ウクライナ文化交流協会長が予測する「戦争が終わるタイミング」 | FRIDAYデジタル

ウクライナ文化交流協会長が予測する「戦争が終わるタイミング」

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現地の惨状に心痛める小野会長
現地の惨状に心痛める小野会長

「ウクライナ人が今、最も欲しているものは兵器です。パンでも水でも着る物でもない。兵器を送って欲しいと言われます」

連日、ロシア軍の爆撃にさらされているウクライナ。危険と隣り合わせの日々を送るウクライナ人たちの心情を代弁するのは、日本ウクライナ文化交流協会(大阪府八尾市)の小野元裕会長(52)だ。戦禍にある人々の切実な声に耳を傾け、また報道を通して目にする現地の惨状に心を痛めている。

「胸が張り裂けそうな気持ちです。だからといって我々ができることはほとんどない。声を上げることしかできないんです。ロシア軍は早く撤退してくれと。ロシアによるプロパガンダも許せません」

報道によると、ロシアはこれまで、「ウクライナ軍が街を破壊している」「ウクライナには生物兵器の研究施設があり、米国がそれを支援している」などといった偽情報を流し、政治的意図に基づく宣伝工作をしているとされる。小野さんが続ける。

「そもそもロシアでは今の戦争はないことになっています。偽情報を発信するのは罪。それをつぶすためにできるだけ我々も発信を続けていきたいです」

小野さんとウクライナの関わりは15年以上前に溯る。その原点は、高校時代に読んだロシアの文豪、ドストエフスキーだ。特に『貧しき人々』に描かれた人間の深さに感銘を受けた。

原文で読みたいと天理大学外国語学部ロシア語学科へ進学。卒業後はソ連の大学で日本語教師を務める予定だったが、4年生の1991年にソ連が崩壊したため、実現しなかった。

そこで大阪の出版社に入社し、ロシアに関する研究を独自に続ける。やがてロシアの発祥の地がウクライナであるという歴史的事実に気付く。当時はまだ、日本とウクライナの交流やウクライナ研究がそれほど進んでいなかったため、その分野に力を注ごうと思い至った。13年勤めた出版社を辞め、2005年にウクライナの首都キエフへ飛んだ。35歳だった。

「日本で貯めたお金を持って、通天閣から飛び降りるような覚悟で行きました」 

学生時代の恩師などの協力も経て、ウクライナでお茶会や現代美術展など日ウクライナ交流を推進するイベントを1年間続けた。その中で触れたウクライナ人の寛大さに、心を打たれた。

「たくさん友達ができました。ウクライナは人と人との距離が近いんですよね。西部を訪れた時のことです。喉が渇いたので、その辺の家に『お水をください』とお願いしたら、『入っておいで!』と招いてくれたんです。水だけでなく、『牛乳も飲んでいけ、ご飯もあるぞ』って。ウォッカもご馳走になり、そのままそこで寝させてもらいました。数日経ってそろそろ帰ろうかと思ったら、『ずっといたらええやん』と。今の日本でそんなことないじゃないですか? 知らない外国人が突然現れて泊めてくれることなんて」

あまりの距離の近さに戸惑うこともあったというが、1年間の滞在を終えた小野さんは日本に帰国後、2006年に日本ウクライナ文化交流協会を設立した。活動は引き続き、草の根の文化交流だ。会員は現在約250人で、今回のロシアの軍事侵攻以降、メディアに引っ張りだこの国際政治学者グレンコ・アンドリー氏も会員である。

小野さんも、ウクライナ情勢の緊迫化に伴ってメディアからの問い合わせが殺到し、電話が鳴り止まなくなった。

「これまでウクライナに関する問い合わせなんて、1年に2〜3回ぐらいでした。ところが今は100社以上のメディアから連日、『ウクライナ人を紹介して下さい』などという電話がかかってきます」

一方で、早朝に無言電話も掛かってきた。会社と携帯電話の計4回。小野さんがテレビ出演して以降のことだ。

「いずれも非通知です。ウクライナ寄りの発言をしているから、それが気にくわない人による嫌がらせかもしれません」

ウクライナにいる会員たちからも日々、「爆撃音で目が覚めました」「ガソリンスタンドがなくなりました」「パン屋からパンがなくなりました」と、戦況の影響を示すメッセージが次々と寄せられた。ロシアとの関係から、当初はメディアへの出演に難色を示していたウクライナ人たちも「死ぬ覚悟ができています」と腹をくくり、テレビに出始めた。そんな彼らの生きる姿に、小野さんは思わず涙してしまった。

「兵器が欲しいとまで言う彼らは、徹底的にやると思います。プーチン大統領も命が尽きるまで戦い続けるでしょう。だからこの戦争に落としどころはない。どっちかが音を上げるまでやる。ですが、ウクライナがへこたれることはないと確信しています」

ウクライナとロシアは停戦に向けた交渉を継続中で、ウクライナの代表団は合意の可能性に言及しているが、その行方は不透明だ。小野さんは語る。

「もし交渉で停戦が実現できるのなら、(クリミア半島が 2014年に併合されて以降の)8年間で武力闘争はすでに終わっていたはずです。だから交渉は割れるような気がします。このまま戦争が続き、キエフが陥落してロシアの傀儡政権が仮にできたとしても、ウクライナ人は何年かかってもその状況を覆そうとするはず。だからこの戦いは今世紀中に終わらないかもしれません」

今こうしている間にもロシア軍の爆撃は現地で続いている。ウクライナ南東部のマウリポリでは劇場が空爆を受け、首都キエフでも市街地が砲撃され、死者が続出している。国連の発表によると、17日までに、民間人の死者は816人(うち子供は59人)で、負傷者は1333人(うち子供は74人)に上る。

声を上げるしかない──。

小野さんはじめ、ウクライナの平和を願う世界中の声は果たして、届くのだろうか。

大阪府八尾市にある文化交流協会には日々、現地からの切実な声が届いている
大阪府八尾市にある文化交流協会には日々、現地からの切実な声が届いている
  • 取材・文・写真水谷竹秀

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