ウクライナ戦争で発覚…「難民支援が行き届かない」日本の現実 | FRIDAYデジタル

ウクライナ戦争で発覚…「難民支援が行き届かない」日本の現実

新たな在留資格法案を提出した立憲・鈴木庸介衆議院議員に聞く

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今、日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって…

ウクライナからの避難民20人が4月5日、林芳正外務大臣と共に政府専用機で日本に到着した。林外務大臣は岸田文雄総理大臣の特使としてポーランドを訪問し、ウクライナから避難する人たちの受け入れを進めてきた。

しかし3月14日付けのFRIDAYデジタルでお伝えしたように、「避難民」として入国したウクライナの人たちにはまず「90日間の短期ビザ」が発給され、その後「12ヵ月間の特定活動」と分類される在留資格が与えられることが決まっているだけ。林外務大臣は「入国後の支援を行っていく」として一時滞在場所や生活費の支給、日本語教育などの支援を行うとするが、「その後」がまだ見えていない。

そこで立憲民主党は3月29日に「戦争等避難者」という新たな在留資格を作り、避難民を早急に、また円滑に受け入れるための法案を提出した。一体これはどういうものか? 実際に運用されるのか? 提出者である衆議院議員の鈴木庸介さんに話を伺った。

4月5日、ウクライナからの避難民の受け入れを進めるためポーランドを訪れていた林外務大臣とともに避難民20人が羽田空港に到着した(写真:アフロ)
4月5日、ウクライナからの避難民の受け入れを進めるためポーランドを訪れていた林外務大臣とともに避難民20人が羽田空港に到着した(写真:アフロ)

避難勧告が出てもウクライナを出国できなかった120人の日本人…

――そもそものこの法案の主旨はどこにありますか?

「まずは3月1日に私が法務委員会で質疑した内容に、遡らせてください。ウクライナ国内には侵攻当初、300人の日本人がいました。外務省からの退避勧告に出国した人もいましたが、120人で頭打ちになり、その状態が何日も続いていたんです。なんで120人以上が出られないのか? が私の最初の問題意識だったんです。 

そこでインスタグラムやYouTubeでウクライナ国内にいらっしゃる日本人の方々に連絡を取って、『お困りごとはないですか?』と聞いてみると、ある日本人男性の妻がウクライナ人で、その方に連れ子がいて、彼と妻の間にも子供いる。しかし、日本で婚姻関係の書類を出していないので妻と子供2人を連れて来られない。『女房子供を置いては、ウクライナを出れないんですよ』と言われました。 

他の方ではウクライナ人の妻がいて、日本で婚姻届けを出してるものの、外務省に『妻のお父さんお母さんも連れて帰りたい』と言ったら、『それはできない』と言われて断念したんだそうです。コロナ対策の水際作戦で外国人の1日の入国制限が5000人という枠で新たな短期滞在のビザを受け入れないという政府の方針があって、配偶者と子どもしか連れてきてはいけないとされていたんです。政府には当初、現状がよく見えていなかったんです。 

それで法務委員会で、こういうことで日本人が帰って来れなくなっていると質疑で述べたところ、古川禎久法務大臣がその場で手を挙げて、私が何とかしますから、と言ってくれたんです。その翌日には岸田総理が全面的に受け入れると発表し、とりあえず『命のビザ』に関しては良かったなと思いました」

――その対応は評価すべきところだったんですね。そこから新たな在留許可の必要が出て来たわけですか?

「はい、そうです。90日間の短期滞在のビザと、『特定活動』という、働くことや学校に行くことができる、法務大臣の定める特定の活動のみが出来る在留許可を出すと政府は言っています。 

ただ問題が2つありまして、特定活動はふつう半年区切で今回は1年間の在留資格。その先が見えません。もう一つ大きな問題は『裁量行政』なんです。裁量行政とは、法務大臣の裁量に委ねてしまうもので、今の難民認定こそ、究極の裁量行政ですよね。法務省が自分の基準で認定し、認定率はわずか0,4%。だから、裁量行政をできるだけ客観的なものにしてあげないと、日本に来られても日々の生活がみなさん、不安なものだと考えます。 

それで今回、私たちが提出した法律です。これは『難民認定』と『特定活動』の間のギャップを埋める法律です。これだと働くこともできる、国民健康保険に入ることも、税金を払うことができるというビザになり、定住者に近い資格になります。かつ在留許可を判定するときは『国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)』が定める基準で判定するとしますので、法務省による裁量行政から一定の距離を置けるのが最大のポイントです」

――法務省が認定しなくなるんですか?

「認定は法務省がしますが、基準が法務大臣の裁量に依るではなくUNHCRの基準に基づいて行われます。そうすると、最初に申し上げたようなウクライナ人の妻や連れ子も全員いっしょに日本に来れますし、かつ働くことも、医療を受けることもできます」 

これからは「難民を受け入れる日本」を私たちそれぞれがイメージすることが大事(写真:アフロ)
これからは「難民を受け入れる日本」を私たちそれぞれがイメージすることが大事(写真:アフロ)

岸田総理は「誰でも受け入れる」と言っていたが、実際は… 

――夫婦そろってウクライナ人ですというような場合はどうなりますか? 

