カメラを払いのけ裁判所へ…!日大前理事長「法廷の異様行動」
黒いベンツが、東京・阿佐ヶ谷のちゃんこ店前に停まったのは昼前のことだ。
店から出てきた大柄の男性は、集まった記者からの「一連の事件についてどうお考えですか」という質問には答えず、カメラマンを腕で払いのけ、車に乗り込んだ――。
3月29日、2時間ほど後に東京地裁に現れた大柄の男性――日本大学の前理事長・田中英寿被告(75)に判決が下った。懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円の有罪。野原俊郎裁判長は、こう断罪した。
「受注業者から謝礼を受け取っていたことが表沙汰になるのを避けたいと考え、隠蔽のために犯行におよんだ。動機は身勝手で、酌量すべき事情はない」
判決によると、田中被告は18年と20年に取引業者から受領したリベートなど約1億1800万円を除外して税務申告。所得税5200万円ほどを脱税したとされる。
「日大は19年に、付属の板橋病院(東京都板橋区)の建て替え工事を計画していました。建設から50年以上がたち、老朽化が進んでいましたから。その過程や医療機器の調達で4億2000万円ほどが不正に流出し、大学へ損害を与えたとみられています。
背任罪で逮捕・起訴されたのは、工事計画にたずさわった医療法人『錦秀会』前理事長・藪本雅巳被告と、元日大理事の井ノ口忠男被告です。田中容疑者へのリベートの多くは、日大から流出した資金をもとに、両被告が提供したとされます」(全国紙社会部記者)
「日大の女帝」の正体

田中被告が、日大の理事長になったのは08年。以来、昨年逮捕されるまで13年にわたり強固な支配体制を築いていたという。
「特に夫人のUさんの権威は、学内では絶大だったようです。田中被告が全幅の信頼を寄せていましたから。日大で出世するには、まずU夫人に認められるのが絶対条件。そのために多くの幹部が、U夫人の経営するちゃんこ店に通っていたんです。
背任の罪に問われた井ノ口忠男被告も、U夫人に信頼されていました。文字通り日参し、理事にまで昇進した。井ノ口被告の姉もU夫人に取り入り、日大の広報活動の一端を任されていたといわれます」(同前)
日大の方針を決定する、実質的な「幹部会議」もU夫人のちゃんこ店で行われていたという。
「奥まった個室に信頼する幹部を集め、よく『会議』が開かれていたそうです。18年5月に起きた『アメフト部危険タックル事件』についても、ちゃんこ店で対応が協議されたとか。たいがいU夫人も出席していたと聞いています」(別の全国紙記者)
昨年12月に6000万円を払い、保釈された田中被告。妻の経営するちゃんこ店兼自宅で、ほとんど誰とも会うことなく生活していたという。だが、法廷での言動からは反省した様子はうかがえなかった。
「公判での田中被告は異様でした。事実関係を確認する弁護人の問いかけの多くには、『はい、はい』と短く答えるのみ。判決を受けた日は、裁判長から名前を確認され『田中英寿!』と大声で対応しましたが、後はほとんど身動きもしません。最後は傍聴席を見ることもなく、無言のままゆっくりと退廷しました。不貞腐れていた印象さえ受けます」(同前)
判決後、田中被告は弁護士を通じ「厳粛に受け止めております」とコメント。控訴しない方針だという。
一方、被害を受けた日大はホームページで「公共性の高い学校法人の理事長として、在職中に引き起こした決して許すことのできない行為であり、極めて遺憾」と公表した。



撮影:蓮尾真司