戦後も死の土地に…?ロシアの「核施設攻撃」で起きる最悪の事態
ロシア軍の軍事攻撃で、放射性物質が大拡散する人類の危機にある。
3月27日、ウクライナ最高会議の人権担当者が北部チョルノービリ(チェルノブイリ)原発周辺で大火災が起きたと指摘。ロシア軍の軍事行動により、31ヵ所1万ヘクタール(東京ドーム2100個分ほど)以上の森林が延焼したという。放射性物質が舞い、大気汚染が進んだとされる。
「86年4月に起きた大事故により、チョルノービリ原発ではすべての原子炉が止まっています。しかし敷地内には、2万本もの使用済み核燃料が保管されているんです。火災が核燃料の貯蔵施設に広がり、大事故につながる可能性も十分考えられました。
消火は早急に行われるべきですが、ロシア軍に拘束されている原発作業員約200人にその余裕はないでしょう。帰宅を禁じられ、ロシア軍が制圧した2月24日以降、1ヵ月以上交代もできず休みなく勤務している。テーブルや床の上で寝起きし、食事は1日1回パンのみだそうです。疲弊状態は極限に達していると思います」(全国紙国際部記者)
ロイター通信などによると、ロシア軍はチョルノービリからの撤退を開始したとされるが、危機に瀕している原発は他にもある。
被害はチョルノービリの10倍
〈原子力施設を攻撃するのは止めろ!〉
3月4日にロシア軍が南部サボリジエ原発を砲撃した際、欧米メディアは作業員の悲痛な叫びを繰り返し報じた。砲撃により、原子炉から300mほど離れた施設が破壊されたのだ。
「チョルノービリと違い、サボリジエの原子炉は稼働中です。しかも6基の原子炉をようするヨーロッパ最大級の原発。爆発すれば、推定10万トンの放射性物質が飛散し342万人以上が被曝したとされる、チョルノービリ原発事故の10倍の被害が出るといわれます。
原発への攻撃は、ジュネーブ諸条約が禁じている明らかな国際法違反です。ロシア軍はチョルノービリやサボリジエだけでなく、東部ハリコフにある物理技術研究所も攻撃している。同研究所にも、核燃料が大量に保管されています」(同前)
ロシア軍が原子力関連施設を攻撃する目的は、ウクライナの電力供給網の破壊や、核武装の阻止にあるとされる。だが、ロシア軍は原発の恐ろしさを十分認識していないようだ。ウクライナの原子力企業「エネルゴアトム」の総裁代理ペテロ・コティン氏は、共同通信のインタビューに対し次のように語っている。
〈ロシア軍は(原子力施設)砲撃の危険性に対する知識が、まったくなかった。核燃料の貯蔵施設が被弾すれば、放射性物質が大量に拡散しかねない深刻な状況でした〉
ロシア兵は防護服も着ずに、原発近辺の高濃度汚染地域で作業。国際原子力機関は、多くの体内被曝者が出ているのではと懸念を表明している。
今後は、最悪の事態も想定しなければならないだろう。東芝の元原子力プラント設計技術者で工学博士の後藤政志氏が語る。
「ウクライナは、電力の約5割を原発に頼る原子力大国です。複数の原発の核燃料がロシア軍の攻撃を直接受ければ、被害は想像を絶するでしょう。風向きなどにもよりますが、北半球の大半が今後数十年間、人の住むことができない『死の土地』になる恐れがある。しかもウクライナは、『世界の食糧庫』と呼ばれる大穀倉地帯です。小麦粉などが汚染され、ヨーロッパは食糧難に陥ります。
ロシア軍の攻撃を受けなくても、大事故の危険性はある。原発作業員が、ロシア軍に拘束されているのが気にかかります。作業員は通常でも緊張感を持って仕事をしている。ましてや銃を持った兵士たちが近くにいれば、なおさらでしょう。核燃料冷却システムの誤作動など、極度の緊張と疲弊から重大な操作ミスが起きないか心配です」
ロシアとウクライナの和平交渉が成立すれば、問題がすべて解決するわけではない。原発の爆発により、人類全体が戦後も甚大な被害に悩まされることになるのだ。
- 写真:AFP/アフロ