年間1000万人が死亡「人食いバクテリア」があなたを狙っている
発症から数十時間で命を奪う致死率30%の恐るべき病 世界で年間1000万人もの命を奪っている
音もなく近寄り、アッという間に命を奪う”暗殺者”のような病、「人食いバクテリア」が猛威を振るっている。致死率は新型コロナウイルスの最新データ0.13%に対し、約30%。発症から死までのタイムリミットは数十時間しかない。

函館稜北病院総合診療科の舛森悠(ますもりゆう)医師は「厄介なのが、体調が思わしくないとか、ちょっと腫れているとか、初期症状も見た目も大したことがなく、診断が難しいこと」だと警鐘を鳴らす。
「病の正式名称は劇症型溶血性レンサ球菌感染症。溶連菌といえば、ピンと来る方もいるでしょう。子供のころ、喉が痛くなる風邪の原因だったあの菌が、身体の深層の組織(筋膜など)に入り込むと、ときとして『人食いバクテリア』に豹変(ひょうへん)します。最初はわずかな痛みですが、1時間に数㎝のスピードで範囲が広がり、臓器が壊死していく。誤解を恐れずに言えば、生きながらにして人間を腐らせ、侵食していくのです。処置が遅れると、数時間で多臓器不全となります」
舛森医師がいまも忘れられないのが、「急激に脚が痛み出した」と救急搬送されてきた中年の男性のケースだ。
「とくに傷は見当たらないのに、触るだけで激痛を訴えていました。血圧が低下し、血液を調べるとすでに多臓器不全の状態。翌日には足がみるみる赤黒く変色していき、2日後に息を引き取りました」
今年3月、日本ハムの名物スカウト、今成泰章(いまなりやすあき)氏(享年66)が開幕前に急死。’17年には西武の森慎二コーチ(享年42)が、体調不良を訴えた数日後に亡くなっているが、命を奪ったのはいずれも「人食いバクテリア」だった。
この病の恐ろしさは、マスクや手洗いだけでは感染を防げないことにある。本人も気付いていない微細な傷から、侵入してくるのだ。
「プロ野球関係者が急死したことで衝撃が広がりましたが、健常者にも感染リスクがあります。症例の報告はここ10年でなんと9倍に増えています。対策は――傷口の洗浄と消毒を徹底し、感染対策をすること。発症が疑われる場合は速やかに診察を受け、医師にその旨を告げること。それしかありません」(舛森医師)
「人食いバクテリア」を含む細菌やウイルス感染による著しい臓器障害、いわゆる敗血症による世界の死者数は年間1000万人以上。世界保健機関は「世界が取り組むべき課題」に設定している。


『FRIDAY』2022年4月22日号より
取材・文:吉澤恵理(医療ジャーナリスト・薬剤師)PHOTO:Science Photo Library/アフロ(溶連菌)