「地面師」7つの事件簿 他人の土地を売り飛ばす詐欺集団の手口

〔寄稿・森  功〕神出鬼没の詐欺師集団と知能犯係ベテラン捜査員の闘いが始まった!&「写真で見る地面師事件」

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「積水ハウスが地面師に55億円以上を騙し取られた」というニュースに日本中が驚いた。

そもそも、「地面師」とはなんなのか?

「不動産の持ち主になりすまし、勝手に不動産を転売して大儲けする」詐欺集団で、いま日本中に跋扈している――。

この恐るべき集団の全貌に迫ったのがノンフィクション作家の森功氏だ。『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で2018年、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞した森氏が、『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』を同章受賞後第一作の書下ろしとして刊行した。

本書には奇々怪々な7つ事件の真相や深層が描かれているが、今回、「FRIDAYデジタル」のため、象徴的な「積水ハウス」事件のハイライトを森氏が書き下ろした。

「積水ハウス」事件の舞台となった五反田の老舗旅館「海喜館」(うみきかん)

「積水ハウス」事件で繰り広げられた大捕り物

森 功(ジャーナリスト)

「私の田舎は茨城県なのですが、ちょっとした桜の名所がありましてね。やっぱりこの時期になると、見たくなるんですよ」

2017年4月初旬、不動産会社の営業マンが貸会議室で打ち合わせしたあと、たまたま乗り合わせたエレベーターの中で彼女にそう話しかけた。ごく自然な取引相手との世間話のつもりだった。

そこで、彼女がポロリとつぼやいた。

「私も田舎に帰って桜の花を見たいわ」

営業マンは首を捻った。

「おかしいな、生まれも育ちも五反田の旅館のはずなのに」

会社でその会話を上司に報告すると、上司は怪しんだ。本人確認のために近所の聞き込みを命じられたという。それで、この不動産業者は命拾いをした――。

代わりに積水ハウスが詐欺師たちの罠に嵌められてしまったのである!

詐欺の舞台となった廃業旅館の「海喜館」は、JR山手線五反田駅から歩いて五分もかからない、目黒川を渡ってすぐのところにある。その元女将で持ち主の海老澤佐妃子になりすましたのが、羽毛田正美(事件当時72歳)である。ついうっかり「田舎に帰りたい」と漏らしたニセの元女将は、1955年3月生まれの63歳だが、年齢より老けて見える。

積水ハウスは100億円の価値があるとされる旅館の敷地が手に入ると思い込み、ニセの元女将になりすました羽毛田に騙された。総額70億円の取引のうち、手付金を含めた63億円を彼女のところに払い込み、その大半を詐取された。被害額55億5000万円という途方もない詐欺事件である。

東京五輪を控えた昨今の地価高騰に目を着け、地面師と呼ばれる詐欺師がどこからともなく湧き出ている。地主のなりすましを仕立てて優良物件を売り払い、10億、20億円と荒稼ぎをしている。警視庁管内だけでも、この数年の被害届は50件を下らないといわれる。全国の警察が地面師たちに手を焼いてきた。

積水ハウスの被害届を受け付けた警視庁捜査2課は事件から1年4ヵ月後の10月16日、羽毛田と内縁の夫と称して取引に立ち会っていた常世田吉弘(67)ら8人を逮捕した。

地面師事件の捜査は、なりすまし役を捕まえなければ始まらない。ニセ地主が詐欺の実行犯だからであり、ある意味、それは捜査の常道でもある。ただし、地面師事件における首謀者はたいていなりすましではなく、ほかにいる。言ってみればなりすまし役は、事件ごとにスカウトされ小金を渡されて動くだけだ。詐欺集団にはなりすましを探してくる「手配師」も存在し、その上に事件を計画する首謀者がいる。

何十億円という大金を詐取する地面師事件で、なりすまし役の報酬は多くて200万円ほど、少なければ10万円程度で仕事をさせる。単なる捨て駒に過ぎない。したがって捜査は首謀者や手配師を捕縛しなければ意味がないのである。

くだんの積水ハウス事件で警視庁は、15人前後と逮捕予定者を定めてきた。その最大のターゲットが内田マイク(65)だった。数いる地面師の頂点に立つ男といわれ、積水ハウス事件以外にも、数多くの事件を画策してきた。内田は積水ハウス事件の着手前、他の事件で刑が確定し、網走刑務所に服役していた。積水ハウスの事件の企画立案者である。

警視庁は11月14日、女満別空港発羽田空港行きの便に乗せ、東京拘置所に移送した。内田は待ち構えていたマスコミを前に余裕の笑みを浮かべ、悠然と拘置所に消えた。

警視庁は20日、改めて積水ハウス事件で内田を逮捕した。また逮捕を察知して逃げていた土井淑雄(63)を六本木の愛人マンション宅前で張り込み、22日に身柄を押さえた。土井は積水ハウスから振り込まれた銀行口座の売買代金を引き出し、現金を振り分けた首謀者の一人だ。これで逮捕者は15人にのぼった。ひと月以上にわたって繰り広げられた文字どおりの大捕り物である。

一方この間、警視庁は大失態をおかしている。それが3人目の首謀者、カミンスカス(旧姓小山)操(58)の捕り逃がしだ。羽毛田ら第一陣検挙の3日前にあたる10月13日午前1時15分のこと。NHKをはじめとしたマスコミ環視のなか、小山は羽田空港からフィリピン航空のファーストクラスに乗り、愛人のもとへ悠々と高飛びしたといわれている。

