「マンガの描き方本」を300冊集めたウエケンの「描きたい新作」 | FRIDAYデジタル

「マンガの描き方本」を300冊集めたウエケンの「描きたい新作」

金曜日の蒐集原人・第6回「上野顕太郎さんの『マンガの描き方本コレクション』を見に行く」

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<コレクションはおもしろい。特定のテーマに沿って集められた充実のコレクションを見るのも楽しいけれど、それ以上にコレクションすることに夢中な人間の話はもっとおもしろい。この連載では、毎回いろいろな蒐集家の元を訪ねて、コレクションにまつわるエピソードを採取していく。

人はなぜ物を集めるのか? 集めた先には何があるのか? 『金曜日の蒐集原人』とは、コレクターを蒐集したコレクションファイルである。>

そこはファミレス。入り口のドアを開けた客に、女性店員が「お客様、何名様でしょうか?」と尋ねる。そしてページをめくると、客の「五万人だ!!」という返事と共に、五万人の群衆が見開きいっぱいに描かれている。そんな、たった3ページのギャグ作品で強烈な印象を残したのが、マンガ家・上野顕太郎(ウエケン)さんだ。

マンガのメタ構造やパロディを得意とする彼は、マンガの描き方を解説した本のコレクターでもある。2015年には、それらのコレクションを紹介した『暇なマンガ家が「マンガの描き方本」を読んで考えた「俺がベストセラーを出せない理由」』という研究本も出版している。そこで、上野さんのご自宅兼仕事場までコレクションを見せてもらいに行ってきた。暇だからな!

いまだに「こんなの出てたのか」という発見がある

──上野さんの「マンガの描き方本」コレクションを取材するにあたって、事前に質問リストを作るわけですよ。「最初の一冊はどれですか」とか、「いちばん愛着のあるのはどれですか」とか、「分類はどうなっていますか」とか。でも、7年前に上野さんが出された『暇なマンガ家が「マンガの描き方本」を読んで考えた「俺がベストセラーを出せない理由」』(以下『俺ベス』)を読むと、そこにぼくが質問したいことと、その答えが全部書かれてるんですよね。

上野 ははは、たしかにそうかもしれません。

──だからやりにくいなーと思って(笑)。まあ、この本を読んでいない読者のために、わかっていることも改めてお聞きしていきますが、これを書かれた時点ではコレクションが250冊を越えたとあります。でも、いまはもっと増えてますよね?

上野 正確には数えてないけど、300冊は超えているはずです。ただ、最近は蒐集が滞り気味です。昔はマンガを描く道具のことからストーリーの作り方まで、その工程のすべてを紹介している本がほとんどだったんですよ。でも、いまは細分化されていて、格闘マンガの描き方とか。

──ああ、わかります。『俺ベス』の中では「マンガの描き方本」の変遷を、第1期「大正から昭和初期(戦前)まで」、第2期「戦後から平成10年(2000年)まで」、第3期「平成10年以降」と分類し、その第2期に相当するものが、「1冊でひと通りの工程をまとめた本が多く、人気作家による著作も多い」と書かれていましたね。

上野 大きい書店に行くと、マンガ技法の解説書だけのコーナーがあったりします。ぼくは第2期のタイプが好きなんですけど、いまはそういうのがあまり出ていないので、ちょっと残念なんですよ。

──でも、ここまでコレクションが充実してくると、謎の使命感みたいなものが出てきませんか? どんなものでもとりあえず買うという。

上野 いや、そうでもないですよ。あんまり縛りすぎると辛くなるだけなので。たとえば創刊号マニアの人とかも、創刊号ならなんでかんでも買うってなると、辛いと思うんですよね。自分は「これ、あんまりおもしろくないからいいや」みたいにやってます。

──その辺は「蒐集の緩さ」を自分に許してるんですね。

上野 それなのにこんなに溜まっちゃったという(笑)。

部屋の各所に分散しておいてあるので、これはあくまでもコレクションの一部。だいたいこの辺りに集中して置かれているのが第2期のものだと思われます

──第2期に関しては、ほぼ集め尽くした感じですか?

上野 どうだろう……。けっこう集めたとは思うんですけど、いまだに「こんなの出てたのか」という発見がありますし。たぶん網羅はしてないんじゃないかなあ。いつも上には上がいるから。

──ああ、コレクションの怖いところはそこです。

上野 だから「自分が一番だー!」とは、とても思えないです。

──同じようなコレクションをしている方って、上野さんの他にいるんですかね?

