自傷、凍傷、飢餓…ウクライナで苦戦のロシア兵「絶望的な現実」
「自分が今どこにいるのか、何をすべきなのか、多くのロシア軍兵士はわかっていません。絶望的な状況にいるんです」
こう話すのは、ロシア情勢に詳しい筑波大学の中村逸郎教授だ。
ウクライナ侵攻から1ヵ月余り。ロシア軍が大苦戦している。米国防総省によると、一時は首都キエフまで20kmの地点に迫ったが、ウクライナ軍の反撃により55kmまで押し戻されたという。同省はロシア軍の被害状況を分析し、死傷者は最大で2万8000人にのぼると推定。これは01年から21年に起きたアフガニスタン紛争で、NATO諸国が失った兵力の約2倍になる。
「ロシア軍内には、厭戦気分が広がっているようです。プーチン大統領は2~3日でキエフを制圧できると考えていたようですが、戦況は泥沼化し終結のメドさえ立っていませんから。中には軍事訓練と言われ参戦したにもかかわらず、悲惨な戦争の現実を目の当たりにし、精神的に支障をきたす兵士もいるとか。
早く祖国へ帰りたいというのが兵士たちの本音でしょうが、脱走すれば最大で8年の懲役刑を受ける可能性があるんです。ウクライナ治安当局は、ロシア兵の通信を傍受し公開しました。兵士たちは、こう語っています。〈仲間たちは上官にバレないように、銃で自分の足を撃っている。包帯を巻いて、祖国の病院に送り返されることを望んでいるんだ〉」(全国紙国際部記者)
ウクライナ人を誘拐する意外な目的
3月22日には、米メディア『CNN』が同国高官が語った次のような話を紹介している。
〈ロシア軍の士気低下は、深刻なレベルだ。十分な防寒装備もないため、多くの兵士が凍傷に。大きな問題になっている〉
軍の統制もズタズタだ。ウクライナ当局によると、一般市民5000人近くを強制連行。中には、知事や市長などの公人も含まれる。背景には「ロシア軍の悲惨な実情がある」と、前出の中村教授が語る。
「現場の兵士には、報酬や食料が十分にいき渡っていません。やっと食べ物が届いたと思ったら、賞味期限が1年前に切れていたというのは当たり前の話。仕方なく彼らは、武器や支給品を売って何とか日々生活しているんです。
相次ぐウクライナ人の拉致は、飢えに苦しみ統制のとれなくなった兵士たちの仕業ではないでしょうか。市民を誘拐することで、家族に身代金を要求していると思われます。カネ目的の暴走でしょう。現在のロシア軍の内実は、規律などないに等しいマフィア集団のようなものなんです」
プーチン大統領によって形作られた、ロシア軍の体質も影響している。中村教授が続ける。
「戦車や戦闘機など、ハードの面では最新鋭の兵器を揃えています。しかし通信やネットワークなど、ソフトの面を軽視してきました。そのため無線は旧式で、ほとんど役にたっていない。現場の兵士たちには、作戦内容はおろか、自分たちの位置情報すらいき渡っていません。
彼らが通信手段として使っているのは、自分たちのスマートフォンや携帯電話です。スマホにはGPS機能がついているため、敵に居場所をバレやすい。ウクライナ軍からピンポイントで次々と攻撃を受け、被害が拡大。会話の多くが傍受されているんです」
もはや組織としての程をなしていないロシア軍。ウクライナ軍と戦う前に、内部から崩壊しつつあるようだ。
- 写真:ロイター/アフロ Ukraine Navy/EyePress News/REX/アフロ