髙木美帆選手の食事が教える「人は食べるものでこんなに変わる」 | FRIDAYデジタル

髙木美帆選手の食事が教える「人は食べるものでこんなに変わる」

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「アスリートも特別なものを食べているわけではありません」 

こう言うのは村野あずささん。北京冬季五輪で7レースに出場。4つのメダルを獲得した髙木美帆選手をはじめ、多くのアスリートの食事サポートを行っている管理栄養士さんだ。

「基本はバランス良い食事を整えるところから。これはアスリートでも一般の方でも同じ考え方です。これを私たちは『栄養フルコース型』の食事と呼んでいます」

「栄養フルコース型」の食事というのは、健康を維持していく上で欠かせない5つの栄養素群(炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)を満遍なく摂取できる食事法のこと。栄養素で考えるとむずかしいが、誰でも簡単に栄養バランスよく食事ができるように、①主食(ごはんやパンなどの炭水化物)、②おかず(たんぱく質)、③野菜(海藻類)、④果物、⑤乳製品これら5つを必ず毎食そろえるようにするというものだ。 

「この食事法であれば、誰でもすぐに実践しやすいですし、一般の方にもぜひ取り入れてほしい食事です」

なんだか、当たり前といえば、当たり前。

「ただ、アスリートに限らず、運動をする人にとっては、運動量やカラダづくり、体調面での課題はそれぞれ異なりますので、まずは選手一人一人の課題やめざすべきカラダづくりに見合った栄養強化は必要です。 

髙木選手には平昌五輪前の2017年5月から栄養サポートをしてきましたが、平昌五輪後も毎シーズンごとに課題を確認し、日々の食事量や練習内容や練習量・強度においても密に情報交換し、髙木選手の目的に見合った食事ができているかを日々確認しながら栄養サポートに努めてきました。 

そういう意味ではただ『栄養フルコース型』の食事を食べていればよい、というものでもありません」

北京五輪後の3月12日、オランダ・ヘーレンフェーンで行われたW杯スピードスケートファイナルの女子1500mで1位となり、同種目の今季(2021-21シーズン)W杯総合優勝に輝いた髙木美帆選手。そのパワーのワケは…(写真:アフロ)

中身は一緒だけど、必要なタンパク質は2倍! 

アスリートの食事が我々と違うのは量。

たとえばたんぱく質について、一般の人の場合、最低ラインとして体重1㎏あたり1g必要。そして、ワンランク上の「持続的な健康」を手に入れるには、18歳から49歳(男女)では体重1㎏あたり1.3~2.0g、50歳以上(男女)では1.3~1.8gを摂ってほしいという。ただ実際には、どの年代も1.2g程度しか摂れていないため、まずは1日に10gのたんぱく質(牛乳、ヨーグルトをコップ1.5杯分)を増やしてほしいそうだ。

これに対してアスリートであれば、最低でも体重あたり2gは摂る必要があるという。

髙木選手の体重は58㎏なので、116gのたんぱく質を摂らなければいけないことになる。肉100gで摂取できるたんぱく質は15~20g。20gで計算しても肉だけで考えれば毎日600gを食べなければいけない。

もちろん、ひと口に“肉”といっても、部位によっては脂質の量が多くなるため摂りすぎには注意しなければならない。単純に量だけ摂ればいいというわけでもなく、バランスや内容も考えながら食べる必要がある。

「食事だけで摂るのがむずかしい場合は、プロテインをはじめとするサプリメントで補うことを推奨しています。プロテイン一つとっても、摂取する目的や、練習内容などによっても変わるので髙木選手をはじめ多くのアスリートはいろいろな種類のものを使い分けて摂取しています」 

プロテインには乳由来のもの、大豆由来のものなど主原料にはいろいろな種類があり、またたんぱく質以外に含まれる成分も異なるため、自分に見合ったものを選ぶことも大切なのだという。

たとえば、持久系のトレーニングが中心の日は筋肉中のグリコーゲンを多く消耗しているので、リカバリー対策としてたんぱく質だけでなく糖質もしっかり摂取できるタイプのプロテインを、少しカラダを絞りたいときには大豆系のプロテインを活用するなどだ。

「髙木選手は自分自身のカラダと常に向き合いながら過ごしているので、日々効率よくプロテインを活用していますし、その時々でよく相談をうけています」

五輪で7レースに出場し、4つのメダルを獲得できた訳

「カラダづくりは日々のトレーニングと栄養摂取の積み重ね。まずは選手がどういう体を作りたいか、課題を克服したいかを明確にすることが大事です。 

髙木選手は食という部分では本当に真摯に向き合い、過酷な競技環境の中であっても日々さまざまな工夫と努力を重ねてきました。その5年間の経験が今回の成績に結びついた一つの要因でもあると思います」

北京冬季五輪で髙木選手は、女子3000m、1500m、1000m、500m、団体パシュートと5種目7レースに出場。短距離から長距離まで出場するという離れ業をやってのけた。陸上選手でも長距離選手と短距離選手では体格が全然違う。髙木選手はどのような体を作りたいと思ったのだろう。

