元王者とトレーナーが解説する「村田諒太・勝利の可能性」 | FRIDAYデジタル

元王者とトレーナーが解説する「村田諒太・勝利の可能性」

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世紀の一戦が迫って来た。4月9日にゴングが鳴るWBA・IBF統一ミドル級タイトルマッチ。日本期待のWBAチャンピオン、村田諒太が、IBFタイトルを持つスター王者、ゲンナジー・ゴロフキンと対峙する。

視線の先に見据えるのは勝利だ

「大丈夫、いい試合をして勝つよ」

3月21日、6ラウンドのスパーリングをこなした後、村田諒太はカルロス・リナレスが構えるミットにパンチをふるい続けた。カルロスと村田の身長はほぼ同じ。このトレーナーは「ディフェンスも忘れるな」と、自らもミットでWBAミドル級王者に手を出した。

カルロス・リナレスとトレーニングに励む

カルロスは、WBCフェザー級、WBAスーパーフェザー、WBC、WBAとライト級のベルトを巻いたベネズエラのゴールデンボーイ、ホルヘ・リナレスの実弟で、日本ミドル級1位として同タイトル空位決定戦経験している。

村田はダッキング、パリング、ブロッキングで、カルロスの攻撃を躱し、間髪を入れずに右ストレート右フック、右ストレート、ワンツー、左ボディフック、ワンツー、左フック、右ストレートと、リズミカルにコンビネーションを放った。

ジム内に、カルロスの指示、村田がミットを叩く音、そしてリング上の2人の息遣いが響く。

「今回、僕は挑戦者の立場じゃないですか。心の持って行き方が、やりやすいですね」という言葉通り、村田が、心身共に充実した状態であることが見て取れた。

カルロスも言った。

「村田の良さを出すように、練習してきた。今、彼は凄く調子がいいよ。ゴロフキンと村田のボクシングは似ているよね。打ち合いになると思う。大丈夫、いい試合をして勝つよ。楽しみだね」

GGG(トリプルG)と称されるゲンナジー・ゲンナジービッチ・ゴロフキンの戦績は、41勝(36KO)1敗1分け。カザフスタン代表として出場したアテネ五輪で銀メダルを獲得し、プロ転向後、まず巻いた世界ベルトが村田が手にした物と同じWBAミドル級タイトルであった。同タイトルを19度防衛する傍ら、WBC、IBFも統一した一級品王者だ。

村田にとって心から尊敬でき、かつ自身を懸けて向かっていける<世界一の男>。チャンピオンvs.チャンピオンであっても、村田は自らを挑戦者と位置付ける。

そして、かつてない規模の一戦に向かう現在の心境をこう述べた。

「どういう気持ちで僕が試合に臨んでいくか、どういう内面的な経験を経てこの試合に向かっていくのかを通して、これから先、次世代に何かを教えてあげられたらと思います。それが、息子、娘だけじゃなくて、僕を目にする人にも伝わったらいいなと。例えば、悩んでいる方にも、弱い自分だからこそ、経験してきた葛藤みたいなものを伝えていけることが出来れば、ボクシングをやって良かったなと思えるんじゃないか、と。

ボクシングをやって勝った、カネを稼いだ、それももちろん幸せなことですが、勝った負けたの結果だけを追いかけるのではなく、自分がやってきたことを次の世代に残せる。重要なのは結局、自分の内面への回帰なんです」

闘志はみなぎっている。準備は万全だ

常に己の生き方を自問自答する村田にとって、ゴロフキンこそ、ベストの対戦相手なのだ。

偉大なる元王者はこう見た

御存知のように、今日のボクシング界にはWBA、WBC、IBF、WBOと4つのメジャータイトルがある。同じ階級に4人のチャンピオンがいれば、誰が最強なのかは分からない。カザフスタン人であるGGGはマッチメイクに恵まれず、なかなかビッグネームとの試合が実現しなかった。にも拘わらずKOでの勝利を重ね、己の価値を高めてきた。

1984年にWBC、1986年にWBAヘビー級タイトルを獲得したティム・ウィザスプーンはゲンナジー・ゴロフキンが歩んできた茨の道ついて、次のように語る。

「アメリカ合衆国のボクシング界で、カザフスタン人の選手が人気を得ることは容易じゃない。判定だって不利に働くことがあるだろう。アメリカ人選手とGGGの試合で、互角のラウンドだったら、相手選手にポイントを与えるジャッジもいると思うぜ。