上野 会ったことはないですけど、リストを作ってネットに上げてる人はいますね。そのリストも完璧ではなかったんですけど、大正時代に発行されたような古いものまでリストアップされていました。ただ、その人が現物を持っているのか、いまも集めているのかはわからないですけど。

──上野さんご自身はリストを作ったりしてませんか?

上野 いや、してないです。ただ、この本(『俺ベス』)を作ったとき、担当編集者がリストを作って巻末に載せてくれたので。

──そういえば載ってましたね。

上野 俺、こんなに持ってたんだー! って。

──他人事のように(笑)。

このあたりに並んでいるのは技法書の類い。たしかに実用的ではあるけど、読んでおもしろいというものではないし、この方面を集めているとキリがない

最初の一冊はカバーが取れてページもばらけるほど

──最初に手に入れた一冊は、冒険王編集部編による『マンガのかきかた』(1970年/秋田書店)だそうですね。小学2年生だった上野さんが、ふと漏らした「マンガ家になりたい」という言葉をお父様が覚えていて、買ってきてくださったという。

上野 自分では覚えていないんですが、どうやらそんなことを言ったらしいんですね。公式に「なる」って決めたのは6年生のときです。卒業文集の「将来は何になりたいか」というコーナーに「マンガ家になる」って書いたのが、自分としては所信表明のようなものだと思っていたんですけど。

──おそらく、それより前からぼんやりとマンガ家になりたいと思ってはいたけど、文集に書いたことで明確になったという感じでしょうか。

上野 そうですね、自分の中で裏打ちしたというか。

上野さんが初めて手にした『マンガのかきかた』。カバーはなくなってしまって、表紙に付いた黒い汚れはたぶん墨汁

──では、まだ明確にマンガ家になる決意をしていないときに『マンガのかきかた』を手に入れたことになるわけですが、そのときの気持ちって覚えています?

上野 そうですね、小学2年生にはちょっと難しい内容だったんで。いちおう何回も読んだんですけど、何かこう……嫌ではなかったですよ。楽しんで読むんですけど、例えば「構図は三角が安定します」なんて書かれていても何のことやら? っていう感じで(笑)。

──2年生に構図の概念を理解しろというのは難しそうです。

上野 構図は絶対に三角じゃなきゃいけないのかな? なんて思ったりして、よくわかってない部分がけっこうあった。でも、この本はかなり好きで何度も読み返して、もうカバーもなくなっちゃってるし、読み込みすぎてページもバラバラなんです。落書きもいっぱいしてる。

──このページとかいいですね。「この道具は持ってるゾ」というチェックの跡が(笑)。

きっとワクワクしながら読んだであろう、顕太郎少年のワクワクする気持ちが伝わってきます

──『サイクル野郎』の1巻で丸井輪太郎が日本一周に出発するとき、携行する荷物のリストが絵で描かれてるんですよ。ぼくもいつか日本一周をしたかったので、そこに持ってる道具のチェックを入れたりしてました(笑)。

上野 『エルマーのぼうけん』ってあるでしょう? あれにもエルマーが何を持っていったかが書いてあるんです。輪ゴム10束とか(笑)。それが、どうぶつ島へ行ったときに役立つんです。

友達の名前が書かれた『少年のためのマンガ家入門』

上野 それで『マンガのかきかた』のあと、学年誌の付録だった小冊子と出会います。そこに似顔絵の描き方とか、マンガの描き方が載っていて、「こういう風に描けばいいのか」という流れがわかってきた。

──はいはい、昔のマンガ雑誌にはそういうマンガの描き方とか、ハウツーブックのようなものが挟み込まれていました。

付録の『まんが入門』。学年誌にこんなものが挟まっていたら、マンガ好きの子供は狂喜することだろう

上野 その後、友達の家で石森(石ノ森)章太郎さんの『少年のためのマンガ家入門』(1965年/秋田書店)と出逢いまして。

──あれは名著ですね。ぼくも子供の頃に持ってました。

上野 それを譲ってもらったんですよ。ぼくが「マンガの描き方本」を集め出したのは、そのあたりからじゃないかな。

──そんな本を持っていたくらいだから、お友達もマンガ家に憧れがあったんですかね?

