たった5日間で「売れるパン屋になれる」夢のプロジェクトが話題

「リエゾンプロジェクト」河上祐隆社長インタビュー

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5日間でパン屋になれるーーそう言われて、あなたは信じられるだろうか?

パン業界の常識を覆すこのキャッチコピーで、実際に日本中に数多くの人気ベーカリーを誕生させているのが「リエゾンプロジェクト」。発信元は、岡山県にある「おかやま工房」の河上祐隆社長だ。

自らも職人としてパン業界で長年働いた河上氏が、あえて“感覚重視”と“修業主義”の職人体質を捨て、国産小麦の無添加パンを全国に広めるベーカリープロデュース業を展開。その根底には、パン業界の未来像改革、そして、日本の食の未来に寄せる思いがあった。

いつでも、どこでも、焼きたてパンが買えるように

東京・三田のビルの一室。小さなパン工房には、誰もが惹きつけられる、焼きたてパンの匂いがたち込めていた。

「誰もが好きなメロンパン。これ、すごく簡単にできるんですよ」

国産小麦のみを使用した無添加パンで人気ベーカリー「おかやま工房」社長の河上祐隆氏は、手慣れた手つきで丸くこねた菓子パン生地にクッキー生地をかぶせ、網目模様の型を軽く押し付ける。これを工房のオーブンで焼けば、ふっくら香ばしいメロンパンの出来上がり。見れば、オーブンはプロ仕様ながら、一般的な店舗のものより小型な印象だ。

「家庭用電源で使える機械を開発したんです。これなら、どんな小さな工房でもパンが焼けます」

ここは、河上氏が現在取り組んでいるベーカリー開業支援事業「リエゾンプロジェクト」の研修施設。「5日間でパン屋になれる」というキャッチフレーズのとおり、開業志望者はここで5日間の研修を受け、自らの店舗でオーナーとしてパン作りを行う。本当に? という疑問が湧くが、河上氏は力強く頷く。

「本当です。今までできなかったという方はいません。今でも同業者には『うさんくさい』と言われたりしますが(笑)。1日目はパンとは何ぞやというところから始める座学、2日目~4日目は実習、最後に経営や販売戦略の立て方まで。これまでパンを作った経験のない人でも、19種類のおいしいパンが必ず焼けるようになり、店を開けるんです」

プロジェクトを立ち上げたのは、2007年、福島県の飲食店から店のスペースを使ってパン屋をやりたいという相談を受けたのがきっかけだった。

「わずか4坪の工房で、作る人は未経験者。おまけに、開店までには1週間しか時間がなかった。アナログ人間の私は、レポート用紙に50枚のレシピとマニュアルを急遽手書きして、それをコピーして指導を始めました」

パン職人といえば、長年の修業で熟練の技とセンスを磨いて……というのが通念だが、河上氏がこのとき導入したのは「職人の技術や感覚を一切省いた」独自のメソッド。5種類の生地を作るための粉のブレンドを考案し、食パン、バタールといった食事パンからクロワッサン、クリームパン、メロンパンまで、親しみやすい19種類のパンのレシピ、そして店舗の運営に関するマニュアルが、このとき誕生した。

「私が恩師から教わったのは、『おいしいだけのパンは飽きられる』ということ。パンは嗜好品ではなく、毎日食べるものですからね。パン屋は地域密着の、ご近所さんのための商売。そのために、安心、安全で焼きたて、適正価格のパンをいつでも買ってもらえる店でなくてはと思っていたんです」

店は予定通り開店し、大繁盛。折しもその年は、団塊の世代が一斉に定年を迎える「2007年問題」が世で叫ばれていた。元気なシニア世代が慣れ親しんだ土地で第2の人生を模索している世の中で、「これはビジネスになる」と予感した河上氏。その心中には、自らも身を置いてきたパン業界のシビアな現状を改革したいという思いもあったという。

「日本のベーカリー、10数年前は1万5千店舗ありましたが、2年前には8千。あと数年でその半分になると言われています。朝が早く長時間労働が当たり前、休みも少ない町のパン屋さんの労働は過酷で、長年続けるのは難しいですし、若者が入ってこないので後継者もいません。技術やレシピを抱え込み、ブラックな体質なまま続けていては、どうしようもないんです」

