「死の組」でも突破はできる…!日本W杯ベスト8への大胆展望
長年にわたり海外サッカーを中心に取材を続けるサッカージャーナリスト・中山淳氏が語る、カタールW杯での日本代表の活躍
今年11月21日に開幕するカタールW杯の組み合わせ抽選の結果、グループEに組み込まれた日本は、ドイツとスペインという世界屈指の強豪との対戦が決定。もう1チームは、6月14日に予定される大陸間プレーオフ「コスタリカ(北中米カリブ地区4位)対ニュージーランド(オセアニア地区1位)」の勝者と対戦することになった。

一般的には「2強2弱」と見られるグループだが、逆に言えば、日本にとっては大番狂わせのチャンスでもある。
まず初戦で対戦するのは、過去4度のW杯優勝(西ドイツ時代含む)を経験する百戦錬磨のドイツ(FIFAランク12位)だ。強国であるのは間違いないが、日本は「情報戦」で大きなアドバンテージを得ている。
というのも、これまで多くの日本人選手がドイツで活躍してきた歴史があり、現在もブンデスリーガ1部で8人、2部でも4人がプレーしている。また2年前からJFA(日本サッカー協会)がデュッセルドルフに事務所を開設するなど、相手の情報を入手するための環境が整っている。
ドイツが日本に対して奇策を打ってくることは考えられないため、日本は豊富な情報をもとにじっくり相手を分析し、少なくとも勝ち点1を手にするための戦略と戦術を練り上げて、それをピッチで実践することだけにエネルギーを注げるはずだ。
もちろん、総合力では相手に分があるが、昨夏の欧州選手権(EURO)の決勝トーナメント1回戦でイングランドに敗れたドイツは、15年続いたヨアヒム・レーヴ監督(62)の長期政権にピリオドを打ち、現在はハンス=ディーター・フリック監督(57)がチーム再建を進めている最中。まだ成熟したチームとは言えず、そこにわずかな隙が生まれる可能性は残される。
最大のポイントは失点をしないこと。日本が基本とする4-3-3システムは強固な守備が武器なので、それに有効なカウンター攻撃を準備しておくことがカギになるだろう。

2戦目の対戦相手は、大陸間プレーオフの結果を待つ必要があるが、対戦する可能性が高いと見られるのはコスタリカ(FIFAランク31位)の方だ。各国のスターが集まる強豪パリ・サンジェルマン(フランス1部)に所属するゴールキーパーのケーラー・ナバス(35)を中心とした堅守が最大の武器。2014年ブラジルW杯ではウクライナやイタリアといった強豪国を次々と破り、ベスト8に食い込んだ。
ただヨーロッパ組が12人もいた当時と違い、コロンビア人ルイス・スエレス監督(62)が率いる現在のチームは、ヨーロッパでプレーする選手が激減し、ナバスを含めて5人にも満たない。所属クラブが選手個々の実力を測る基準だとすれば、戦力の部分では、1チーム丸ごとをヨーロッパ組だけで編成できる日本に軍配が上がる。
逆にニュージーランド(FIFAランク111位)のメンバーは国外組が中心。エースはニューカッスルでプレーするフォワードのクリス・ウッド(30)で、これまでプレミアリーグ50ゴールをマークした実績を持つ。東京五輪では延長戦の末にPK戦で日本に敗れた一方で、若いタレントの息吹を感じさせたニュージーランド。ただ、総合的に見て、日本優位は動かない。

2試合を終えた段階で、筋書き通りに勝ち点4を手にしていれば、3戦目のスペイン戦は勝ち点1を得られればグループ突破が確定する。場合によっては、スペインに負けた場合でも突破の可能性もある。
ルイス・エンリケ監督(51)が指揮するスペイン(FIFAランク7位)はドイツ以上の実力者で、観る者を魅了する攻撃的ポゼッションスタイルが最大の武器。経験豊富な主軸に加え、ペドリ(19)、ダニ・オルモ(23)、フェラン・トーレス(22)ら東京五輪世代や17歳のガビなど多くの若き才能がチームに勢いを与える。正面からぶつかれば、日本が苦戦を強いられることは間違いないだろう。
しかしながら、3戦目を迎える段階でスペインが勝ち点6ポイントを手にしていた場合は、主力を休ませてBチームを編成してくる可能性もある。それは日本にとって理想的な展開で、最高のシナリオ。ドイツを抑えて2位通過を果たす可能性は、ぐっと高まる。
日本が無事にグループ突破を果たした場合、ラウンド16で対戦する相手はベルギー(FIFAランク2位)かクロアチア(FIFA15位)になる可能性が高い。両チームとも強敵ではあるが、いずれも過去のW杯で日本が2度ずつ対戦した経験があるチーム。ドイツやスペインと戦うよりも、精神的には余裕を持って戦えるはずだ。
とりわけベルギーとは2018年大会で逆転負けを喫したものの、相手を追い詰めた過去がある。2002年大会でドロー(2-2)を演じていることも含め、恐れることはない。
いずれにしても、今回の日本はスタート台に立つ段階からチャレンジャーの立場であることは、誰の目から見ても明らか。その分、失うものが何もないことを強みにして、敗戦を恐れることなく思い切って挑むことができる。
日本が目指すベスト8進出の道は、そこに希望の光が見え隠れする。
取材・文:中山淳写真:共同通信イメージズ