上野 どうなんでしょう。そいつがマンガを描いてるところは見たことがないですけど(笑)。

──譲ってくれたくらいだから、そんなに執着もなかったのか。

上野 だからいまぼくが持ってる『少年のためのマンガ家入門』にはそいつの名前が書いてあるんですよ。

──あはは、それはそれで思い出の品ですね。

ヤフオクを始めて蒐集に加速度がついた

──ぼくが今日いちばんお聞きしたかったのは、まず最初の一冊があるじゃないですか。それは自分でチョイスしたのではなく、お父さんが気を利かせて買ってきてくれたわけですけど。で、その次に付録という形で集めていった。

上野 いや、それはまだ集めているという気持ちではないです。

──そうか、毎号楽しみに買っている雑誌に、たまたま付録がついてきたんですね。でも、やがてそれがコレクションに変わっていくわけじゃないですか。その瞬間が知りたいんです。「この分野をコレクションしよう」って意識的になったきっかけというか、そういう一冊があるのかな、と思いまして。

上野 ようするに、好きだから「あ、こんなのもあるんだ」って買うじゃないですか。その段階ではまだこのジャンルを集めようという考えはないんです。

──ですよね。最初は単純に他のも読んでみたいという好奇心だけ。

上野 きっかけか……、どこからなんだろう。なにしろ加速度がついたのは、ヤフーオークションを始めたことなんですけど。

──手に入れやすくなりましたよね。

集めに集めた付録の『まんが入門』。こういうものが入手できるのは、ネットオークションがあってこそ

上野 それまでは古本屋を巡っても見つからなかったものが、ヤフオクで検索すればすぐ手に入るし、こんなに安い値段で買えるじゃん、こんなのもあるんだ、とか。そこからは間違いなくコレクターになった自覚はあります。

──上野さんって作風的にも過剰なところがあるから、その辺も関係してるのかなと思っていたんです。「マンガの描き方の本ばかりがドッサリあったらすごいぞ」みたいな。

上野 いやあ、そういうことではなかったですね。ただ付録なんかは明らかにマニアックな集め方だったなとは思うんですけど。なかなか手に入りにくいものだし、出物がそうあるわけでもないので。例えば本当にマニアだったら、小学館に行って何年の何号にマンガの描き方が載っていたか、そういう付録がついていたかを取材して、リスト化するということも可能だとは思うんです。

──そうですよ。職業柄それも可能じゃないですか。

上野 でも、そこまでするのも面倒くさいんで、誰か代わりにやんないかなあとか思ったりして(笑)。

──『俺ベス』の中でも、度々「誰かやって」的なことは書かれてますね。そういう意味ではマニアとか研究者ともちょっと違うみたいだし、コレクター気質がある人でもなさそうです。

上野 そこはなんか微妙で、他の人から見ればマニアックでコレクター気質だと言われてしまうと思うんですけど、そこまで厳しいものだと自分では思っていない。コレクションのすべてにパラフィン紙をかけて大事に収納するみたいなこともない。

──マンガをたくさん持っているのも仕事上の必然ですしね。

上野 そう、ちょっとイージーなマンガ好きくらいのレベルですよ。

もったいながり屋だから物が捨てられない

──子供の頃にミニカーを集めていたとか、そういうこともないですか?

上野 ないですねえ。怪獣のオモチャを集めていたりはしましたが、それもコレクター的に棚に並べるとか、箱から出さないとか、そういうこともなかったです。段ボール箱に無造作に突っ込んでただけだし。

──ぼくとしては、この300冊超えの「マンガの描き方本」は、コレクター気質によって成されたのか、あるいはマンガ家という職業の必然としての結果なのか、どちらだろうと思っていたんですが、お話を聞いていると、どちらでもない感じですね。

上野 もったいながり屋だから物が捨てられないんですよ。なんでも集めちゃうみたいなところはあるかもしれません。付録にしても、読んだら捨てちゃう人だっているんだけど、それをわざわざ取っておくっていうのはね。取っておき過ぎて部屋がエライことになってるので、いまはダウンサイジングすることを考えているんですけど。そういうみみっちいところから発生してるかもしれないです。

「マンガの描き方本」は単行本サイズのものばかりとは限らない。フェーマス・スクールズの「マンガ専科」はテキストを大きなバインダーに綴じたもので、収納にも場所をとる

──他のマンガ家さんで「マンガの描き方本」を集めている人っていないですかね?

