コロナ鎖国が招いた外国人留学生の「日本への不信感」 | FRIDAYデジタル

コロナ鎖国が招いた外国人留学生の「日本への不信感」

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本国に留めておく必要がそもそもあったのか 

ビジネス関係者や留学生など観光客を除く外国人の新規入国が、3月からようやく再開された。政府は、当初5000人としていた1日あたりの入国者数の上限を14日に7000人に拡大。さらに、4月から1万人に引き上げる案を検討しているという。

日本が厳しい入国規制を続けて2年。「コロナ鎖国」への批判が国内外で高まり、来日できない外国人留学生の間では留学先を韓国など他国に変える動きも出始めた。

出入国在留管理庁によると、在留資格認定を受けながら来日できずにいる外国人留学生は、2021年末の時点で約15万2000人に上る。

「異常な数だと思いますね」

そう指摘するのは、日本のグローバル化と多様性に言及してきた京都精華大学の前学長、ウスビ・サコさんだ。

「うちの大学でも来日できない外国人留学生が、2020年度と21年度を合わせて120人前後います。その人たちに対しては3つの措置を取りました。1つは入学延期措置で、20年度に合格した人は21年度まで入学を延期できる。2つめは、入学して遠隔授業を受講する。あとの1つは、入学して休学するという選択です。 

でも、私は個人的に、すでに合格している留学生を母国に留めておく必要はないと思っています。彼らは短期滞在者ではありません。来日した後は4年なり5年、日本で生活するわけです。一般の観光客と同一に入国させないこと自体ナンセンスですよ」

水際対策の緩和に伴い、政府は外国人留学生の受け入れを優先的に進めるため、平日の航空機に多い空席を活用する「留学生円滑入国スキーム」を導入。松野博一官房長官は記者会見で、「5月末までには外国人留学生の相当程度が入国できるようになる」との見通しを示している。

「留学生には新学期が始まる4月までに入国してもらいたかったんですが、文科省から新規入国についての発表があったのは2月21日でした。3月から入国できますよと言われても、留学VISAの申請がまだの人は間に合うはずがありません。本国で待機していた人と新入生を合わせ、いつまでに全ての留学生が入国できるかわからない。だから先生たちには、6月か7月まで大学に来られない留学生もいると考えてハイブリッド授業を進めてくださいとお願いしています」 

サコさんの専門は空間人類学。社会と建築空間の関係性を様々な角度から調査研究する傍ら、多様な価値観を認め合う社会のありかたを提唱している。3月31日で4年の学長任期を終えた

国や大学の留学に関する制度、規制はコロナ禍に適さない

長期間にわたる国の水際対策は、日本で学びたい留学生や交換留学の協定校を失望させてきた。この間に招いた不信感を払拭できるかどうかは、留学生が入国した後の各大学の対応にかかっていると言えるかもしれない。だが……。

「留学に関する国や大学の制度、規制には、コロナ禍に適さないものがいくつもあるんです。 

たとえばうちの大学の場合だと、すでに日本で生活している留学生には学費減免を適用し、奨学金も支給しています。でも、来日できずに自分の国に留まっている留学生は、学費減免の対象外になってしまいます。 

学費減免は留学生の仕送りと家賃を確認して確定するんですが、日本に入国していなければ仕送りも家賃も発生しません。「だから判断できない」というのが、どの大学でも基準となっています。でも留学生からすれば、「遠隔授業しか受けられないのに多額の授業料を大学に納めているんです」と思うのが当然でしょう。大学は「授業料には施設利用料も含まれている」と説明していますし。そういう意味で、教育の費用は単純計算の対象ではないと思うので、大学は逆に授業料や学費の説明を改めてほしいですね。 

コロナ禍では整合性がとれない規定にもかかわらず、大学は平時と同じ対応を取ることしかできない状況に追い込まれてしまう。緊急に規定や制度を見直さない限り、事務局もルーチンワークをこなしていれば誰からも文句を言われないことになります。 

