『万引き家族』『カメラを止めるな!』でヒットの法則が変わった!

正月映画は『来る』の一点買い!?〔映画ジャーナリスト・大高宏雄に聞く「2018年日本映画界総決算」〕

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「万引き家族」 監督・脚本:是枝裕和 出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/高良健吾/池脇千鶴 / 樹木希林 (C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

2018年、あなたは映画を何本ご覧になったでしょうか? その中に心を揺さぶった作品はありましたか?

日本映画界「2018年の総評」と「2019年の展望」をテーマに、「FRIDAYデジタル」は、映画ジャーナリストの大高宏雄氏にインタビューを行った。大高氏は、「キネマ旬報」「毎日新聞」「日刊ゲンダイ」「ぴあ」などで映画に関する連載を執筆し、1992年から「日本映画プロフェッショナル大賞」を主宰している。そして、映画は試写室ではなく劇場で観客と一緒に鑑賞すること、をモットーとする。いわく「試写室では起こらないことが劇場では起き、試写室ではわからないことが劇場ではわかる」からだという。

数回に渡ってお届けする本インタビュー。登場する作品は日本映画(公開日順)では『ドラえもん のび太の宝島』、『名探偵コナン ゼロの執行人』、『万引き家族』、『カメラを止めるな!』、『未来のミライ』、『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』、『若おかみは小学生』、『来る』など。一方、外国映画では『タクシー運転手 約束は海を越えて』、『判決、ふたつの希望』、『1987、ある闘いの真実』、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』、『search/サーチ』、『ヴェノム』、『ボヘミアン・ラプソディ』などを予定している。

まずは21年ぶりの快挙を成し遂げた『万引き家族』と、日本映画界始まって以来の快挙とまで言われている“あの作品”を分析してもらった。

――2018年の映画界を見渡して最大の特徴は何ですか?

「日本映画では、『万引き家族』『カメラを止めるな!』(以下『カメ止め』)のヒットに目を見張るべきものがある。もちろん、『ドラえもん のび太の宝島』『名探偵コナン ゼロの執行人』『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』など、日本映画界の“岩盤”ともいえる作品も大ヒットした。ただこれらは、大ヒットアニメシリーズの続編、人気ドラマの劇場版であり、いわば定番中の定番だ。

一方、『万引き家族』のカンヌ国際映画祭でのパルムドール(最高賞)受賞は日本映画では『うなぎ』以来21年ぶりの快挙と興行収入約45億円。そして『カメ止め』の製作費300万円、2館から上映館数300館以上に増えての興収30億円超えなどは、日本映画史上、全く稀な大快挙といえる。クオリティの面でも興行の面でも、2018年の話題は『万引き家族』と『カメ止め』に尽きるし、この2作品に、日本映画界の核心部分が反映されている」

――『万引き家族』と『カメ止め』に日本映画界の核心部分が反映されている、というのはどういう理由でしょうか?

「両作品は、ヒットしていく過程での情報展開の方向性が真逆なんです。まず、『万引き家族』(2018年6月8日公開)は、世界注視のなか、カンヌ映画祭でパルムドールを獲ることで、クオリティの高さを見せた。そして、パルムドール受賞を、テレビや新聞をはじめとする既成の大メディアが、近年の映画では例がないくらいにトップ項目で大きく取り上げて、結果として約45億円の興収をたたき出すヒットに繋がった。もしパルムドールを獲らなかったら上映館数は少なく、興収も2億円か3億円くらいだったかもしれない」

――では『カメラを止めるな!』のヒットにはどんな様相があるのでしょうか。

「ヒットする過程での情報展開が、『万引き家族』が“上から”とするならば、『カメ止め』は真逆で“下から”。『カメ止め』はSNSで話題は拡がり、それを既成のマスコミが取り上げることで、さらに話題が拡がった。“ヒットしている”という話題性は、観客が映画を観に行く動機としてものすごく大きい。よく『SNSで拡がる』ことのインパクトが取りざたされるが、それは、“SNSで拡がっている話題が既成のメディアに乗って行くことでさらに肥大化することの拡散力の強大さ”のことでもある。

「カメラを止めるな!」 監督・脚本・編集:上田慎一郎 出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ 長屋和彰 細井学 市原洋 山﨑俊太郎 大沢真一郎 竹原芳子 浅森咲希奈 吉田美紀 合田純奈 秋山ゆずき (C) ENBUゼミナール

実は『万引き家族』には“政府の祝意を辞退する一方で文化庁から助成金を受け取っていた”ことへ一部から批判が生じ、『カメ止め』には“盗作騒動”という、それぞれにマイナス要因となりうる要素があった。しかし、興行にはまったく影響しなかった。2つの作品にはそんなことではビクともしない高いクオリティがあったということ。そうでなければ45億円、30億円超という数字は出ない。

もちろん2作品は、数字の上では、『コード・ブルー』(興収92.2億円)や『コナン』(興収91億円)には及ばない。しかし、『万引き家族』、『カメ止め』のヒットの様相は、特異であり稀有なケースという点で特徴的。2018年は、この2作品がヒットしたことで“ヒットの方程式”そのものが大きく変ったのでは、とすら思う」

――日本映画界始まって以来の快挙といわれる「カメ止め」現象を総括すると?

