ダイソー、ワークマンがついに銀座に進出する驚きの背景
ダイソーは、ニトリ跡に出店
東京の銀座といえば高級ブランド街として昔から有名でしたが、2010年以降は低価格ブランドの出店も増えました。ここに新たな低価格ブランドが4月にオープンすることとなり話題となっています。4月15日に100均の「ダイソー」が、4月28日に「ワークマン女子」がオープンします。
この2店舗は、雑貨と衣料品のそれぞれの分野においては、ほぼ「底値」と言えるほど低価格中の低価格です。銀座の低価格ブランド化も行き着いた感がありますが、今回はそれについて考えてみましょう。

ダイソーは「銀座マロニエゲート2」の6階にオープンします。ここはニトリが撤退した跡地です。ワークマン女子は「イグジットメルサ」5階にオープンします。ここは以前、ラオックスがあった場所です。今回どちらも商業ビルに入店するところが共通しています。
銀座に限らず商業ビルからのブランド撤退が相次いでいるのは、まぎれもなく2020年春から始まった新型コロナ感染症の拡大による不景気でしょう。2021年まで商業ビルや百貨店の営業自粛や営業時短が繰り返され、各店舗は売上高減少を余儀なくされました。また銀座についていえば新型コロナによるインバウンド客の消滅もダメ押ししたといえます。銀座はインバウンド客に人気のスポットの一つでしたから、他の地域よりもその反動は大きかったと考えられます。

なぜ「ダイソー」と「ワークマン」なのか…
撤退した後継テナントとして、なぜダイソーとワークマンだったのでしょう。それは雑貨、アパレルにおいても家賃が高い銀座のビル内に出店できるような資本力のある大手は、もうこの2社を含めてほんのわずかしか国内には残っていないからです。また低価格ブランドの銀座への出店を嘆く声も見られますが、ユニクロ、ジーユー、無印良品などはすでに出店しており、とっくの昔に低価格ブランドの銀座への出店はそう珍しいものではなくなっています。
それでは衣料品から業界を見ていくと、有名な欧米高級ブランドはすでに全て出店し終わっていると言っても言い過ぎではありません。次に国内の百貨店ブランドはどうかというと、ワールドやオンワード樫山などは新型コロナ以前から経営が厳しくリストラに次ぐリストラを繰り返し、不採算店を閉店し続けています。
となると、穴埋め出店できるのは大手の低価格ブランドしかないということになりますが、ユニクロ・ジーユー・無印良品などはすでに出店し終えています。この状況ではワークマンくらいしか残っていなかったといえます。
雑貨についても同様ですが、雑貨というジャンルはアパレル以上に大手の寡占化が進んでいます。
ファッション性の高い雑貨というと、10年ほど前、メディアでは大いに話題となった「ASOKO」という雑貨ブランドがありましたが、今ではもう存在しません。運営会社の解散後、パルグループに吸収されましたが、2021年にブランド自体が消滅しました。また300円雑貨の先駆けとして一時期は注目を集めた「三日月百子」ですが、経営破綻してしまいました。

店舗数拡大の「100均大手4社」
一方、100均大手4社は、ますます店舗数を広げており、1位がダイソーを展開する大創産業、2位がセリア、3位がキャンドゥ、4位がワッツという順位で、この4社の合計売上高は9000億円規模に達します。中でも大創産業は売上高5300億円規模となっており、2位のセリアの2倍以上の売上高となり、ダントツの最大手となっています。雑貨という商品の特性上、この大手4社に対抗できるような急成長企業はなかなか登場しにくいものがあります。
雑貨に限らず、衣料品でも量産工業品は基本的に数量の多さに対して、製造コストの安さ&品質の安定は比例しやすいのですが、商品単価の低い雑貨(1個数十円~500円くらい)という商品にはこの構図が最も反映されやすいのです。衣料品の場合は、ブランドステイタスの構築やファッション性の提案などが評価され、小規模で高額なブランドでも人々の耳目を集め大きく成長することもありますが、現在の雑貨にはそういう機会はほぼありません。
一方でASOKOのような新規参入ブランドは小ロット生産・仕入れから始まりますので、なかなか製造コストも下げられませんし、利益率も高まりません。大手4社には追い付くことさえできずその差はますます広がるばかりです。そのため、大手4社の寡占化はさらに進みます。
ファッション雑貨で比較的健闘し売上高を伸ばしているのがパルグループの300円雑貨店「スリーコインズ」です。2021年2月期には売上高が約260億円にも達しており、2022年2月期もさらに増収する見込みです。ASOKOを引き取ったパルグループでしたが、ASOKOはこのスリーコインズとの相乗効果は生み出せなかったといえます。一方、スリーコインズはこの規模に達すると製造・仕入れコストがさらに削減でき、好循環スパイラルに突入したといえます。

新型コロナは一段落し始めましたが収束はまだ見通せません。インバウンド客の再流入はまだまだ先のことになるでしょう。そうなると国内需要のみへの対応となりますから、銀座に限らず各地に積極的に出店し続けられるのは、雑貨・衣料品ともに企業体力のある大手低価格ブランドということになります。今後、市場の寡占化はますます進むことになるでしょう。今回の銀座出店はその象徴といえます。
文:南充浩(みなみみつひろ)
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。