警視庁はこの小山の検挙に加え、この先、騙した金の行方を突き止めなければならない。多くの地面師事件では、摘発できても詐取した現金の行方が杳として知れない。55億円がどのように分配されたのか。まさしく詐欺師集団の手によって、闇の中に溶けてなくなっているかのようだ。

逮捕された積水ハウス事件の首謀者たちは、取り調べに対して当然のごとくシラを切る。

「俺もなりすましに騙された、事件なんか知らない」

むろん地面師詐欺の被害は積水ハウスだけではない。知能犯係のベテラン捜査員と神出鬼没の詐欺集団の闘いは、始まったばかりである。

〔森 功〕


「地面師」事件の現場を撮った!

『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』では、7章にわたって「地面師」たちが起こした7つの事件に迫っている。ここではその中から、都心の超一等地で繰り広げられた4つの事件のあらましをお伝えする。

撮影:濱崎慎治

〔1〕五反田「積水ハウス」事件 現場:品川区西五反田二丁目

五反田「積水ハウス」事件 現場:品川区西五反田二丁目

JR五反田駅から徒歩3分の超一等地にある老舗旅館「海喜館」(うみきかん)を舞台に、積水ハウスが地面師集団から55億円を騙し取られ、大きな話題となった。10月19日に警視庁捜査二課が犯人逮捕に踏み切り、それ以降すでに15人が逮捕されているが、主犯格のカミンスカス操は海外逃亡を続けている。

旅館業を実質廃業していた「海喜館」は、再開発用地として不動産業界で注目の場所だった。地面師たちは多くのデベロッパーや不動産業者にも詐欺話を持ちかけていたが、最終的に騙されたのが業界のリーダーとも言える積水ハウスだったことで注目を集めた。

〔2〕新橋「白骨死体地主」事件 現場:港区新橋四・五丁目

新橋「白骨死体地主」事件 現場:港区新橋四丁目のテナントビル(五丁目に自宅がある)

2014年に開通した新橋から虎ノ門に抜ける環二通り(通称マッカーサー道路)周辺はオリンピックに向けて大規模再開発が進む。その一角にある古いテナントビルの底地の持ち主女性が、2016年の10月、白骨死体で見つかった。

彼女は死の2年ほど前から奇行を繰り返しており、警視庁愛宕署は「事件性なし」と判断しているが、不動産業界ではその死を怪しむ声が根強い。なぜなら、2015年の4月に彼女の住民登録が港区新橋から大田区大森南に、突然移動していたからだ。彼女が大森南に実際に住んでいた痕跡はなく、「地面師による偽装工作の一環」と疑われるのも当然だ。

〔3〕溜池「アパホテル」事件 現場:港区赤坂二丁目

溜池「アパホテル」事件 現場:港区赤坂二丁目

外堀通りを赤坂見附から溜池交差点方向に向かい、途中を右斜めに入ると六本木通りに抜ける裏道になる。その通り沿い、ビルが立ち並ぶ中にぽっかりと空き地のような駐車場スペースがあるのは、不動産業界では有名だった。114坪のその土地は、立地といい広さといい、アパグループがホテルを建てるには、うってつけの条件と言えた。

そんなアパグループ側の前のめりな姿勢が、まさに地面師の餌食となった。持ち主である年老いた兄弟のなりすまし役を本人だと信じ、コロッと12億円を騙し取られた。

〔4〕富ヶ谷「台湾華僑なりすまし」事件 現場:渋谷区富ヶ谷一丁目

富ヶ谷「台湾華僑なりすまし」事件 現場:渋谷区富ヶ谷一丁目

NHK放送センターから井の頭通りを北に進み、そのまま左折する井の頭通りに沿って走ると、その土地は現れる。富ヶ谷交差点の少し手前、まさに井の頭通りに面した147坪の空き地が、地面師事件の舞台となった。ここもまた、左右背後を高い建物に囲まれる「不思議な空き地」として、不動産業界では垂涎の土地だった。

土地の持ち主は元吉祥寺在住の台湾華僑で、現在は日本を離れていた。そこが地面師たちの目のつけどころで、なりすまし役を仕立て、デベロッパーを騙した。この事件では現役弁護士が詐欺取引に関わっていることでも注目を集めている。


『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』著:森 功  第一章「積水ハウス」事件/第二章 地面師の頂点に立つ男/第三章 新橋「白骨死体」地主の謎/第四章 台湾華僑になりすました「富ヶ谷事件」/第五章 アパホテル「溜池駐車場」事件の怪/第六章 なりすまし不在の世田谷事件/第七章 荒れはてた「五〇〇坪邸宅」のニセ老人  発売日:2018年12月06日/定価 : 本体1,600円(税別)/ページ数:250ページ

『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』をネット書店で購入する

  • 取材・文森 功

    (モリ イサオ)1961(昭和36)年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。岡山大学文学部卒。「週刊新潮」編集部などを経て独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。『黒い看護婦』『ヤメ検』『同和と銀行』『大阪府警暴力団担当刑事』『総理の影』など著書多数。『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で2018年、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。本書が同賞受賞後第一作の書き下ろし作品となる。

  • 撮影濱崎慎治

Photo Gallary10

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