侵攻から2週間。この戦争には「終わりの形」が見えない。国際情勢の定石が通用しないからだ。多くの「専門家」が、「侵攻はありえない」と予測したなか、黒井文太郎氏は「侵攻の現実的可能性」を指摘してきた。「プーチンの行動は予測困難だが、彼の狙いは言動から推測できる」と主張する軍事ジャーナリストが分析した「この戦争」のシナリオを今いちど読み返してみたい。>

世界中が猛抗議を続けるなか2週間、プーチンの戦争は「終わりの姿」がいまだ見えない(AFLO)
世界中が猛抗議を続けるなか2週間、プーチンの戦争は「終わりの姿」がいまだ見えない(AFLO)

「なにを狙っているか」は推測できる

さまざまな推測が連日、報じられているが、どんな決断をするにせよ、それを下すのはプーチン大統領だ。彼の腹の内は他人にはわからない。だが、プーチン氏本人あるいは政権要人の言動から、将来的に「狙っていることの範囲」は推測できる。

ロシアが今やっているのは、軍事力で脅して他国をコントロールしようということで、国際社会から非難を受けかねないことだが、それに対して彼らは必ず自己正当化する。その自己正当化の言動を前もって公言し、布石とするのだ。

戦争を始めた理由付けは

たとえば2014年のクリミア併合と、それに続くウクライナ東部のドネツク・ルガンスク両州での親ロシア派蜂起工作では、「ロシアの同胞を救う」というレトリックを使った。そのエリアに多く住むロシア語話者を「同胞」と見なし、現地で弾圧・迫害されているから助けるのだという理屈だ。当時、ロシア語話者の住民たちが組織的に弾圧されたという事実はないが、ロシア側はそうした理屈を立てて軍事介入を自己正当化したのである。

そうみると、今回、前面に押し出しているのはNATO不拡大の保証の要求だ。「責任は先にどんどん拡大したNATOであり、それによってロシアは安全保障を脅かされた。ロシアは正当な要求をしているだけだ」というロシア独自の理屈である。

たしかにNATO参加国は増えており、ロシアの安全保障に脅威となったのは事実だが、そこはもともと「各国の独自の決定」がある。他国の政策を軍事力で強引に強制することは正当化できないが、ロシア側はそれを正当化しようとしているわけだ。

そんな不当な要求を、NATOも米国もウクライナも呑めるはずもない。実際、米国は1月26日に正式に拒否回答したが、そこで注目されるのは、2021年12月21日にプーチン大統領が布石として発していた言葉だ。

「欧米が明らかに敵対的な路線を続けるのであれば、われわれは相応の軍事的対抗措置を取り、非友好的な行動には厳しく対応する」

これは、ロシアの要求を拒否すれば「欧米側のせいにして侵攻もあり得る」との警告にほかならない。

ロシアの「自己正当化」は磐石

実際、1月下旬の時点で、ロシア各地から集めた10万人以上もの実戦的な部隊の展開規模は、冷戦終結後は他に例のないレベルのもので、すでに軍事作戦の準備はできていた。プーチン大統領が決断すれば、言葉どおりに「軍事的対抗措置」と称して侵攻できる状態だったのだ。

ただし、今回はNATO拡大阻止が公言した政治的目標だとしても、それだけでロシアのウクライナ介入は終わらないとみるべきであろう。プーチン政権はそれ以上の行動の自己正当化の布石をすでに打っているからだ。

ウクライナを衛星国家に

2021年7月にプーチン大統領本人が発表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と題した論文がそれで、そこで彼は「両者は同じ民族」だと論じ、欧米の介入を非難している。これは「ウクライナはロシアの縄張りだ」と宣言しているに等しい。

つまり、プーチン大統領は単にウクライナ国内のロシア語話者を守るとか、ウクライナのNATO加盟を阻止するとかを超えて、ウクライナ全体を衛星国化することを正当化する布石を打っていたのだ。いきなり一気にということではなく、段階的な目標かもしれないが、仮にウクライナ全体の衛星国化が実現すれば、プーチン政権にとっては利益は大きい。

