聖地・お台場に1000台が集結!久々の「痛車イベント」は大盛況
2019年3月以来の開催 お台場に見たことのない痛車が続々登場

痛車。「見ていて痛々しい車」というのが由来の、マンガやアニメ、ゲームのキャラクターを貼ったクルマたちのことだ。この自動車文化は時代とともに移り変わり、今や日本だけでなく、アメリカや中国などの外国でも目にするようになってきた。
1940年代に戦闘機などの機首部分に描かれた「ノーズアート」が発祥
「女性の絵」を「乗り物」にあしらうのは、第二次世界大戦真っ只中の1940年代にはすでに見られていた風潮だ。アメリカ軍の爆撃機や戦闘機などは機首部分に「ノーズアート」がしばしば描かれ、絵の題材は好戦的な動物や敵を嘲笑する内容の絵、漫画のキャラクター、そして当時流行りの女優などが多かった。
自動車に女性の絵を貼るのは1970年代後半のF1マシンにも見られたが、それと痛車文化は大いに異なる。「痛車」は日本独自の漫画・アニメ文化におけるキャラクターへの愛を、誰の目にでも入りやすく、なおかつオリジナリティが表現しやすい「自家用車」という存在と組み合わせることで、最大限アピールできるという点が特徴だ。
そんな痛車だが、3月27日に日本最大の痛車イベント「痛車天国」が3年ぶりに「痛車天国2022 RETURNS」としてお台場で開催され、日本全国から約1000台もの痛車が集結した。新型コロナウイルス感染症や東京五輪に翻弄されて長らく開催できていなかったため、今回のイベントは久々のお台場を懐かしむ来場者で大いに盛り上がった。
痛車と言ってもそのスタイルは千差万別。車種や貼る位置、デザイン、キャラクター、そして車自体のカスタムなど、全く同じものは存在しない。車種選択の傾向は元々クルマ好きで痛車を始めた人と、その作品が好きで痛車を始めた人で異なる。
話を聞いた中では、もともと周りの知り合いに痛車オーナーが多く、その人たちに感化されて自分も実際に痛車にしたという声が多く聞かれた。
「知り合いのラブライブ!を貼っているレガシィに憧れて自分も痛車をやってみたくなりました」
「実際に痛車を作ってみたら楽しくて、他の人にもその魅力を広めたくなりますね」
最近はツイッターなどで同じ作品が好きな人同士で繋がることが一般化しており、その中で痛車というのもそういったコミュニティでもたらされる波及的な効果の一端を担っていると言えるだろう。

元からクルマが好きな人は簡単に言えばスポーツカー系の車種や、マイナーな車種で痛車をやりがちだ。それに対し、クルマに興味はなく、単に「自分の好きなキャラクターを貼りたい」という点から痛車を始めた人は、貼れる面積が広いミニバン、ワンボックスカー、ステーションワゴンなど、「キャンバス」としてクルマを選択する傾向にある。「若者のクルマ離れ」が叫ばれて久しいが、好きなキャラクターへの愛を表現する手段として車に興味を持ち、実際に購入した例はかなり多い。「見ていて痛々しい」文化かもしれないが、日本における自動車文化をさらに発展させるためには重要なものではないだろうか。
キャラを貼らない痛車も登場
また、キャラクターの貼り方はフルラッピングレベルの豪華なものから、ボンネットやフェンダー、トランクリッドなど、車体を構成する部品単体に施工する貼り方も存在する。また、作品のキャラクターを大々的に貼るだけでなく、その作品に登場しそうなクルマ(作中内企業の社用車や学校の保有車など)を自分のクルマで再現する「キャラを貼らない痛車」というスタイルも人気となりつつある。
痛車のオーナーが勢揃いし、自慢の痛車を展示する痛車イベントは日本各地で随時行われている。その中でも、痛車天国は痛車専門誌「痛車天国 超」を出版する八重洲出版が、芸文社「痛車グラフィックス」の「痛Gふぇすた」を引き継ぐ形で2017年よりスタートした。だが、お台場での開催は会場の青海臨時駐車場が東京五輪の競技体験型イベント施設「2020 FAN PARK」の設営に使用されたため、2019年3月を最後に開催されていなかった。
お台場の使用が叶わない間はメインのイベントを大阪万博公園にて開催したり、新潟市で開催される漫画・アニメのイベント「がたふぇす」とのコラボレーションでオンライン形式の痛車天国も開催されていた。だが、大阪でのイベントは参加台数が約400台、オンライン開催の方でも2021年は459台となり、毎回約1000台が展示されるお台場とは、やはり規模の面で大きな差が見られる。
今年の痛車天国では2021年2月よりゲームのサービスが始まった「ウマ娘 プリティダービー」に登場するキャラクターや、昨今流行りの「バーチャルユーチューバー(VTuber)」を貼った痛車が目立った。また、2020年10月からアニメの放送も始まった「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」はお台場近辺が舞台ということもあり、特に遠方出身で、なおかつ痛車天国がお台場で開催されていなかった間にその作品を貼った痛車を製作したオーナーは、聖地・お台場でようやく自慢の痛車を展示できることに大きな喜びを感じたはずだ。
日本発のユニークな自動車文化、痛車。各々のオーナーが自分の「好き」を最大限に表現した自慢の「作品」はどれも多種多様で、間違いなく「愛」が感じられるものだろう。





取材・文・写真:加藤博人