密着!「本気で甲子園を目指す」進学校・明八の驚きの挑戦 | FRIDAYデジタル

密着!「本気で甲子園を目指す」進学校・明八の驚きの挑戦

明八野球部物語①聖地・甲子園が遠のく「心許ない船出」

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〈憧れの地にあと一歩届かない。都内でも指折りの進学校ゆえ、制約された環境ながら、それでも本気で甲子園を狙う男がいる。明大中野八王子野球部監督・椙原貴文。彼の葛藤と苦悩、生徒たちの心身の成長を追った、密着180日のドキュメント〉

明大中野八王子高校野球部監督・椙原貴文

悲願の初出場を目指して

3月18日に第94回選抜高校野球大会が開幕する。初めて夢舞台で戦うのは32校のうち4校だ。成績以外の要素も加味される21世紀枠の3校を除くと、初出場は和歌山東だけだが、米原寿秀監督は別の高校で甲子園出場を果たした実績がある。甲子園を知る名将の力もあって聖地への切符を摑んだのだ。

2000年以降、全国高校野球選手権大会、いわゆる「夏の甲子園」に出場したのはのべ1042校だが、「初出場校」は約15%に過ぎない。この中から「夏は初めてでも春のセンバツに出場したことのある学校」と「他校で甲子園を経験した監督に導かれたチーム」を除くとわずか8%あまりとなってしまう。

「甲子園未経験の学校」が「甲子園未経験の監督」の下で聖地を目指すことは実に困難なのだ。

実績と経験こそがモノを言い、人脈の豊富な学校・指導者のもとに、野球の上手い子供が集まり、頂点を狙う―――。そんな寡占化が進む甲子園の構図の打破に、本気で挑んでいる一人の監督がいる。

「明八(めいはち)」の愛称で知られる明大中野八王子高校の椙原貴文(すぎはら・たかふみ)。

同校を率いて7年目になる。毎年上位進出を果たすも、あと一歩、届かない。

進学校・明大中野八王子高校の正門

明八は偏差値69の学力に秀でた高校だ。当然、日々の練習時間は限られている。また、明八の属する西東京地区は全国屈指の寡占化が進む地区でもある。日大三、早稲田実業、東海大菅生……。分厚い壁がそびえている。2000年以降、学校・指導者がともに初出場というケースは2016年の八王子学園八王子の一例しかない。

そんな厳しい環境の中で、椙原は甲子園を狙っている。

椙原の指導は情熱的かつ、厳しい。だが、偏差値69の秀才たちは、醒めることもなく、全力で必死に食らいついている。

なぜ椙原は困難な挑戦を続けるのか?野球をやらなくても輝かしい未来が待っているであろう生徒たちは、なぜ、そこまで頑張るのか?

本稿は2022年、夏の甲子園を本気で目指す明八野球部の、“傍から見ると無謀な挑戦”を選手の成長とともに追いかけていく。

真の文武両道を追い求める

とある平日。17時50分頃。明八の野球部員は練習を切り上げ、グラウンド整備、片づけを行って慌ただしく帰り支度を始めた。授業が終わったのは15時50分。まだ練習を始めて1時間半ほどしか経っていない。

が、これが同校の日常だ。

専用球場やサブグラウンド、陸上トラック、ウェイトルームなど、施設は充実している明八だが、時間の制約は厳しい。生徒は基本的に18時10分のスクールバスに乗って帰らなければならないのだ。専用の寮などはない。練習時間は月曜日が自主練習、火曜日から金曜日は15時50分から。準備、片づけを除いた平日の練習時間は1時間半ほどしか確保できない。

土曜日は13時半から、日曜日は午前8時からだがオープン戦を組むことも多く、平日の週に3回は19時半のバスでの帰宅が許されるとはいえ、甲子園常連校と比べると、練習時間としては、かなり少ない。また、直近に大会が控えているケースを除き、定期試験の1週間前から終了まで部活動自体が禁止される。