上野 唐沢なをきさんが集めてるらしい、とは聞いたことがあります。

──あー! 作風を見ると上野顕太郎さんと唐沢なをきさんは共通するところがあります。

上野 ……ということは、とり・みきさんも集めてそうだな。

──ようするにパロディというか、マンガ技法のメタ構造をおもしろがったり、掘り下げていく作風の人たちってことですね。

いつか描いてみたい「マンガの“描かれ方”本」

──相原コージさん、竹熊健太郎さんの『サルでも描けるまんが教室』の連載が始まったときって、上野さんはかなり悔しかったんじゃないですか? 「これは俺がやりたかったことだ!」みたいな。

上野 悔しいというより「こんなこと思いつきもしなかった!」という感じだったので、むしろ相原さんたちはさすがだな、と思いましたよ。

──当時、あれが始まったときにマンガ好きたちが騒然としましたからね。

真ん中あたりに『サルまん』が見える。「マンガの描き方本」のパロディの形式をとりつつ、作中の相原と竹熊コンビの壮絶な物語が描かれている

上野 そうかと思うと、加藤礼次朗さんの『めぐみの春』みたいに、主人公がマンガ家を目指しているという作品があって、基本はマンガ家物語なんだけど、ちゃんとそこにノウハウも折り込まれていて、マンガの描き方を伝授していくタイプもあるんです。当然、主人公の感情とかが描かれているんで、プロたる者はこうあらねばならないという矜持みたいなものが入っているのがおもしろいんです。

──ああ、それもお聞きしたかったことなんですが、『めぐみの春』の他にも、『BAKUMAN。』(大場つぐみ、小畑健)とか『かくかくしかじか』(東村アキコ)とか、いわゆる「マンガ家マンガ」ってあるじゃないですか。そういうものも集めていたりするんですか?

上野 それは気に入ったのを買うくらいで、集めてるという感じではないです。

──ですよね。主人公がマンガ家というだけだと、やっぱりキリがない。

上野 そう。よりノウハウ度が高いものが集める対象になるのかな。

──『まんが道』は揃えてますか?

上野 もちろん。ただ、続編の『愛…しりそめし頃に』はちょっと欠けてる。

──ぼくも『まんが道』は夢中になって読みました。

上野 例の高岡に帰省して原稿パカパカ落とすところはトラウマになってます。

──あれはマンガ家さんにとって悪夢のようなシーンでしょう(笑)。

上野 だから、ぼくはプロになってからは一度も落としたことはないです。締め切りだけは絶対に守ろうって思いました。永井豪さんが石森章太郎さんのアシスタントをしていたとき、たくさん来ている編集者たちに石森さんが「待ってて、待ってて」って謝る姿を見て、絶対に締め切りを守ろうって思ったらしいですよ。

──ご自分でそういうもの(マンガの描き方本、もしくはマンガ家マンガ)を描いてみようとは思いませんか?

上野 ああ、何回かちょっと挑戦しようとしたこともあるんですが、『サルまん』がトドメを刺した部分があるので(笑)、自分は何ができるかって考えると難しいですよね。一度「マンガの描かれ方」というのを考えたことがあって。

──なんですか、それ?

上野 主人公たちが自分の描かれている内容を知っていて……。

──また、ややこしいことを言い出したよ、この人(笑)。

上野 どう動くか、次どう動かされるのか、自分たちで予想して。「それはありきたりだろう!」って言ったり。自分たちで打ち合わせしながら物語が展開していくという。

──登場人物たちがストーリーにツッコミを入れる。

上野 ようするにメタ構造なんですよ。「こんなオープニングはねえだろう。やり直しだ!」とか。例えば学園を舞台にして、「教室の机から下は描かない方が楽だ!」とか。

──それは読みたいです!

上野 だから、やるんならちゃんとガッツ入れて、単なるノウハウ本じゃない、これまでになかったようなものを描きたいとは思っています。せっかく資料はたくさんあるので。

──そうですよ!

青い背表紙の『THE ART OF DRAWING MANGA』は海外のマンガの描き方本。他に、カルチャーセンターでの「マンガ講座」のテキストなんかもある

『漫勉』にギャグマンガ家が出るとするなら?

──浦沢直樹さんの『漫勉』(NHK・Eテレ)はどうですか。当然お好きでしょう?

上野 見てます見てます。ただ、ちょっと残念なのはギャグマンガ家が取り上げられていないんですよ。

──そう! ぼくも同じことを思ってました!