「今はそれも受け入れる、という方針になっています。岸田総理は当初、どなたでも受け入れるように言っていましたけど、実際の現地での運用を見ている限り、日本に保証人がいないとビザがおりにくいというような話も聞こえてくる。そこは今後もっとしっかり検証していきたい。それが野党の役目ですから」

――この法案で注目したいのは、ウクライナから避難してくる人たちだけでなく、シリア、アフガニスタン、ミャンマーと、紛争のある他の国から逃れて来た人たちへの適用も考えているということです。

「きわめて単純な疑問として、『なんでウクライナ人だけなの?』というのがありますよね」

――そうなると、仮放免で就労が認められず、生活が成り立たない人たちも働ける可能性が出て来ます。とはいえ、立憲民主党は野党ですから、このまま法案が通るわけではないですよね?  

法案が国会に提出されると、法務委員会に付託されます。審議されるかどうかは法務員会の理事会で協議され、内閣提出法案の審議が終わった後に時間があれば審議されることがありますが、多くの場合、審議されません。審議されなくても、我々の提案が政府の案に吸収されればいいと思います。

――それは与党も同じような法案を出してきて、抱き合わせになるということですか?

「国は『特定活動』の在留資格にして、いつでも調整できるようにという意思が見え見えじゃないですか? そうじゃなくて、『ちゃんと身分保障を与えてあげましょうよ』という法案を私たちが出しましたから、今、流れが盛り上がってきたときに話し合い、もしくは政府が法案の名前を変えて新たに出してくるとかといったケースが考えられると思います」

――あるべき方向を示したので、政府としても今の硬直化した難民行政を変えていくかもしれない、という感じですか。

「今回は外圧で「蟻の一穴が開いた」と思ってるんです。だから、このタイミングで穴をグワッと広げていかないと! これまで、なんで難民認定がたった0.4%だったのかを有識者に聞くと、日本に受け入れ態勢がまったくできてないのに受け入れを認めてしまうと、社会的混乱が生じてくるからと言うんですね。それが今回は各自治体で受け入れを表明しています。受け入れてもらえるところで受け入れてもらって、働いて、税金を納めて、生活している人たちがいるという事実を積み重ねていきたいですね」 

「日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって、日本で働きたいと考える人なんて、優秀な人なんて特に来ないでしょう」と鈴木庸介衆議院議員はいう
「日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって、日本で働きたいと考える人なんて、優秀な人なんて特に来ないでしょう」と鈴木庸介衆議院議員はいう

ウクライナ人の難民申請は難しい…その訳とは

――難民を受け入れる態勢が日本では整えられてこなったんですね。それで今回の法案とは別に立憲民主党として『難民等の保護に関する法律』も新たに提出するそうですが、これはそういう態勢を整えるものですか?

「はい。『難民等の保護に関する法律』はもう完成しているんですが、これは難民認定を法務省が決めるんじゃなくて、独立した機関として難民認定を行う、難民等保護委員会というものを作って、そこがUNHCRの見解に基づいて判断していく、というもので、入管改革の一環です。

たとえば今、実はウクライナ人は難民申請が日本で、大変にしにくい状況にあります。なぜかというと、“ウクライナ政府”に迫害されていないと難民申請しにくいんです。その証明はどうしたらいいかと言うと、自分が書いた著作物等に対して実際に政府から圧力を受けたことを証明しなさい、とか。そんなこと難民ができるわけないじゃないですか」

――なんですか、それ? 理解できません。

「今、戦争から避難する人たちが助かるようにしたい。ウクライナの人が難民申請できないというのはおかしいでしょう? ただウクライナからの避難してくる人たちの問題では、これは私がずっと主張してることなんですが、ひとりあたり1年でGDPが3721ドル、年収40万円の国の人たちが、15万円ぐらいする航空券を親子3人で買って来られるか? って、来られないですよね? 

今回は政府チャーター機で来て、日本財団が50億円を出して連れてくるという話もあります。少しずつ動いていますが、受け入れると決めたらそういうことも考えないとなりません」

――これからは「難民を受け入れる日本」を私たちは思い浮かべることが大事ですね。

「そうですね。そもそも論として、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったこと、カルロス・ゴーンさんがいい悪いは別としてああいう形になったこと、今、日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって、日本で働きたいと考える人なんて、優秀な人なんて特に来ないでしょう。だから少しずつ、変えられるところから変えていかないと大変なことになる、という意識をみなさんで共有したいです」

ウクライナから他国に逃れた難民は既に400万人を超えている。日本での受け入れもチャーター機で来日した20人で打ち止め、というわけにはいかないだろう。難民の方々と共に暮らす日本を今こそ政治は真剣に構築していくべきだし、私たちもリアルに考えていくべきときだ。

  • 取材・文和田靜香

    相撲&音楽ライター。庶民目線で政治の世界にぶちかました「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」、「選挙活動、ビラ配りからやってみた。『香川1区』密着日記」(共に左右社)が話題に。最近の関心は女性の政治参画で、鋭意調査中。

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