そういうことを理解したうえで、彼はノックアウト勝ちに拘ったんだ。世界タイトルマッチで18戦連続KO勝ちっていうのは、素晴らしい記録だよ。アマチュアでも経験豊富なGGGは、技術を武器に無傷で判定勝利も収められただろうよ。でも、認知度を上げるため、本場で人気をえるために、対戦相手を倒すスタイルを貫いたのさ」

ウィザスプーンも現役時代、かなりの実力者ではあったものの、悪徳プロモーターによる搾取に泣き、リングへの情熱を失った時期がある。だからこそ、日陰を歩かねばならなかったゴロフキンの状況が理解出来る。逆境を乗り越えて来た現IBFミドル級王者を心から敬う、と言った。

名王者の呼び声高いティム・ウィザースプーン

「GGGも40になるんだな。ここ数試合、確かに衰えを見せている部分がある。2017年9月にサウル・カネロ・アルバレスに引き分けた試合、翌年、判定で敗れた一戦は、どちらが勝っていてもおかしくなかった。結構、パンチを喰らうようになったな。2019年10月にIBF王座に返り咲いたファイトも、え? というような形で被弾した。今回、どのくらいコンディションを仕上げるかが、見物だ」

ウィザスプーンは、ここ6試合の村田の試合映像も目にした。

「彼が戦った世界戦の中で、俺が思うベストマッチは2019年7月12日のロブ・ブラント戦だ。圧勝しての2ラウンドKOだが、ムラタは9カ月前に同じ相手に敗れている。判定ながら、一方的な内容でだ。

リターンマッチでは別人のようになり、ブラントを沈めた。いかに彼が頭を使った戦い方をしたのか、敗北を糧にしたのかが分かる。ブラントには自分がクリーンヒットしたパンチの感触が残っていただろう。同じミスを繰り返さないだけのインテリジェンスをムラタは持っているよ」

ウィザスプーンが感じたミスとは、何だったのか。

「俺が気になるのは、初の世界戦(2017年5月20日、ハッサン・エンダムに判定負け)の途中、イタリア人との試合(2018年4月15日、村田は8回KO勝ちでWBAタイトル初防衛に成功)の序盤、そして、ブラントとの1戦目で、ムラタが相手の出方を窺い過ぎていることだ。見ている時間が長いと、リズムが取れない。逆に向こうのペースになっちまう。

ブラントとの再戦は、そういう反省を生かして積極的に手を出したよな。これが、彼がやるべきボクシングなんじゃないか。本人が気付いたうえで完勝したことで、自信を持っただろう。非常に価値のある勝利だと思う」

4月9日の予想を立てるのは難しいとしながらも、ウィザスプーンは言葉を続けた。

「GGGは2020年12月以来、ジャパニーズガイは、更に1年長い2019年12月以来のファイトとなる。ブランクについては、GGGの方が有利だという見方が出来る。でも、リングに上がれなかった期間にいかなる練習を積み、どれだけ伸びているかは分からない。

やや落ちてきたGGGを相手にするムラタは今回、チャンスだと思う。前回の試合と、当日がまったく同じ状態のボクサーって、あんまりいない。刻一刻と状況は変化するものだし、ボクシングって競技は、練習で致命的なケガをすることだってある。相手を研究し、自分の良さも把握し、そのうえで作戦を立て、きっちりと仕上げた方が勝つだろうな。

両者の経験を比較した場合、当然のことながらGGGにアドバンテージがある。より引き出しも多いだろう。でも、40歳にして20代と同じ動きは出来ないし、試合をすればするだけ、体のどこかが痛むのがボクサーという職業だ。世界タイトルマッチを24戦もしている40歳なら、多少動きが鈍るのも当然だ。まぁ、1年4カ月の間に、ダメージが抜けているのかもしれないがね」

ウィザスプーンは、もう2点、見逃せない要素があると付け加えた。

「GGGは2019年3月に、DAZNと6試合の契約を結んだよな。コロナ禍でなかなか試合ができなかったとはいえ、今回がその契約の4試合目だった筈だ。6試合で1億ドルと報じたメディアもあった。それだけのカネを保証され、まだ飢えた状態にあるか否かもコンディションを左右するだろうな。

それから、俺はムラタがオリンピックで金メダルを獲ったシーンを見ているんだよ。4年に1度、世界中が注目する舞台で勝った男の価値って、本当に青天井なんだ。大いにチャンスがあると俺は見るね」

村田諒太はゴロフキン戦までに、己の生き方を自分自身に問い掛けた。4月9日、WBAミドル級チャンピオンは、何を見せるか。

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  • 取材・文林壮一写真鬼怒川毅

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