上野 それで勝手に考えたのは、仕掛け人が浦沢直樹さんだから、ギャグマンガ家代表として唐沢なをきさんに出てもらう。

──ウラサワナオキとカラサワナヲキ。あはは、それいいなあ。

上野 唐沢さんはそういうのやりたがらないかもしれないけど(笑)。

──ぼく、考えたんですけど、『漫勉』って描画の技法に焦点を当ててますよね。でも、ギャグマンガって技法よりもネタこそが見せ場だから、『漫勉』で撮影するのには向いていないのかもしれません。

上野 作品を描くのに、どういう発想で描いていったのか。思考をたどっていけるようなことが撮影できたらおもしろそうなんですけどね。

──上野さんは絶対『漫勉』が好きだろうから、今日のために『漫勉』のことをツラツラ考えていたんですけど、ギャグマンガ家がほとんど出ていないことに気づいて。東村アキコさんや渡辺航さんはギャグも描くけど、そういう部分でチョイスされていたわけではないし。それで、『漫勉』で見たいギャグマンガ家って誰だろう……って考えて、「あ、上野顕太郎じゃん」って思ったんですよ。

上野 ああ、それはありがとうございます(笑)。

──上野さんが、たとえば『治虫の国のアリス』とかを描いてるときにどういう作業工程を経ているのかを見せてもらえたら、きっとおもしろいだろうなと思うんですよ。

上野 CGとか使って、最初はこういう思考があって、ここから発展して、こうなってというチャートがあったりしたらおもしろいのかなとは思うんですけど。昔やってたカール・セーガンの『COSMOS』みたいな。

──それはもう『漫勉』とは別の番組になりそうですが(笑)。

上野 個人的にはとり・みきさんとか、施川ユウキさんとかの『漫勉』を見たいですね。あと少年ジャンプで一世を風靡したうすた京介さんとか。彼はDVDでマンガの描き方を出してるんですよ(※『DVD付分冊マンガ講座マガジン ジャンプ流 うすた京介特集号』)。その中で語ってたんですけど、やっぱりジャンプで連載するって、普通の連載をするのとはちょっと違うものがあるって。いろいろ晒されて人気投票があって。

──連載を勝ち取るのがすごい大変なのに、やっと勝ち取っても人気投票で下位に落ちるとあっさり打ち切られてしまうという。

上野 過酷ですよ。ぼくみたいに月刊で好き勝手なことばかりやってきた身からすると、ジャンプはとてもとても。

我が家にある上野顕太郎さんの著作。ウエケンの本はいちいちブ厚い。『治虫の国のアリス』は、膨大な手塚作品からネタを拾ってパロディしまくったという異常な作品(撮影:とみさわ昭仁)

コレクションの中でもお気に入りの4冊

──コレクションの話に戻りますが、かなり古い初期の描き方本って値が張るじゃないですか。そういうのはもう入手は諦めてます?

上野 いや、5000円くらいで頑張って買ったやつとか、1万円以上するやつとかもありますよ。最初は様子を見るんですよ。「こんなスタート価格で買う人いるんかね」なんて。そう思ってたら買われて、あわわわってなったり(笑)。もう手に入らないかなーって思ったら、後にもっと安く出てきたりしてね。こういうのは本当に水ものなんです。

──オークションは、同じものを欲しがってる人が複数いれば値段が釣り上がってしまいますからね。でも、この分野はライバルってほとんどいないんじゃないですか?

上野 いや、いるんですよ。付録とかは何度持って行かれたことか。油断はできないですね。いままでいちばん高かったのはモンキー・パンチさんの『コミック入門』(1968年/双葉社)。それが1万3000円くらいだったはず。なかなか出てこないですからね。

──(隣の台所にいる)奥様の手前、「いちばん高かったのはどれですか?」なんて聞きにくかったんですが、ご自分から話してくださいました(笑)。

上野 その辺はオープンにしてるので。

──まあ、仕事の資料ですからね。いちばん気に入ってる本はどれですか?

上野 そうですねえ、石森さんのあれは別格として、藤子不二雄さんの『まんが 入門編』と『まんが 実技編』(共に1976年/若木書房)かな。

上野さんお気に入りの4冊を挙げてもらいました。著者本人が表紙に出ているのはポイントが高いですね。写真だとさらにいい!

──ああ、これはもう表紙からしていい味が出てますね。

上野 元々は少年チャンピオンで連載していたやつなんですけどね。この単行本の最後の方の章には「同人誌を作ろう!」みたいなことが載っていて

──『まんが道』にも出てくる『小太陽』ですね。あれには衝撃を受けました。

上野 それで、中学1年生のときに、ぼくも友達と同人誌を始めるんです。表紙から何から全部手描きの肉筆回覧誌。当時は中学生が印刷なんて手段をとれるはずもない時代でしたから。

──それが『マンガのかんづめ』ですね。上野さんがnoteで連載している紹介記事を読みました。

同人誌の時代「1」昭和の中学生、肉筆同人誌を創る!

