黒ネクタイで「核のボタン」を持ち歩くプーチンの戦慄の狙い
ロシアのプーチン大統領(69)が、東部アムール州の「ボストーチヌイ宇宙基地」降りたったのは4月12日だ。すぐそばに複数のSPや軍人がつき添う。そのうち1人の手には、真っ黒なカバンが――。
「黒いカバン」が多くの人の目にさらされたのは、この日だけではない。4日前の4月8日。極右政党党首の葬儀にプーチン大統領が参列した際にも、警護スタッフが同様のトランクを持っていた。英紙『タイムズ』や『ザ・サン』は、以下のような見出しで「黒いカバン」について報じている。
〈プーチン氏が極右政治家の葬儀に参加し『核のボタン』と一緒に写真におさまった〉
〈プーチン氏 『核のボタン』を運ぶスタッフとともに葬儀へ参列〉
「核のボタン」の中身
見出しに踊る「核のボタン」とは、核兵器の使用を決定する運命のカバンだ。
「米国でもロシアでも、核攻撃の決定は大統領の専権事項です。『核のボタン』には、実際に核ミサイルを発射できるスイッチが内蔵されているわけではありません。核兵器の使用命令を出すための、一連の重要事項が入っている。具体的にはセキュリティ認証コードや、専用電話、攻撃オプション表などです。
プーチン氏は99年12月に、当時の大統領エリツィン氏から『核のボタン』を受け継ぎました。『核のボタン』は短時間のうちに大統領に届けられるよう、常に近くにあります。カバンを持つスタッフは、米国では国防総省などによる厳しい審査で決められるんです」(全国紙国際部記者)
プーチン大統領はウクライナへの侵攻開始直後から、たびたび核兵器の使用を示唆している。戦況はウクライナ軍の激しい抵抗でロシア軍が大苦戦。泥沼化した状況を打破するために、核兵器が実際に使われる危険性は日に日に高まっているのだ。
「単なる脅しではなく、核攻撃できる準備はできているぞという意思表示でしょう」
こう語るのは、ロシア情勢に詳しい筑波学院大学の中村逸郎教授だ。
「プーチン氏は、核兵器の使用に踏み切る場合の3つのパターンを想定しています。一つはロシアが攻撃を受けた時。2つ目は同盟国が攻撃された時。3つ目は、ロシアの存立基盤が危機に瀕した時です。
3つ目のパターンは、デフォルト(対外債務の不履行)も当てはまる可能性もある。西側諸国は、国際的な決済ネットワーク『SWIFT』からロシアの主要銀行を除外することを決定。厳しい経済制裁でロシアの国力を削いでいます。このままではロシアの存立基盤が揺るぎかねない。『核のボタン』を見せつけることで、プーチン氏による核兵器の使用が現実味を帯びてきました」
冒頭で紹介した「核のボタン」を随行させた2日間、プーチン大統領は黒いネクタイを締めていた。中村教授によると、ウクライナで亡くなったロシア兵への哀悼の意思が込められているという。同志を失った悲しみは、プーチン大統領の中で徐々にウクライナへの憎悪に展化しているのかもしれない。
- 写真:ロイター/アフロ