ウクライナ「地域防衛隊」に志願した女子大生兵士の本音 | FRIDAYデジタル

ウクライナ「地域防衛隊」に志願した女子大生兵士の本音

緊迫の現地ルポ ポーランドからウクライナへ ノンフィクションライター水谷竹秀が見た「戦争という日常」

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カラシニコフ銃や手榴弾の扱い方を学ぶ市民たち

地域防衛隊の女子大生兵士2人組。ミロスラーバさん(右)の両手にはピンクのマニキュアが施されていた

ざわついた教室のような部屋に、「カシャッ」という鋭い音が響いた。

「銃弾を装填したら撃って!」

「銃口は常に下に向けましょう!」

「これがパトロールの基本姿勢です!」

指導者の掛け声に従って、ウクライナ人の若い女性が真剣な眼差しでカラシニコフ銃を構えていた。その側で、男女20人ほどが体育座りをしながら見入っている。男女比は半々だ。

ここはウクライナ西部の都市リヴィウにある訓練施設である。カラシニコフの扱い方のほか、手榴弾の投げ方や軍事医療についての講習もある。施設はロシア軍による侵攻後に開設され、一日当たり約120〜160人の一般市民が参加しているという。これまでの累計は約2000人。施設の担当者が説明する。

「講習は無料で受けられます。受けたからといって戦闘に参加するわけではありません。あくまで自分の身を守るための、基本的な軍事知識を学ぶのです」

戦争勃発前まで、首都キーウで女優をしていたというアナスタシアさん(23)は、手榴弾の模造品を握りしめ、指導者の教えを熱心に聞いていた。

「ピンを抜いて投げたら4秒後に爆発します」

母親と一緒にリヴィウへ避難したアナスタシアさん。友人から軍事訓練のことを聞き、家族の安全を考えて参加した。

「今日一日で少しはカラシニコフの使い方がわかったけど、もっと練習しなきゃ。今は女優としての活動は中断しています。この有事の時に、そもそも女優という職業が人の役に立つ仕事なのか、考えさせられています」

リヴィウの街は人通りが多い。一見すると平穏を取り戻したかのような光景が広がっているが、警報は4月に入ってからも、連日、鳴り響いている。市庁舎周辺にそびえる大聖堂や教会のガラス窓には木の板などが貼り付けられ、いつ起きるともしれない攻撃に備えている。

そんなリヴィウの街で、地域防衛隊に所属する女子大生二人に出会った。地域防衛隊とはウクライナ国防省の傘下にある、民間人で構成される組織で、不審者を取り締まるための警備が主な任務だ。

 

女子大生二人は名門、キーウ国立大学に通っていた。うち一人のミロスラーバさん(21)は、2月24日早朝にキーウで爆音を耳にし、両親と地下鉄駅へ避難した。3月上旬には母とリヴィウへ移動し、父は地域防衛隊に所属した。

ところがミロスラーバさんも、「子供や女性が殺されている現状を黙って見ていられない」と、隊への所属を決意。現在は軍の拠点で生活し、日々、軍事訓練を受け、またパトロールに励んでいる。休日はなく、外出には上官の許可が必要だ。大学生活を謳歌していた日々が、戦争で一変した。

「今まではおしゃれや化粧品、学校の成績などが日々の関心ごとだったけど、戦争によって人生観が変わりました。今は身の安全や家族の絆に重きを置いています。確かに外出は限られていますが、外部とネットで連絡は取れるし、もっと苦しんでいる被害者のことを考えたら、今の環境で十分です。戦争に勝つため、国が団結する時です」(ミロスラーバさん)

彼女たちの取材を終えた翌日、リヴィウ中心部の教会では、大勢の参列者が見守る中、一人の兵士の葬儀が行われた。

彼の名はボラディミルさん。3月23日、戦車の砲撃を受けて亡くなった。28歳だった。同い年の妻とは大学生の時に知り合い、’13年に結婚。二人の娘が生まれた。ボラディミルさんは、クリミア半島が併合された’14年ごろから、ウクライナ東部の前線で戦ってきたが、今回、帰らぬ人となった。その悲報が妻の元に届いたのは、避難先のドイツでだった。

「戦死した2日後に夫の仲間から電話が掛かってきました。ちょうど屋外を散歩中で、人目も憚(はばか)らず泣き叫んでしまいました。毎日のように安否は確認していましたが、まさか……。最良の夫であり、また父親でした。戦争とは本当に恐ろしいものです。今はそれ以外の言葉が見つかりません」

そう語るボラディミルさんの妻は葬儀の最中、ウクライナの国旗を腕に抱え、泣き通しだった。墓地には一人、また一人と、戦場で命を散らした兵士の棺(ひつぎ)が運ばれている。

水谷竹秀氏のYouTubeチャンネルはコチラ!

訓練施設でカラシニコフの扱い方を学ぶ若い女性。生徒たちの真剣な眼差しに、戦争への危機感がうかがえた
リヴィウの街並み。中心部に建つ教会のガラス窓は、シートのようなもので覆われている。軍人の姿も街で散見される
夫が戦死し、葬儀で悲しみに暮れる妻(左から3番目)。ドイツに避難中の娘2人は参列しなかった。夫は28歳だった

『FRIDAY』2022年4月22日号より

  • 取材・文水谷竹秀

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