元ヘビー級王者が断言「もう一度やれば村田はゴロフキンに勝てる」 | FRIDAYデジタル

元ヘビー級王者が断言「もう一度やれば村田はゴロフキンに勝てる」

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世界的にも注目された、ゲンナジー・ゲンナジーヴィッチ・ゴロフキン(GGG)vs.村田諒太戦。1984年3月9日にWBCヘビー級タイトル、1986年1月17日にWBA同級タイトルを獲得したティム・ウィザスプーンも、フィラデルフィア近郊の自宅でこの激闘を目にした。

村田はこれまでの試合では繰り出したことのない多彩なパンチを見せた(写真・山口裕朗)

1957年12月27日生まれのティム・ウィザスプーンは、高校までアメリカンフットボールの花形選手として活躍。NFL入りを夢見ていたが、大学1年目に腰を痛めて挫折。その後、プロボクサーとなった。19戦目にWBCヘビー級、26戦目でWBA同級王座に就く。WBAの初防衛戦では、敵地イングランドでおよそ4万人の観客が見守るなか、フランク・ブルーノに11回KO勝ちして実力を示した。

ボクシング史に名を残す名王者の目には、この試合はどう映ったのか。試合終了のおよそ24時間後、感想を聞いた。

トラブルに陥っていた

「GGGは、これまでに見たことがないほど苦戦したね。今までのGGGとは違う。年を取ったな。衰えたな、という印象だ。準備が不十分だったのか、とさえ思った。ムラタのボディーを浴びて、トラブルに陥っていた。

一方のムラタは非常にアグレッシブだった。最高のスタートを切った。右が鋭かったし、ボディショットも良かった。いいパンチを持っているよ。前半でのKO勝ちもあり得ると思ったな。

でも、マウスピースが吹っ飛んだ6ラウンドくらいから、ペースダウンしてしまったね。序盤が良かっただけに、惜しかった。お前(筆者)に送ってもらったムラタの映像を見るのは、これで7試合目か。GGG戦が一番良かったんじゃないか。WBAタイトルを奪還したロブ・ブラント戦よりも出来が良かったように思う」

明暗を分けたものについて訊ねると、元世界ヘビー級チャンピオンは言った。

「そりゃあ、経験の差だろうな。GGGは40歳になったとはいえ、ペース配分が出来たんじゃないか。ピンチに動じない冷静さもあった。ムラタのいいボディーを喰らった後、いかに凌ぐかの策があった。ポイントを失っても、巻き返す力があった。

細かい連打を浴びせる。フットワークを使う。ガードの隙間からパンチを入れていく。ジャブでもフックでも、軌道を変えていく、そういう引き出しの多さを感じたよ」

名王者も村田のファイトを称賛した(写真:林壮一)

村田諒太は自分の力を振り絞って最後まで闘い抜いたと思う、という私の言葉を聞いてウィザスプーンは応じた。

「ムラタは、いい試合をした。足りなかったのは、GGGの経験を超える賢さだったかな。前半で飛ばし過ぎてペースダウンしたんじゃなく、パンチを受けたダメージで失速したように見えたね。

もう少し上半身を柔らかく使って、色々なパターンのコンビネーションを打つべきだった。ムラタは耐える力も闘志も、申し分のないチャンピオンだ。いい準備をして体を作ってきたのも分かった。GGGからタイトルを獲り返すには、ちょっとの差を埋める作業が必要になる。マジで、ほんのちょっとの差だと思うぜ。それが経験であり、インテリジェンスじゃないか」

ウィザスプーンは、語気を強めた。

「ムラタは強弱をつけたコンビネーションを覚えたいね。今回放ったのは、3つのパンチのコンビネーションだよな。4つ、5つと、もっと手数の多いコンビネーションがほしい。ジャブの角度も増やしたい。

それから、パリングだけじゃなく、ヘッドスリップで相手のジャブを躱すこと。結構、GGGのジャブを喰らってしまったよな。ブロックしてすぐにリターンジャブを打つことも覚えたいし、肘で相手のパンチを殺すことも大事だ。やっぱりボクサーは打たれちゃダメなんだよ。インファイトが得意なムラタのような選手こそ、徹底的にディフェンスを磨かなければ」

44歳にして、IBFヘビー級9位にランクされていたウィザスプーンは言い切った。

「ムラタはまだ伸びると思うぜ。36歳って、まだ出来る年齢だよ。昨日の動きを見る限り、今がピークじゃないか。練習次第でもっと自信が付くように思う。今回の試合で自信を持ったか、心が折れたかで今後が決まるだろう。ただ、俺はムラタがベルトを取り返せると見る。冗談抜きにな」