限られた時間を有効に使う

一方で、学業のハードルは、かなり高い。

明大への「内部進学」には3年間の評定の積み重ねに加え、英検などの資格も必要になる。また、成績上位の順に希望する学部を選ぶシステムのため、人気の学部を狙う場合はさらに難易度が上がる。学部によっては、簿記検定やニュース検定などを取っておくとアピールポイントになるため、そうした試験のために練習を休まなければいけない日も出てくる。それゆえ時期によっては日曜日でも全員が集まらないことが少なくないという。

「家に帰ってから割く時間は、野球の練習よりも勉強のほうが全然長い」とキャプテンの保坂修也は言う。

そんな厳しさのため、高校入学時の野球部の推薦枠はあるものの、椙原は簡単には使わない。

「(中学の成績が)オール5とまではいわないものの、ほとんどが5で4がいくつかという程度の学力がないと推薦枠で取りません。入ってから苦労してしまいますからね」

甲子園を目指すにはあまりに過酷な環境に思えるのだが……。

「私も監督になって最初のうちは家での練習を指示したり、朝練を強制したり、しゃかりきになって練習時間を増やしました。でも、そのときのほうが不思議と勝てなかったんです」

そして、気づいた。頭の良さこそ、明八の大きな武器であり、可能性なのだ、と。

ユニフォームは明治大学とほぼ同じ

「学力の高さと野球の理解力は比例します。選手にはシチュエーションごとの細かな動きなどを記した『指導書』を渡して、“野球の勉強”も頑張ってもらっています。

そもそも、『コツコツと努力して成果を得る』という作業は勉強も野球も一緒なんです。勉強で成功体験を持っている子は、野球でも同じように努力できる。一度理解すると自分で最後までやろうとします。加えて頭のいい子は置き換えることがうまい。自分を客観視したり、野球とは違う事例を野球に当てはめたりするのがうまくて、発想がいろいろなところに飛ぶ。2005年の夏に2度目の決勝に行ったときも、主力選手の成績は良かったんです」

厳格であるがゆえのコロナ禍での大きな制約

練習時間は短くても、明八の選手だからできる野球、活かせる能力がある。それがチームの礎となったのが、2019年の秋の東京都大会(※秋季大会に東東京、西東京の区別はない)だ。甲子園常連校・二松学舎大付に勝利し、同大会で優勝した名門・国士舘にも1点差と食い下がった。2020年春にはその国士舘を相手に8対1で8回コールド勝ち。準々決勝で日大三に競り負けたものの、夏の甲子園出場を予感させる戦いぶりを見せた。

しかし、コロナ禍による緊急事態宣言の発令は、ライバル校以上に明八を苦しめた。寛容な措置でオープン戦を重ねる強豪私学もある中、明八は生徒の安全を考え、部活動に厳格な制限を設け、思うようにオープン戦を組めないどころか、全体練習すら満足にできない時期が続いた。各自が高い意識を持って個別で練習に励んだが、運動量不足はどうすることもできず、体重、筋力が大きく落ちてしまう生徒も少なくなかった。

明大中野八王子の校舎

そうして臨んだ21年夏の大会だったが、初戦となった3回戦こそ快勝したものの以降は1点差ゲームが続いた。5回戦では3点ビハインドで9回裏の攻撃を迎えたが、追いついて延長11回サヨナラ勝利。我慢強く戦って勝ち進んだ。

「19年秋に二松学舎さんに勝たせてもらったとき、先制してどこまでやれるかと思っていたのですが、すぐに逆転を許した。それでも終盤までもつれる展開にして勝ち切れた。もともと、最後まで粘れるのが明八の野球なのですが、このときの勝利は後輩たちに繋がっていると思います」

最後は準々決勝で國學院久我山に4度のスクイズを含む12回のバントを許すなど、相手に自分たちがやりたい野球をやられてしまい、5対6で涙を飲んだ。だが、椙原が「我の強い選手が多い中、キャプテンの三部(さんべ)大智が自己犠牲をいとわずチームをまとめてくれた。練習においても『チームは今、こういう状態なので、こうしたいです』と持ち掛けてくるなど、自発的に動いてくれて監督として楽をさせてもらった」というほど自立した、目指すべきチームだった。

そんな先輩たちを見てきた1、2年生で結成された今年のチームだったが、船出から椙原を苦しめることになる。

(第2回へ続く)

  • 取材協力鷲崎文彦

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