でも、学生の支援、奨学金や学費の減免制度も、拡張すれば対象が広がります。未入国学生でも利用可能な制度を、各大学で整備できるのではないでしょうか。 

学長としては言いにくいところもありますが、私は大学に進言しました。様々な規定を緊急事態配慮で改めてはどうですかと。検討には踏み出したものの、なかなかこちらの考え通りには至りませんでした」 

政府は、当初5000人としていた1日あたりの入国者数の上限を14日に7000人に拡大。さらに、4月から1万人に引き上げる案を検討しているらしい

日本人は自信を失い排他的になっている

――大学は、今こそ意志を持ち、学生のためにならない方針やおかしなことには立ち向かう力を持たなければならない――

サコさんは著書『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)の中でそう書いている。

「日本は外国人留学生を受け入れることに積極的だと言っていながら、留学生に不信感を抱かせるような対応をしている。これでは日本の大学は留学先として選ばれなくなります。私は大学の意識を変えていかなければという思いを強くしました。 

実は今、精華の学生が交換留学でヨーロッパに行っています。日本の水際対策で向こうの学生は来日することができなかったんですが、相手国のコロナ対策を確認した上でうちの学生を受け入れてもらいました。大歓迎と言ってくれている大学は他にもあります。留学プログラムがあるから精華に入学したという学生もいるんですから、大学はできる限りのことをして、彼らの要望に応えなければいけません。

当然のことながら、私は国外留学を推奨しています。国外に行くことは自分自身を再発見する機会でもあるんです。日本の外に身を置くことで、初めて自分というものが見えてくる。それが今後の就職活動にもつながっていきます。私としてはなるべく行ってほしい。ですから、今の状況でも実現可能な留学プログラムをセレクトするよう勧めています」

留学生まで対象にした入国規制に対してもそうだが、サコさんには日本の留学生政策そのものに思うところがある。

「国はかつて留学生受入れ10万人計画、その後に30万人計画を打ち出しました。でも、留学生を増やせと言うわりに、日本の社会は受け入れる準備ができていません。大学や社会のグローバル意識を高めるという目的もあったはずなのに、そのための仕組みづくりもなされていない。国として本当に留学生を受け入れる気があるのか、疑わしいですね」

サコさんは著書で、グローバル社会の重要なキーワードの一つに「共生」をあげている。もはやグローバル化を避けては通れない時代だが、日本の社会は多文化共生を実現できているのだろうか。

「グローバル化の定義にもよると思いますが、グローバル化は放っておいてもしていくものです。誰にも止めることはできません。 

その中で、多くの日本人は自信を失っているように見えます。自信を持てないために、このコロナ禍で排他的になっているんじゃないでしょうか。私が日本に来た30年前はバブルが崩壊する直前で、日本人はけっこう大胆でした。今はよそ者を排除することによって『自分は大丈夫だ』という安心感を得ようとしているのかもしれません」

では、ウィズ・コロナの時代を迎えようとしている今、日本にとって、日本人にとって必要なことは何か。

「コロナの感染が広がった2年の間に、地域であったり家庭であったりスローライフ的なところで物事が見えるようになったと感じます。たとえば、留学生が地域のお祭りに参加するなど、交流を図る姿を目にする機会が増えました。 

個と個の関係や多様性をもっと大切にする必要があると、私は改めて強く思います。ウィズ・コロナの時代を迎えた社会は、さまざまな方向性を示してくれるのではないか。そんな気がしています」 

ウスビ・サコ 京都精華大学全学研究機構機構長、同大前学長。1966年マリ共和国バマコ生まれ。85年から中国の北京語言大学と東南大学で学んだ後、91年に大阪の日本語学校に入学。99年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了。2001年、京都精華大学人文学部専任講師に着任。2013年に人文学部学部長、2018年に同大学学長に就任。著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』(世界思想社)など。

  • 取材・文斉藤さゆり写真アフロ

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