取材したウクライナ避難民が「感謝の言葉」を口にする悲しい背景 | FRIDAYデジタル

取材したウクライナ避難民が「感謝の言葉」を口にする悲しい背景

現地で取材をするノンフィクションライター・水谷竹秀氏が、ポーランドの避難所をルポ

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
ウクライナ生まれのカナダ人男性、ハラシムさん(44)。「通訳をしましょうか」と無償で協力してくれた
ウクライナ生まれのカナダ人男性、ハラシムさん(44)。「通訳をしましょうか」と無償で協力してくれた

ウクライナにおけるロシア軍の全面侵攻で、約236万人(3月30日現在、国連発表)の避難民が押し寄せたポーランド。ここには各国から大勢のボランティアが駆けつけている。

3月下旬、美しい街並みが広がるポーランド南部の古都クラクフの中央駅構内で、避難民たちを取材していた時のこと。スーパーの巨大なカゴを手で押しながら、避難民にお菓子を配っている白髪の外国人女性に出くわした。私が日本のジャーナリストだと自己紹介すると、彼女から「私もイタリアのフリージャーナリストよ。名前はソフィア」と返ってきた。だが、どうみてもボランティアの一員にしか見えない。事情を尋ねると、彼女はこう説明した。

「私も取材をする予定で現場に来たんだけど、避難民たちの惨状を見て、ボランティアをすることに切り替えたの。戦争が終わるまで、彼らからのニーズがある限りは続けます」

私が中央駅に通っている間は毎日、ソフィアさんの姿をどこかしらで見掛けた。そのうちに「あなたも来る?」と声を掛けられ、彼女と一緒に支給用のパンやバナナの買い出しに行った。その甲斐あってか、他のボランティアや現場の責任者を紹介してくれた。彼らは皆、英語での取材が可能だが、避難民となるとそうはいかない。

3月22日に日本を発つ前、私が懸念していたことの1つは言葉の問題だった。首都キエフに在住の日本人たちから、

「ウクライナの人は英語がほとんど通じないです」

と伝えられていたからだ。とはいえ英BBCなどの海外メディアの報道では、ウクライナ人の若い避難民たちが英語で取材に応じていたから、正直、現地に行けば何とかなると思っていた。それにフィリピンで長年、取材を続けていた経験からも少しは楽観的に考えていた。

ところがいざ避難民に声をかけてみると、首を左右に振って「英語はできません」というジェスチャーをされるのがほとんどで、英語での会話が成立する避難民は10人に1~2人というのが私の肌感覚だ。当然、それでは取材ができない。

そんな時に、私の傍で通訳を務めてくれたのがボランティアだった。ポーランド在住の若いウクライナ人女性、ダリアさん(28)はその1人で、流暢な英語を話す。彼女には避難民の現状を一通り説明してもらった後、「英語で避難民の取材をするのが難しい」と打ち明けると、「それでは今から私が通訳をしましょうか?」とすぐに対応してくれた。まるでそうするのが当たり前であるかのような彼女の素振りに、逆に恐縮してしまった。

煉瓦造りの大聖堂がそびえるクラクフの中央広場では、ウクライナ生まれのカナダ人男性、ハラシムさん(44)に出会った。広場で避難民による集会が開かれていた時のことだ。彼は避難民ではないが、生まれ故郷の惨状に胸を痛めて集会に参加し、マイクを手にこう訴えた。

「私たちはつい1ヵ月前まで、このポーランドにいることを想像できなかった。美しい街は爆撃で破壊され、人々は殺され、子供までもが犠牲になった。21世紀にこんな恐ろしいことが起きるなんて信じられない」

そして演説の途中で、いきなり日本語を話し始めたのだ。近くで写真を撮っていた私の存在に気づいたからだろうか。集会終了後に話しかけると、日本には旅行で2回訪れただけで、日本語は独学で勉強したという。

そんな彼も「通訳をしましょうか?」と言ってくれた。

「この戦争をもっと世の中に知ってほしいから」

結局、ハラシムさんにも日本語と英語のちゃんぽんで通訳をしてもらった。しかも取材が終わると、なぜかハラシムさんから、

「ありがとうございます」

と感謝を伝えられるのだ。

それは彼だけではない。避難民からも「ウクライナまで来てくれてありがとう」と言われ、別の避難民からは謝意を伝えるカードまで渡された。それには正直、戸惑った。取材をさせてもらっているのは私であるから、本来はこちらが礼を言うべき立場だ。にもかかわらず彼らが口にする「ありがとう」という言葉の裏に、戦争の現実を伝えたいという思い、そしてウクライナの人々の温かさが滲み出ているような気がした。

デモに参加していた避難民の女性。「来てくれてありがとう」と、避難民からは何度も感謝を伝えられた
デモに参加していた避難民の女性。「来てくれてありがとう」と、避難民からは何度も感謝を伝えられた
殺伐とした環境に少しでも安らぎをと、避難民のなかには路上でライブをする人もいた
殺伐とした環境に少しでも安らぎをと、避難民のなかには路上でライブをする人もいた
  • 取材・文・写真水谷竹秀

Photo Gallery3

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事