「映画の世界では邦画、洋画に限らず、テーマ、ジャンル、技術など、色々なことが出尽くしているといわれている。その中で、『カメ止め』は新しい形式を持った作品だった。非常に新鮮きわまる映画で、ゼロとはいわないが、これまでの作品で似ているものがなかなかない。

観客は、『カメ止め』を驚きと感動を持って受け止めた。SNSではネタバレが過敏といえるほど配慮された。ここまでネタバレが話題になった映画も珍しいというくらい。『面白かった。ただ、それ以上はネタバレになるので書けません』というような書き込みも多かったが、それが人々の好奇心を誘ったところも大きいとみる。

昔、『エレファントマン』という映画の宣伝で、エレファントマンのビジュアルを、出しそうで一切出さなかったことがある。結果、『何があるのだ!?』という好奇心が刺激され、大ヒットの要因のひとつになった。人間の気持ちに、隠されているものを知りたいという欲求が、生来的にあるのではないか。

『カメ止め』では情報発信者たちがSNSで“ネタバレしてはいけない”という予防線のようなものを自発的につくりあげていった。それは、宣伝を通して上からできるようなことではないという意味でも印象的だった

またSNSで拡散していくときは、ただ拡がればよいわけではなく、言葉の強さが必要になる。『カメ止め』はSNSで流れる言葉に強度があった。それは、驚きや感動など、人間の色々な感情があの映画の中に組み込まれていたからだ。リピーターが多いということは、ネタがわかっても何回も行くということで、映画の中に芯がなければそういうことは起こらない。ネタがわかった後の内容に強度がある。そこが違う」

――『万引き家族』『カメラを止めるな!』がひとつのキッカケとなり、今年は、情報伝達の方法にも注目が集まりました。

「今年、話題になった作品はすべて、情報伝達のあり方が特徴的といえる。“カメ止め方式”と“万引き家族方式”のどちらが正しいのかではなく、色々なものが錯綜しながら映画興行が成り立っている。既成メディアにも多様な情報発信のベクトルがあるし、SNSにもあるのではないかと感じている」

――そうした潮流も踏まえて、お正月映画(12月~1月公開)の中で注目している作品をいくつか教えてください。

『来る』(12月7日〜公開)、一本です! 理由は、何よりも中島哲也監督作品だから。『下妻物語』(興収6.2億円)、『嫌われ松子の一生』(興収13.1億円)、『パコと魔法の絵本』(興収23.6億円)、『告白』(興収38.5億円)と撮ってきた中島監督なら何かをやってくれるだろう!という期待がある。もちろん、観客が期待していたものと中島監督が描こうとしているものが一致しなかったときに裏目に出る怖さのようなものはある。以前は、そういったときの反応はオブラートに包まれていたようなところがあったが、今は容赦なく様々な声があがる」

「来る」。原作:澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫刊) 監督:中島哲也 脚本:中島哲也 岩井秀人 門間宣裕 出演:岡田准一 黒木華 小松菜奈/松たか子/妻夫木聡 (C)2018「来る」製作委員会

――『来る』への期待のワケをもう少し教えてください。

「『来る』は中島監督にとっても、日本映画界にとっても大チャレンジ。中島監督の前作『渇き。』(興収7.5億円)も(必ずしも世評が高くないが)私は評価しているが、中島監督は、今までの誰とも似ていないことをやってきた。新しいものを見せなければいけないというプレッシャーもあるだろうし、そのギリギリのところで作品を生み出してきた人だ。さらに、ウェルメイドのマーケティング手法に乗っかる人ではない。そういった中島監督の固有の個性が、興行も含めて今の映画界の中でどういう受け止め方をされるのかにも注目している。

予告編を見た限りでは、『来る』は映像の強度で、ぐいぐい押してくる作品のようだ。サスペンス、ホラー、オカルトなどのジャンル性も壊している気がする。中島監督の大チャレンジであり、川村元気プロデューサーにとっても、東宝にとっても、一人の監督の個性を前面に押し出した娯楽作品での大勝負は、大げさではなく、とてつもない覚悟がいる。『来る』というタイトルを含めて、通常、この作品が正月映画であることそのものが、もはや一つの事件だと言いたい。そこも含めて、観るべき作品の筆頭だ」

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大高氏は「今年話題になった作品はすべて、情報伝達のあり方が特徴的だ」と語った。『来る』で予想される情報伝達のあり方は、中島哲也監督の実績から言えば“万引き家族方式”の要素を持ち、極めて挑戦的な題材と想定される観客層からすると“カメ止め方式”の要素をも持っている。

“岩盤”作品以外では苦戦が伝えられた2018年の東宝が、ここに来て持ってきた勝負作が来るのか、来ないのか、確かめる価値は十二分にありそうだ。

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「大高宏雄氏 日本映画界総決算インタビュー」、第2弾以降は、大ヒットしている『ボヘミアン・ラプソディ』や『ヴェノム』に代表される音楽映画やマーベル映画が獲得した新たな魅力、様々な国の作品が評価された単館系作品、『若おかみは小学生』、『未来のミライ』にみる評価の拡散の仕方、大高氏が「日本映画界の“岩盤”」と表現する『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』、『名探偵コナン ゼロの執行人』、『ドラえもん のび太の宝島』の3つの作品の分析、フジテレビをはじめとする各テレビ局が製作する映画の特徴、大都市にさらに新設されるシネコンが及ぼす影響、さらには大高氏が選ぶ2018年のナンバーワン映画、等々、山盛りで語ってもらいます。「第2弾」以降にもご期待ください!

  • 解説大高宏雄(映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)

    1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」、日刊ゲンダイ「「日本映画界」最前線」、ぴあ「映画なぜなぜ産業学」などを連載。著書は『興行価値―商品としての映画論』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(同)、『映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年』(愛育社)、『映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか」(同)など多数。

  • 取材・構成竹内みちまろ

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