ウクライナ紛争で脚光「謎のデジタル調査機関」の設立秘話 | FRIDAYデジタル

ウクライナ紛争で脚光「謎のデジタル調査機関」の設立秘話

露軍のクラスター爆弾使用をスクープした「ベリングキャット」とは何者なのか

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代表のエリオット・ヒギンズ氏
代表のエリオット・ヒギンズ氏

ウクライナ情勢が緊迫化するなか、ある情報集団が注目を集めている。イギリスのデジタル調査報道機関「ベリングキャット」だ。2月28日にロシア軍がウクライナでジュネーブ条約で禁止されているクラスター爆弾を使用したことが報じられ、世界中から批判を浴びた。実はこれをスクープしたのが、ベリングキャットだったのだ。

本誌はベリングキャットの創設者であり代表のエリオット・ヒギンズ氏にインタビューを敢行。ヒギンズ氏は『ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く』を上梓するなど、世界的に注目が高まっている。ベリングキャットの全貌、課題など、そのすべてを明かした。

ーーベリングキャットとはどういう集団ですか?

どの政府からも機関からも組織からも独立した、リサーチャーやインヴェスティゲーター(調査員)や市民ジャーナリストから成り立ち、ソーシャルメディアなどオープンソースの情報から真実を暴く集団です。

今は30人近くがスタッフに入っており、全世界にスタッフ以外のコントリビューター(協力者)がいます。ボランティアで手伝ってくれております。今のスタッフメンバーは男女が半々で、一番多いのは20代後半から30代前半の若者です。一番年上は40代です。私は元々ブロガーでしたが、他のメンバーは英国軍にいた人もいれば、エンジニア、修士号の学生、ビジネス・インテリジェンスの分野で仕事をしていた人などです。

ーー設立の経緯は?

私は元々ブロガー(Brown Mosesという名前を使っていた)で、趣味で関心がある事件をYouTubeやソーシャルメディアを使って調べていました。妻がトルコ人で、シリアの兵器について毎日500近くのYouTubeを見ながら分析していました。新しい兵器が出てきたら、それをブログに書いていた。それがイギリスの「Guardian」などに引用されて、私の調査が注目を集め始めました。趣味が高じて本職になったのです。

14年7月にオランダでベリングキャットを設立しました。14年のマレーシア航空機撃墜事件の容疑者や背後関係を明らかにして、これが公的国際捜査機関による起訴につながったことは世界中で報道されました。

毎日様々な調査結果をサイトで公表している。ベリングキャットのHPより
毎日様々な調査結果をサイトで公表している。ベリングキャットのHPより

ーーどのような手法で調査しているのでしょうか?

デジタル空間の海に広がる画像、動画、SNS情報、地図情報など公開された情報にオンラインでアクセスし、いろいろな分析手法を駆使して国家権力が隠蔽しようとする事件の真相を暴く「オープンソース・インヴェスティゲーション」という手法を使っています。

ほとんどがSNSやYouTubeの画像や情報からのものですが、ときには関係者に取材することもあります。世界中のコントリビューターから情報が寄せられますが、真実ではないものもあります。自分たちがまったく手を付けていない事件で、向こうからコンタクトしてきた案件については特に注意しないといけません。映像も嘘である場合もありますから、オープンソースで入手できるすべての情報と照らし合わせます。

資金は色々なところから得ていますが、政府から直接受け取ることはありません。我々が開発したオープンソース調査方法は、学校でワークショップなどを開いて広めるようにしており、資金の35%はこのワークショップから得ています。

ーーウクライナ紛争の調査、報道についてベリングキャットの限界はありますか?

限界というよりも情報の正確性です。いいかげんな情報では公開できません。オープンソースといってもロシアが出した情報かもしれません。ウクライナからの情報でも100%正確であるとは限りません。それが一番大変な部分です。

ーーあなたが今気をつけていることを教えてください。

ロシアから私は狙われていると確信しているので、世界のどのホテルに宿泊してもホテルでは食事は絶対にしません。毒が盛られている可能性があるからです。自分が殺されないように、どこにいるかもばれないようにしています。

  • インタビュアー大野和基

    ジャーナリスト。1955年、兵庫県生まれ。東京外国語大学英米学科卒業後、コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。国際情勢から医療問題、経済など幅広い分野を取材

  • 写真時事通信社

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