ロシアは西側との間にベラルーシとウクライナを置くことで自国の安全保障を強化できるが、それだけではない。プーチン政権にとっては西側から人権意識や民主主義がロシア国内へ波及することこそ大きな脅威だが、それもこれらの国々を間に入れることでブロックできる。さらにロシア人のナショナリズムも満たせて、プーチン大統領の人気も上がるだろう。

こうしたことを勘案すると、仮に今回、ウクライナがロシア軍に屈して中立化を約束したとしても、ロシアはさまざまな工作で親ロシア派政権の樹立と、その支配強化に突き進む可能性がきわめて高いとみるべきだ。

ウクライナ軍の意外な「強さ」に

いずれにせよ、今後のロシアの行動を決めるのはプーチン大統領だ。軍事的にはほぼすべてのオプションが準備されている。バイデン大統領は早々と米軍の軍事介入を公式に否定しており、ロシア側はウクライナ軍だけを相手にすればいい。NATO展開部隊が周辺国に展開するだろうが、NATOはウクライナ防衛戦には動かない。つまり、ロシアにとってのリスクは大きくないのだ。

ただ、ウクライナ軍も20万規模の戦力がある。ゲリラ戦ともなればロシア軍にも多大な犠牲が出る可能性があり、そうなればプーチン大統領の責任となる。また経済的な損失ももちろんマイナス要因だ。

だが、ここまで大きな要求を出し、自己正当化を喧伝し、実際に可能な軍事作戦オプションが多数揃えられた状況では、プーチン大統領が「ブラフだけで何もしない」わけはない。チェチェン、ジョージア、クリミア、シリアなどでの過去の実績をみると、彼は「やれる」と判断した選択には躊躇がない。

おそらく今回の侵攻は、プーチン大統領の頭の中では前から決まっていたと思われるが、その決断をするうえで、その結論を知らされていない軍当局からは、いくつもの作戦計画案が提示されていたはずである。具体的な侵攻作戦については、それらの中からプーチンが指示したものが実行されたということだろう。

6つの可能性すべてが実行された

開戦前、プーチンに可能だったオプションを列記する。

①軍事的圧力だけで妥結。ドネツクとルガンスクの両人民共和国の完全自治、ウクライナの中立化保証などがロシア側の最低ラインか。あるいは軍事的圧力を背景に秘密工作で親ロシア政権樹立を画策。

②同胞を守るとしてドネツクとルガンスクに軍事介入。これまで控えてきた独立承認の可能性も。そこからさらに両州のウクライナ支配側への段階的侵攻もあり得る。

③さらにロシア語話者が多数の地域に侵攻。オデッサ封鎖、アゾフ海沿岸を攻略してドネツク・ルガンスク両人民共和国とクリミアの回廊打通、さらには大都市ハリコフの包囲・制圧なども

④首都キエフ爆撃、包囲、侵攻

⑤ドニエプル川以東を広く侵攻

⑥クリミア、沿ドニエストルからも含め、一斉にウクライナ全土侵攻

以上、③以下は長期駐留と短期撤退があり得るが、⑤⑥はロシア軍の負担や犠牲も多くなるので、少なくとも長期駐留は難しいとみられていた。

ロシア側の政治的リスクを考えると、選択が容易なのは①②だったが、それもウクライナ側の強い反発により、戦闘はエスカレートした。

④⑤はリスクがきわめて大きく、決断のハードルは高いが、軍事的には可能な作戦で「絶対ない」とタカを括ってはいけない、と指摘してきた。そしてそれは実行され、凄まじい数の民間人の犠牲者が出た。今後も状況は激変する。展開はまったく読めない。

国際社会が「まさかここまでは」と思っていたことが、つぎつぎに現実となっている。今後の展開は、いずれにしても、すべてはプーチンの決断ひとつなのだ。

*この記事は、2022年1月29日に公開した「開戦カウントダウン…プーチンのウクライナ侵攻『6つの選択肢』〜黒井文太郎レポート」を再構成したものです

  • 取材・文黒井文太郎

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