「課題としては最初6つありました。1つ目は一人暮らしの食事の見直し。2つ目は、パワーとスピードをさらにアップさせること。3つ目に持久力とスタミナアップ。4つ目に体重や免疫力を落とさないこと。5つ目に貧血対策。6つ目にキレのあるカラダづくりです」

これらの課題をクリアするためにも、栄養への意識改革はもちろん、すぐに実践できて長く継続できる取り組みが必要だったと言う。

「最初は、メニューを作ってほしいとお願いがあったのですが、髙木選手がどんな食事をしているのか、まずは現状をしっかり把握し、そこから少しずつ改善できることを増やしていきながら栄養強化していく方法でなければ続けていくことはむずかしくなります。 

海外を転戦することも多いので、どんな状況でも自分の食事を自分で考えて選択し、摂取できる力を身につけてほしいという思いから、簡単にできる『栄養フルコース型』の食事を毎日徹底するというところから始めました」

確かに毎食5品目をそろえるのはむずかしい。合宿や海外遠征でブッフェ形式でいろいろなものが並んでいるときも、これを考えながら選んでいく。きちんと5品目が摂れているかどうか、髙木選手は平昌五輪までの9か月間、毎食食事の写真を撮り、村野さんに送ったという。その数なんと820枚!

髙木選手から送られてきた820枚の「栄養フルコース型」の食事。アスリートでなくても参考になりそう

それだけではない。トレーニングによって補いたい栄養が含まれているプロテインを村野さんに選んでもらうために、どんなトレーニングをするのか、髙木選手は毎日の練習スケジュールや練習強度、練習前後に摂取する補食の内容もメモを作成して村野さんに送った。しかも、村野さんが理解しやすいように、専門用語には説明をつけて。

「髙木選手の主体性は素晴らしいと思います。細かい情報提供を自らしてくれるので離れていても、どんな毎日を送っているのか手に取るようにわかりました。ここまでやれる選手はなかなかいません」

食を大切に考えた先に成績がある

それにしても食事で、そんなに変わるものだろうか。

「それは選手がいちばん感じていると思います。2021年に現役引退した陸上の福島千里選手の栄養サポートを12年間していましたが、最初は1日の総エネルギー摂取量が1800㎉しか摂れていなかったんです。すべてにおいて栄養が大きく不足していました。 

練習量に合った食事が摂れていないと、疲れやすかったり、ケガをしたり、計画どおりの練習ができなくなる。練習を支えるのが食事なんです」

福島選手は栄養サポートを受けて、北京、ロンドン、リオデジャネイロと3回オリンピックに出場。女子100m、200mの日本記録を11回も更新している。

ラグビーワールドカップで日本代表が活躍した記憶も新しいが、日本代表チームの栄養サポートをしたのも村野さんだ。

1日3回、それを365日、考えて食べるのと、そうでないのとでは大きな差があると、村野さんは言う。

とはいえ、遠征先で栄養フルコース型の食事を摂るのは、むずかしいこともあるのだとか。

「野菜が不足することもありますし、油っぽいものが多くて食べられるものが少ないということもあります。 

とくに北京冬季五輪のときはバブル方式でホテルの外に出ることもできませんでした。だから、日本から必要な食品を持っていくなど事前の準備をしっかり行いました」

オリンピックの選手村にいたら食事に困ることはなさそうだが、そうでもないらしい。

「北京冬季五輪では500mの試合は現地時間22時56分スタート。どのようなタイミングで、何を食べるかが課題でした。 

その2日後には団体パシュートで2試合、さらに2日後に1000mという過密スケジュール。リカバリーを重視しつつ、レース前のエネルギーもしっかり摂りたい。時間軸でスケジュールを確認しながら食事のスケジュールも提案しました。 

最後のレースの前日にも『明日の1000mに向けて、あと(栄養で)できることってありますか』と相談がありました。 

極限状態であっても前向きに、最後の最後まで『できることはあるんじゃないか』と考える。この一言は髙木選手のすべてを物語っていると思いましたし、だからこそ悲願の金メダル獲得につながったのではないかと思います」

疲れやすい、すぐ風邪をひくなどが日常化していたら、人生損。髙木選手ほど徹底してできないけれど、ますは今日からでもできる「栄養フルコース型」の食事を意識してがんばってみようか。そして運動も取り入れながら健康維持を目指したい。

村野あずさ 陸上の長距離選手として全日本大学女子駅伝で優勝し、実業団の横浜銀行で活動。引退後の2002年に旧明治製菓入社。’04年に管理栄養士の資格を取得し、陸上、プロ野球、サッカーなどさまざまな競技を担当。現在はプロボクシング3階級制覇の井上尚弥、スピードスケート髙木美帆、ラグビー姫野和樹、松島幸太朗、陸上の新谷仁美など多数アスリートの指導をしている。

  • 取材・文中川いづみ

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