来園者の連絡が命を繋いだ!イノシシみたいな動物赤ちゃん誕生秘話 | FRIDAYデジタル

来園者の連絡が命を繋いだ!イノシシみたいな動物赤ちゃん誕生秘話

食害、死産、初期感染で生き残れなかったクビワペッカリー赤ちゃんの感動物語

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きゅるん顔のツバキ。飼育スタッフに撫でてもらってご機嫌だ(撮影:菊地弘一)
きゅるん顔のツバキ。飼育スタッフに撫でてもらってご機嫌だ(撮影:菊地弘一)

太陽が温かみをもたらす穏やかな昼下がり。動物園内を走る姿が『かわいい!』と注目を浴びる動物の赤ちゃんがいる。

昨年12月に生まれたばかりのクビワペッカリーの「ツバキ(メス)」だ。

「神戸どうぶつ王国」(兵庫県神戸市)でクビワペッカリーが生まれ育つのは初めて。またこの誕生には来園者と飼育スタッフとの、知られざる物語があったのだ。

肩から首にかけての毛が白や黄褐色で首輪のように見えることから、クビワペッカリーと呼ばれる。北米から南米にかけて生息し、家族が集まった群れで生活をしている。新大陸でイノシシのように進化をしたペッカリーという種で、生物学的にはイノシシとは別の動物にあたる。

「クビワペッカリーは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは〈最も懸念の少ない種〉に割り当てられ、保全評価外(希少種ではない)になります。だからといって、保全や保護をしなくていいとはならない」と園長の佐藤哲也さんはこう話す。

「とりわけ希少種だけが、保全や保護の対象だと思われがちですが、そうではありません。

絶滅の脅威にさらされている種において『種の保存』が行われているわけですが、地球はいのちの多様性のもとに機能しています。生物多様性という大きな枠のなかでは、すべての生きものに保全や保護が必要であるといえます。

自然、動物、人間――この3つはリンクしています。これらはまるで、倒してはいけないドミノ倒しのようなものです。クビワペッカリーもドミノピースのひとつなのです」

撫でてもらったお礼に、飼育スタッフに鼻をすり寄せるツバキ
撫でてもらったお礼に、飼育スタッフに鼻をすり寄せるツバキ

さてクビワペッカリーが同園にやってきたのは、いまから5年前のこと。ツバキの母親「カエデ(メス)」と「フウ(オス、現在は死去)」が伊豆シャボテン動物公園から移ってきた。このとき、カエデのお腹にはいのちが宿っていた。

しかし、初めての出産で赤ちゃんを食べてしまったのだ。その後の出産も死産や初期感染により、次の世代へいのちを繋ぐことはできなかった。

そして4度目の出産を迎えた。今回の赤ちゃんの父親は、4年前に大宮公園小動物園から移ってきた「ヒフミン(オス)」である。

「(出産はないのかな…)と、内心では思っていました。というのも、出産予定からだいぶ日が経っていたのです」こう振り返るのは、飼育スタッフの中川大輔さん。

そんな諦めムードが漂う昨年12月3日、1本の緊急連絡が入ったという。

『クビワペッカリーの赤ちゃんが……産まれています!!』

こう連絡を受けた中川さん。実はこの知らせは来園者からだった。このとき開園時間中の展示場では、来園者が見守るなか、カエデが赤ちゃんを出産したのだ。

「急いで展示場へ向かいました。まず目に入ったのは、羊膜に包まれたままの赤ちゃんの姿です。ということは、カエデは産後すぐ赤ちゃんから離れていたことになります。この時点で食害への不安は消えましたが、死産や初期感染が気掛かりでした。その確認のため、赤ちゃんを園内に併設している動物病院へ運びました」(中川さん)

獣医の診察を受けたあと、初期感染から守るため極力菌を入れないインキュベーター内での哺育体勢を取ることになった。飼育スタッフが交代をしながら、夜中を含め1日6回の授乳から開始。ツバキは初めからミルクをよく飲み、通常よりもはやく離乳食を始めることができた。

発育して体が強くなってくると、次は感染対策が取られた環境から、外の環境に慣れさせなければならない。徐々に外気に触れさせていくのにも、相応の慎重さが求められた。

来園者からの迅速な出産報告と飼育スタッフの懸命な人工哺育により、順調に育ったツバキ。生後1カ月半頃には足腰を鍛えるため、園内を散歩するまでに成長した。来園者とツバキとの交流を、飼育スタッフの雑賀優花さんはこう話す。

「散歩をするツバキを見た来園者のみなさんは『かわいい』といって、温かい視線を注いでいます。

クビワペッカリーはあまりメジャーではない動物ですが、ツバキのアイドル力のおかげで広く知っていただけるようになりました。そしてツバキのいのちを繋いだ物語を通して、この仔の生態など『かわいいの先』にも目を向けて頂ければと思います」

ペッカリーは群れの動物である。ゆくゆくは両親とのお見合いをスタートさせ、ツバキが大人になれば一緒に暮らすことになるだろう。

旧世界をあとにし、新大陸へ向かったペッカリー。その道のりは厳しく険しかったに違いない。母親は立ったまま出産をし、仔は生まれて数分で立ち上がると1~2時間ほどで母親の後ろをついて歩くのだ。このことから、巣を持たず移動することに適応してきた種といえる。(*1)

そして優れた嗅覚や共同体意識に的を絞り、生き延びるための居場所にたどり着いたのだ。あまたの苦難をくぐり抜け、進化をしてきた背景にも思いを馳せてほしい。

【参考文献】
Andrew Lyall-Watson『思考する豚 THE WHOLE HOG』(福岡伸一訳),木楽舎(2009)
1)P100,110 2)p100(Packard 1981)

クビワペッカリーのツバキは、アウトサイドパークの芝生広場で展示中。
神戸どうぶつ王国 公式ウェブサイト
那須どうぶつ王国 公式ウェブサイト

興味津々で子供へ近寄るツバキ。子供の腰ぐらいまでの高さしかない
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飼育スタッフ・中川さんの足の間に避難してひと安心。この行動は『見知らぬものが近づくと、仔は母親の足の間の安全な場所に駆け込む。そして母親はこのようにして仔を守る(*2)』という生態行動による
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舌をペロっと出すいたずら顔も見せたツバキ
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  • 取材・文椙浦菖子(元臨床獣医療従事者) 撮影菊地弘一

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