副職がスタンダードに?フリーザ芸人が語る「令和の芸人の生き方」
ハウスクリーニング業にYouTuber…BANBANBANの山本正剛に聞く
副業を持つことがスタンダードになりつつある今、芸人の世界でも、芸事以外の職を持つ人が徐々に増えている。
BANBANBAN山本正剛さんも、そんな複数の職業を持つ芸人のひとり。
2003年に、小学校からの幼なじみ鮫島一六三(ひろみ)さんとコンビを結成。2007年頃からドラゴンボールのフリーザ芸人としても活動しは
会場が驚きで無言に…
――フリーザ芸人をはじめたきっかけは何だったんですか?
BANBANBAN山本(以下、山本):昔からバイキンマンのモノマネをちょこちょこやっていたんですね。ある日、バイト先のドラゴンボール好きな子に、「バイキンマンとフリーザの声優さんは一緒なんで、フリーザもできるんじゃないですか?」と言われたんです。試しに若手ライブのエンディングで披露したら、想像以上に似てたらしくて、会場が驚きで無言になったんです。それを見た相方が背中を押してくれて、ベジータ芸人のR藤本とのドラゴンボール芸人の活動がはじまりました。
――相方さんの後押しは心強いですね。
山本:あの頃は、コンビの活動に行き詰まってたんです。若手ライブではトップクラスに入って、ルミネtheよしもとにも立たせてもらってたんですが、テレビのオーディションには引っかからなかったんです。その理由が全然わからなくて……。
ぶっちゃけ解散も考えてました。そんな時期だったんで、「とりあえず、お前だけでもテレビに出てくれ!」っていう気持ちだったんだと思います。結果的に、それがコンビを存続させることにもなるので。
フリーザ芸人になったおかげで、アニメ関連・声優関連の仕事や配信系の仕事が増えましたね。月に一度、BANBANBANとして「アニソンディスコ」というライブをして、それ以外はフリーザ芸人をしていました。
鬱を乗り越えて、フリーザを自分のものに
――プライベートの方も変わりましたか?
山本:俳優さんとの輪が広がりました。それこそ、若手の方から大御所の方まで。中でもお世話になっているのが、フリーザの声をされている中尾隆聖さんです。僕のことを「僕に似てる子がいるんだよ」とか「僕の双子なんだよ」ってまわりに紹介してくださるくらい、本当によくしていただいています。
……実は僕、フリーザ芸人をはじめて少し経った頃に、軽い鬱になってしまったんです。
ある日、急にパーンって頭の中で何かがはじけちゃって、仕事先に行けなくなりました。声が似てるってことでフリーザ芸人の仕事が増えていくのに、自分的にフリーザをうまく操れてなくて、現場に行っても何もできなくて、それでも毎週ネタを作らないといけないとか、色んなことが重なってしまって……。
山本:先ほどもお話ししましたが、相方はすごく理解のあるやつなんで(笑)、僕がいつ帰って来てもいいように、一人でBANBANBANとして活動していました。だから、僕が今こうやって活動できてるのも相方のおかげです。
相方と同じくらいに大きな存在だったのが、やっぱり中尾さんでした。精神的にヤバい状況になって、すぐにメールで伝えたんですが、そのときは特に何も言わず、僕が少し回復してきたときに「がんばれ」って、「山本くんは絶対に復活するって分かってたから返信はしなかった」って言ってくれたんです。
こんな僕でも認めてくれている人がいるんだ。ここで立ち止まってたらダメだって思ったら、前が向けるようになりました。それから、誰に対しても「(フリーザの声で)殺しますよ!」って言えるようになったんです(笑)。
子どもの誕生をきっかけにハウスクリーニング業を開始
――ハウスクリーニングをはじめたきっかけは?
山本:2016年に子どもが生まれたことですね。それまでは居酒屋やカラオケでバイトしてたんですが、子どもを育てるとなると色々と不安があるんで、夫婦の間で「手に職をつけた方がいい」という話になりました。そこから、僕がもともときれい好きというのがあったんで、ハウスクリーニングを勧められました。
ハウスクリーニングって、芸人のアルバイトにめちゃくちゃ向いているんですよ。シフト制でスケジュール調整しやすいですし、遅くても大体15時ぐらいには終わります。その頃の稼ぎは、芸人とハウスクリーニングとで半々で、妻も働いていたんで、生活もちゃんとまわっていました。
でも、2018年に2人目が生まれて、妻から「芸人を辞めて転職をするか、芸人を続けながら個人事業主として働くか、どっちかにしてほしい」と言われて、後者を選びました。
――つらい2択ですが、奥様の理解度の高さがうかがえますね。
山本:たぶん、芸人を続けてほしい気持ちがあったんだと思います。まぁ、成り行きで会社を立ち上げたんですが、酸性とアルカリの2種類の汚れをどう落とすのかっていう掃除の基本をわかっていれば、そんなに難しくはないんで。
月によって仕事の入り方が変わるんで、安定しているとは言えませんが、芸人活動を優先できるし、一般の方とも触れ合える貴重な時間なので、特に不満はありませんね。
――YouTubeの方は?
山本:R藤本とドラゴンボール芸人のニコ生配信をしていて、他にも同じようなコンテンツがあるならやっておくかという感じでスタートしました。これも成り行きですね。一応、コンビでのYouTubeチャンネルになるんで、週に一度はコンビの動画をアップして、それ以外はコラボやフリーザネタ、お掃除レクチャーなど、色々な動画をアップしています。
配信系でいうと、17LIVEとTikTokで生配信もしています。「別の仕事が3つ」って認識じゃなくて、「3つまとめての1本の仕事」として考えています。YouTubeは動画のストック場所、17LIVEとTikTokはファンとの交流が目的という立ち位置です。
今はまだ子どもが小さいので、夜の9時に寝て3時に起きるんで、生配信などの個人でできる撮影は朝3時から7時の間にやっています。まわりから「大変そう」と言われるんですが、実際には空いてる時間を有効活用しているだけなんで、大変ではないですね。
仕事が3つあるから芸人を続けられる
――3つのお仕事を両立するのは難しくないのですか?
山本:難しくないです。どれがメインっていう意識もないですし、3つを上手いこと生活サイクルの中に組み込んでいるんで、早朝生配信もツラくはないです。それぞれに違った面白味もありますし、それぞれが他の仕事の宣伝にもなるんですよ。
たとえば、僕が何者か知らずにハウスクリーニングの依頼をした人には、フリーザ芸人やYouTubeのことを知ってもらえますし、配信系の仕事からは、僕が芸人であること、ハウスクリーニング業をしていることを知ってもらえます。3つの仕事がいい感じに相乗効果を生んでるから、芸人を続けられるんです。
最近は、それぞれの仕事が少しずつ成長していて、「ハウスクリーニングをしているフリーザ芸人」というのでも知ってもらえるようになりましたし、FRIDAYデジタルさんのように「素顔でもOK」と言ってくれるメディアも増えました。どれも終わりがない仕事なんで、それぞれが大きくなるように地道に育てていきたいですね。
- 取材・文:安倍川モチ子
- 撮影:番正しおり
WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。