ゴロフキンが村田に勝利したことで、既に米国では、9月17日にGGGがサウル・”カネロ”・アルバレスの持つWBA/WBC/IBF/WBOスーパーミドル級タイトルに挑戦する話が熱を帯びている。アルバレスは5月7日にWBAライトヘビー級タイトルへの挑戦が決まっているが、GGGとの第3戦がより注目を集めている。

「GGGがカネロと3戦目か……ムラタ戦以上に準備しないと難しいな。今回、かなり打たれたので2カ月間くらいは休養が必要だろう。カネロに勝てるか否かは、その後のトレーニングで決まる。試合開始のゴングまでに、何が出来るかが左右する。スキルをいかに磨くか、どうコンディションを整えるかだ」

ところで、とウィザスプーンは質問してきた。

「ムラタは自分に強い男だと感じた。ストイックな男なんだろう? かなりの努力家だよな?」

私はこれまで見て来た村田諒太について、一通り説明した。

「読書家であり、勉強家か。素晴らしいね。大学もきちんと卒業したんだな。尊敬するよ。俺はドロップアウトしてしまったからな」

ウィザスプーンは苦笑しながら言った。

「家族を大事に思っている点も好きだ。そういう親の子は、真っすぐに育つだろう。いいパパなんだろうな」

その点では、あなたも負けていないでしょう、と私は告げた。ウィザスプーンに結婚の経験は無いが、一男五女の父親である。子供たちを全て、”男手一つ”で育てた。

「子供たちに言い聞かせたのは、教養を身に付けろってことだ。ブラックにとって、自分を守ってくれる最大の武器は『学』なんだ。俺はそれが理解できなかったから、フットボール推薦で入った大学を中退した。今でも後悔している。

きちんと大学で学んだムラタは、学問の尊さを分かっているだろう。それでいてミドル級の世界チャンピオンとなり、大舞台で闘うんだから、大した男だ」

ウィザスプーンの息子と4番目までの娘は既に成人したが、2010年生まれの五女はまだ小学生で、今も父と娘、2人の生活を続けている。190センチの体を折り曲げ、フライパンを手に朝食を作り、娘の宿題を手伝う元世界ヘビー級チャンピオンの姿を見る度に、微笑ましく感じる。

「俺は打たせないボクシングをしてきた自負があるが、リングに上がるってことは、やっぱり生命の危険を孕んでいる。何度か、負け試合の最中に子供たちの顔がよぎったこともあるよ。恐怖に打ち勝つにはトレーニングしかないが、晩年は子供の世話で充分にトレーニングする時間が取れなかった。

ムラタにそんな経験は無いだろうが、彼がケガをせずに、家族のもとへ帰れたことが喜ばしい。GGGもそうだ。頭のいいムラタなら、リングを離れてもきっと上手く人生を渡っていけるだろう。

俺が45歳までリングに上がったのは、お前も知っての通り、カネを稼ぐ最良の方法が試合をすることだったからさ。アメリカには、そんなファイターがいくらでもいる。そして哀しいことに、ダメージに悩まされている男も数え切れない。次世代のファイターには、絶対にそんな風になってほしくない」

ウィザスプーンとの会話中にも、ゴロフキンが愛用していた民族衣装のチャパンを村田にプレゼントした件について触れた。ウィザスプーンは白い歯を見せて言った。

「美しい話だな。お互いを認め合っているのさ。GGGは闘いながら、尊敬の念を感じたのだろう。モハメド・アリ、ジョー・フレージャー、ジョージ・フォアマンのビッグ3も、そんな関係だったように思う。フレージャーは、アリからゴリラだの何だのと酷い言葉を投げつけられたから傷付いていた部分もあるが、心の底では敬っていたさ。

俺は1996年の末に闘った、レイ・マーサーと仲良くしているよ。しょっちゅう電話を掛け合っている。ボクサー同士って、練習のハードさ、試合の厳しさ、苦しさ、お互いに痛みを分かり合っているから、通じ合うんだ。もちろん人間だから、合わない奴だっていくらでもいるけれど、GGGとムラタは親友になるかもな。大事なガウンを贈ったなんて話を聞くと、こっちも心が温かくなる」

統一ミドル級タイトルマッチで男を見せた村田諒太。4月9日の彼は、美しき敗者だった。その姿は、長きにわたって語り継がれていくことだろう。

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  • 取材・文林壮一写真山口裕朗

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