成功するのは「素直で勉強熱心な人」

ノウハウをパッケージ化し、東京・五反田を拠点に2009年から本格稼働した「リエゾンプロジェクト」。これまで、全国でおよそ200店の開店をサポートしてきた。

そのひとつが、東京・吉祥寺にほど近い練馬区関町に今年7月オープンした「すずめベーカリー」。工房を含め10坪に満たない小型店舗だが、白を基調とした清潔な店内に置かれた北欧アンティークのカウンターが爽やかだ。

「イメージしたのは、ヨーロッパの街角にあるカウンターだけの小さなパン屋さん。とはいえ、敷居を高くせず、親しみやすい雰囲気にしたかったので、お子さんにもお年寄りにも覚えていただけるような名前の店にしたんです」

エプロン姿で店頭に立つのは、オーナーの高木真奈さん。コンビニエンスストアのようなフランチャイズ契約ではないため、店舗ごとに店主の個性を打ち出せるのも「リエゾンプロジェクト」の魅力だという。オープンして間もないが、連日売り切れが続く人気店。焼きたてパンが並ぶガラスのショーケース前では、取材当日も親子連れが楽しそうにパンを選んでいた。

高木さんは40代。出版社の営業職で忙しく働いていた頃から、自分が打ち込める仕事のあり方を模索していた。昨年10月に新聞記事でリエゾンプロジェクトを知り、説明会に行って研修を受け始めたが、「まさか1年後に開店しているとは……」と自身でも驚く。

「最初はひとりでも、手伝ってくれる仲間が増えて、皆で力を合わせて……。今までは作って並べるのが精一杯でしたが、これからは経営の質を高める努力をしていきたい」と笑顔を見せる。

オーナーの多くは、社会でひと仕事を終えた50代、60代。開業後もベーカリー経営に必要な知識や情報を得られる研修会や交流会が年に数回催されており、参加するオーナーも多いという。

「人生もそうだと思いますが、成功するのはやっぱり素直な人。いろんなことを受け入れて吸収し、勉強を続けていく人です。ひとりよがりで自己満足する人はダメ(笑)。オーナーは男性が圧倒的に多いですが、女性客が多いパン屋をやっていくには、女性に人気の店に足を運んだり、女性週刊誌を読んだりして、女心を学ぶことが大事ですよ」と河上社長。

少子高齢化、人口減少、地方経済の衰退など、不安要素の多い現代の経済社会の中にあっても、「パン業界の未来は明るい」と断言する。

「高齢化は進みますが、今のお年寄りはパン食。ご飯を炊くのが大変なときでも手軽に食べられますから、パン屋はまだまだ日本全国で需要があります。これからも、異業種を含めた大手企業と組んで、全国、海外に数千店舗まで増やすのが僕の夢。今、病院の院内に焼きたてパンを届けるベーカリーの構想も進んでいるんですよ」

「嗜好品のパンではなく、日常品のパンをつくる」。そのコンセプト通り、すずめベーカリーのパンは、どれも素朴で美味しかった。誰もが5日間の修行で“売れる”パン屋になれる。何と夢のある話だろう。

 

おかやま工房「リエゾンプロジェクト」 日常品のパンを作り、売るためのノウハウを5日間の研修に凝縮したベーカリー開業支援プロジェクト。5日間の研修費用10万円に加え、開店時の契約料、機械の購入費用、内装費用などで1千万円強の初期投資が必要となるが、店舗の立地や設計も含め、トレーナーが具体的な指導で開店までをバックアップする。日本国内だけでなく、アメリカ、カナダ、中国、インドネシアなど海外でも展開中。

「リエゾンプロジェクト」の公式サイトはコチラ

すずめベーカリー 東京都練馬区関町南2ー20ー4 営業時間/11:00~18:00 定休日/日、月曜日

すずめベーカリーのインスタグラムはコチラ

  • 取材・文大谷道子撮影田中祐介

Photo Gallary5

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