在留ウクライナ邦人の決意「私がこの国で情報発信を続ける理由」 | FRIDAYデジタル

在留ウクライナ邦人の決意「私がこの国で情報発信を続ける理由」

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西へ避難する人々でごった返すキエフ中央駅

「ドーン、ドーンっていう爆撃の音がしばらく続き、終わると街がシーンと静まり返るんです。音が結構大きい時もあって、近づいてきているんじゃないかなと思います。先日、キエフ中央駅の近くに落ちた2発はものすごく大きかったです。キエフには今、車も走っていないし、人も歩いていません」

ロシア軍による空爆が激化し、ゴーストタウンと化したウクライナの首都キエフ。日本時間3月8日の夕方、そんな街の様子を語ってくれたのは、ウクライナ在住13年で、国際結婚相談所を営む高垣典哉さん(56)=大阪府出身=。現在、キエフ中央駅の南西約1キロのアパートに1人で暮らし、YouTubeチャンネル「ウクライナ情報局」から日々、戦禍の状況を配信している。視聴者からの質問に答えるライブ配信も数日おきに続けている。

在ウクライナ日本国大使館からはすでに退避を勧告されたが、高垣さんは従わなかった。ウクライナ人の内縁の妻(30)と息子(2)が、近くの実家で家族と一緒にいるためだ。

「妻の父親が半身不随で寝たきりなので、ここにとどまりたいと頑として譲りません。最近、爆撃による破片が当たって子供が亡くなったニュースを見ましたが、自分の息子が同じ目に遭ったらと思うと本当に心配です。今すぐに息子だけでも連れ出したい衝動に駆られますが、『あなただけ逃げたら?』と妻に言われて喧嘩になりました」

そんな家族の事情もあるため、高垣さんは、アパートの1室にこもり、動画配信を続けている。8日のライブ配信では、退避をめぐるそんな妻とのやり取りも語った。

「ウクライナ情報局」が配信を開始したのは、ロシア軍が全面侵攻する3日前の2月21日。初回は「キエフでインタビュー ウクライナの真実!!」というタイトルで、戦争勃発の可能性について街の人々に聞いて回るのだが、動画に映る高垣さんは時折笑顔を見せ、その姿には緊張感がなかった。ロシア軍が全面侵攻した24日には車でキエフの中心部へ行き、郊外へ退避する車が渋滞する様子、地下鉄の駅構内を案内するなど、まだ表情には余裕があった。

ところが25日深夜に銃声が鳴り響く。

高垣さんはアパートから屋外を撮影し、その緊迫感を実況中継した。

「すごい音がしています。やべえこれ。うわー。すぐ近くに陸軍の学校があるんですよ。そこが狙われたんかな。今ロケットみたいなのが上空をボンボン飛んどったね」

夜空に光の筋が走った。

26日午前0時には街にサイレンが鳴り響く。

「ええっとサイレンが鳴り出しました。すごい煙の臭いがする。火事の時の臭いがしますよ。やばいなこれ本当に。これどうしたんや、やべええ。これは寝てられへんわ」

関西弁で解説する高垣さんの声には、焦りと不安の色がにじんでいた。その3時間後の午前3時前には爆音が轟く。「ドーン」という音が響き渡り、夜空が赤く光った。

「この真正面のアパートの向こう側ですね。めっちゃ音が近い。向こう側で光っていますね。すぐ近くまで来ているみたいです」

街の様子も一変した。

飲食店は閉鎖され、銀行のATMには行列ができ、スーパーでは買い占めが起きた。高垣さんも食料がなくなり、カップ麺だけで凌ぐ様子も配信した。

「ウーバーイーツの出前も全部できない状況になっています。水はうちのマネージャーが買ってきてくれたんですけど、食べ物がない。しまった」

この頃には高垣さんの顔から笑顔が消えていた。その表情には疲労すら感じられる。日を追う毎にロシア軍は包囲網を築き、キエフへじりじりと迫った。

避難のため大きな荷物を抱え駅に集まった人々
避難する人々でごった返すキエフの駅

高垣さんは28日早朝、アパートから車で5分ほどのキエフ中心部に行ってみると、高層ビルが無残にも破壊され、地面には瓦礫が散乱していた。周辺に駐まっていた車の窓ガラスは割れ、銃弾でボコボコに穴が開いていた。キエフから郊外へ退避する人々は続出したが、「妻もいるので俺だけ逃げるわけにはいかない」と高垣さんは残る決断をした。

それから1週間が経過し、キエフから人々の姿が消えた。その模様が3月5日配信の動画に映し出されている。高垣さんは車で街の中心部を走り、視聴者に向けて、こう語る。

「はい、皆さん、これ街中なんですけど、誰もいません。見事に誰もいませんね」

対向車線に車はぽつぽつと走っているが、歩行者はいない。閑散とした街並みが車窓に広がっていた。一方、キエフ中央駅は、西側へ向かう人々でごった返していた。

高垣さんは仕事もままならないため、収入もほとんど途絶えている。動画配信のおかげで募金が20万円ほど集まったが、アパートの家賃800ドルも支払わなければならず、今後は貯金を切り崩す方向だ。高垣さんは語る。

「こうなったら最後まで動画を配信し続けます。ロシア軍の実態、そして戦争は止めなあかんということを分かってもらいたい。僕の動画を見て戦争反対っていう人が1人でも増えてくれたらと思います」

動画の視聴者からは安否を気遣う声が多く寄せられているが、高垣さんは自分の命よりも、妻や息子のことで頭を悩ませている。

ゴーストタウンと化したキエフで撮影を続ける高垣さん
爆撃を受けたキエフの街の様子
爆撃を受けたキエフの街の様子
  • 取材・文水谷竹秀写真高垣さん提供

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