上野 そう、中学1年から始めて、高校に進学してもずっと発行を続けるんですけど、回覧誌だから友達の友達のところとか、最後はぼくの知らない高校とかにも回っていったりするんですけど、ちゃんと返ってきていまも手元に残っているのが奇跡です。

望月三起也さんのマンガの描き方本

──余談ですが、今日、ここへ来るとき編集さんに「とみさわさんはウエケンさんとどこで知り合ったの?」って聞かれました。たしかマンガ家とか作家とかが集まる某パーティーでしたよね。

上野 初めて会ったときに『ワイルド7』の話をしたんですよ。

──そうでした。ぼくは中学のとき『ワイルド7』と出会ってショックを受けて。望月三起也さんに憧れてマンガ家を目指したんですが、目標が高すぎて自分の画力が追いつかなくて挫折しました(笑)。

上野 そうだ、望月さんのマンガの描き方本もあるけど、見ます? これは亡くなった後に出版されたんですけど、中身自体はすでに取材が済んでいたので、ご本人のコメントがけっこう入ってるんですよ。

秋本治さんは言うに及ばず、望月作品に影響を受けたマンガ家は無数にいるはず。帯にある「追悼」の文字が悲しい

──望月さんの『漫勉』も見たかったな~(泣)。ぼく『秘密探偵JA』なんて全15巻を3セット持ってましたから。

上野 3セット?

──少年画報社の初版と新版と最新版。版が変わるとカバーのデザインも変わるから、その都度買うんです。

上野 コレクターだなあ(笑)。ネット上に「月刊 望月三起也」というサイトがありまして。

──はい。上野さんもコラムを寄稿されていましたね。

上野 晩年の望月さんには懇意にしていただいて、一昨年くらいには望月さんのご自宅にも伺って、お話を聞かせてもらったり、生原稿を見せてくださったりしていたんです。とにかく人間力がすごい人で。ホテルの予約もせずいきなりドイツに行って、ドイツ語も喋れないのに現地でドイツ人の友達を作って帰ってきて、そのドイツ人が一年後くらいに遊びに来るという。望月さんはドイツ語を喋れないし、彼も日本語を喋れないのに、楽しく飲んで帰っていったって(笑)。

──いい話! ところで、上野さんは老眼来てます?

上野 仕事のときは老眼鏡かけないとダメですね。とにかく困ったのは、自分が昔描いたマンガが読めないこと。

──あはは。上野さん、細かく描き込むの好きだから。

上野 『五万節』の原稿なんかとても無理。文化庁で賞をいただいたとき(※2018年に『夜の目は千でございます』が第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞)、みなもと太郎さんと松田洋子さんとパネルディスカッションをしたんですけど、そのときでかいスクリーンに『五万節』の原画を映して、それでやっと細部が見えた(笑)。

──もしかして『五万節』の生原稿って、いますぐ取り出せたりします?

上野 ああ、出ますよ。あれは人に見せる機会も多いので(と言って出してきてくださる)。

──うわ~~~~~っ!!

(取材後記)
上野さんはひたすらネタを詰め込む作風の人だけに、コレクションもそうした過剰さの延長上にあるのだと思っていたが、ご本人は淡々とされていたのが意外だった。でも、根っからのコレクターよりも、そうではない人が集めてしまう物の方が、独自の視点があったりしておもしろいものです。

取材が終わりに近づいたとき、上野さんの口から『五万節』の名前が出た瞬間に「生原稿」のことを思いついて、ダメ元でお願いしたらあっさり見せてくださった。そうなれば、ラストカットをあれにするのはもう避けられないでしょう。

(この連載は、毎月第1金曜日の更新となります。次回は5月6日の予定です。どうぞお楽しみに!)

  • 取材・執筆とみさわ昭仁

    コレクションに取り憑かれる人々の生態を研究し続ける、自称プロコレクター。『底抜け!大リーグカードの世界』(彩流社)、『人喰い映画祭』(辰巳出版)、『無限の本棚』(筑摩書房)、『レコード越しの戦後史』(P-VINE)など、著書もコレクションにまつわるものばかり。最新刊は、自身とゲームとの関わりを振り返った『勇者と戦車とモンスター 1978~2018☆ぼくのゲーム40年史』(駒草出版)。

  • 撮影村田克己

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