“トー横四天王”が語る「トー横キッズと歌舞伎町の現実」
佐々木チワワ 現役慶應大生ライターが描くぴえんなリアル 特別編 自殺、未成年売春、リンチ殺人など犯罪が多発し、警察の取り締まりが強化 少年少女は街から消えたように見えるが
「トー横に来る前の’18年頃は、池袋で集まってたんですよ。けど、そこも治安が悪くて。半グレみたいな奴らを煽(あお)ってトラブルになったりして、歌舞伎町に移動しようってなったんです」
数々の事件が起きすっかり有名な存在になった「トー横」には、「四天王」と呼ばれ、10代の少年少女からカリスマのように崇められる4人の青年がいる。
・今年1月27日に女子中学生とわいせつな行為をしたとして逮捕され、3月10日に児童福祉法違反で再逮捕された「雨宮ただくに」こと水野泰宏容疑者(24)。
・児童買春と児童ポルノ禁止法で昨年10月に逮捕されたK。
・ホームレスを暴行して書類送検されたとされるR。
そして、今回筆者の取材に答えてくれた冒頭のX氏(20代前半)の4人である。
高校卒業後、ホストクラブなどで働きながら、’18年頃から歌舞伎町で暮らすようになったX氏は、トー横の変遷をこう振り返る。
「トー横がこれだけ大きくなったのは、『ただくに』のおかげじゃないかな。『ただくに』ともう一人、別の中心的な人物がいたんですが、その人がいなくなって、『ただくに』が路上を担う感じになった。最初の頃は、『ただくに』と他の四天王がちゃんとルールを決めて、楽しく飲んでいたんですよ」
「四天王」は、界隈の治安を荒らす人間を「出禁」にする権限を持っていたという。外の人間に迷惑をかけること、お金関係のトラブル、親から捜索願を出されているのにもかかわらずトー横にいること、過度な色恋。特に、未成年の女の子が多く集まるトー横界隈では、女目当ての男はすぐさま出禁になった。
「女に飢えた感じで、飲みの場で女の子にベタベタする奴はすぐ弾かれました。楽しく飲むために集まっていたので、それを乱すのは許されなかった。お酒が強いほどエライ、みたいなノリもあったっすね。盛り上げ上手が上に行く感じ。『四天王』もノリが良くて発信力があるから呼ばれるようになったんです」
トー横復活の可能性
ただ楽しく飲むための場所だったトー横だが、SNSでたまり場として認知され、人が増えていくにつれトラブルも頻発するようになった。自殺や薬物の過剰摂取、未成年の少女は大人にも目をつけられ、売買春も盛んに行われるようになった。
「『四天王』の逮捕は、そこまで影響はなかった。『ただくに』やKは女の子たちの憧れの存在ですから。法律的には違反でも、評判が落ちるわけではなかったです。それより、去年の11月末に起きたリンチ殺人事件が大きかったですね。あれは半グレみたいな奴らが起こしたトラブルで、俺らとは無関係だった」
しかし、殺人事件が起きたとなれば、警察も看過はできない。取り締まりが強化され、少年少女はトー横界隈にはいられなくなった。姿を消したように思われるキッズたちは、どこへ行ったのか。
「いまも歌舞伎町にいる奴は多いですよ。コンカフェとかバーで働いている奴もいるし、安いバーに集まって飲んでいる奴もいる。わざわざ路上には行かなくなりましたね。いま、路上にいるのはだいたい新規。主要メンバーの俺らからしたら、路上にいる人たちはトー横界隈でもなんでもない、って感じですね」
歌舞伎町の路上にたむろしている少年少女を「トー横キッズ」としてひとくくりにしてしまいがちだが、「四天王」ら主要メンバーに認められなければ、界隈の仲間としては扱われないようだ。
今後、主要メンバーが路上に再び集まり、トー横が復活することはあるのだろうか。
「夏までは少なくとも無理かな。招集掛ければ集まるかもしれませんが……。本来、『行きたい』と思った奴が自主的に集まる場所だったので、『来い』というのはちょっと違うかな、と。みんながまた自然と集まるようになるには、時間が必要だと思います」
すっかり路上から姿を消した「トー横キッズ」。しかし、今年3月上旬には、キッズのたまり場となっていた歌舞伎町のバーが、未成年に酒類を提供していたとして摘発される事件もあった。このバーはフリータイムで飲み放題、男女問わず3000円と安価なため、キッズたちに人気だったそうだ。
「最近、歌舞伎町のバーが高くて。飲み放題5000円が多いんですよ。そうするとさすがに渋い、ってなって渋谷に移る奴も増えてきましたね」
歌舞伎町で再び復活するのか、それとも新天地を見出すのか。いずれにせよ、いくら取り締まりを強化しても「居場所のない未成年」そのものがいなくなるわけではない。彼らの居場所を奪うことが、本当に犯罪を減らすことにつながるのだろうか。


佐々木チワワ
’00年、東京生まれ。
小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。
15歳から歌舞伎町に通っており、幅広い人脈を持つ。
大学では歌舞伎町を含む繁華街の社会学を研究している。
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取材・文:佐々木チワワPHOTO:佐々木チワワ(2枚目) 結束武郎