専門家が分析 開戦1か月半のロシア軍「苦戦」5つの原因 | FRIDAYデジタル

専門家が分析 開戦1か月半のロシア軍「苦戦」5つの原因

軍事ジャーナリスト・黒井文太郎レポート

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開戦前「ウクライナは2日で落ちる」と豪語していたロシア。が、凄まじい戦闘が1か月半続き、終わりが見えない。この戦争の現況を分析する 写真提供:Ukraine Navy/EyePress News/REX/アフロ

ウクライナに侵攻しているロシア軍が、作戦を変更したようだ。

首都キーウを攻めていた部隊を撤退させ、態勢の立て直しを図っている。その一部は東部戦線に回されるものとみられる。また、北東部からウクライナ第2の都市ハルキウを攻めていた部隊からも、一部が東部のドンバス地方に向かった形跡がある。

ロシア軍は今後、ウクライナ東部での作戦を強化することを公言しているが、ウクライナ当局からの情報発信では、ウクライナ軍もそれが実際に行われると考えているようだ。ウクライナ軍が各種情報の分析からそう想定しているなら、実際にロシア軍は、ドンバス地方で近く大攻勢に出てくる可能性がきわめて高いとみていい。

これから、壮絶な戦闘が始まる

ロシア軍は当初、ウクライナ軍を過小評価しており、ロシア軍の侵攻作戦は粗雑きわまりないものだった。が、ウクライナ軍の抵抗に遭って苦戦したことから、長期戦用の態勢に変換したようだ。4月9日までにようやく、ウクライナでの作戦を統括する総司令官も任命された。今後、ロシア軍の攻撃はかなり激しいものになり、迎え撃つウクライナ軍との壮絶な戦闘が予想される。

ロシア軍失敗の要因は

では、当初のロシア軍の作戦の失敗はどこにあったのか。その主な要因をまとめてみたい。

①確保できなかった航空優勢(制空権)

本来、侵攻にあたっては、相手の防空システムや航空基地を無力化して「航空優勢」を得て、その後に大規模な空爆で相手の地上部隊を叩いておいてから地上部隊が進撃するというのがオーソドックスな作戦なのだが、ロシア軍はそれができなかった。

実は侵攻初日、ロシア軍はたしかに最初はミサイル攻撃を行って「ウクライナ軍の防空システムと航空基地を破壊した」と発表している。しかし、実際にはほとんど破壊できておらず、ウクライナ軍の防空システムは生き残った。そのため、その後もロシア軍の航空機が撃墜される事例が相次いだ。

これはおそらくウクライナ軍の防空部隊がロシア軍の攻撃を回避する措置をとっていたからと思われるが、それにしてもロシア軍の攻撃は規模も小さく、それに戦果の確認もできていない。ロシア側の攻撃の中途半端さが目立っていた。

②安易に戦線を拡大

地上戦でロシア軍が失敗した最大の要因は、戦線を広げすぎたことだ。ウクライナ周辺に展開したロシア軍の総兵力は約19万人で、おそらくその実戦部隊のほとんどがウクライナ領内に侵攻したとみられる。少なくとも15万人以上にはなるだろう。

しかし、その規模では、日本の約1.6倍もの広い国土を持ち、人口4000万人以上を抱えるウクライナを制圧するには、まったく不充分だ。とくに兵力から見れば、ウクライナは2014年のクリミア半島とドンバス地方へのロシア軍の侵略を受けて以降、兵力の強化に取り組んできており、正規軍が約20万人、正規軍同様の重装備を持つ内務省の国家親衛隊が約6万人、さらに正規軍の指揮下に組み込まれている予備役の動員部隊である領土防衛隊が今回の侵攻を受けてきわめて大規模に配置されている。つまり、兵力ではウクライナ側のほうが優位にある。しかも土地勘もある。

兵力が不充分なロシア軍が制圧地域を拡大しても、そのエリアの防衛はまず不可能だ。ロシア軍の支配は面の支配ではなく、主要都市や要衝とそれらを結ぶ幹線道路という線の支配になる。そうなると制圧したといっても、ウクライナ軍は補給路を側面から攻撃できる。逆にロシア軍は、その伸びきった補給路を守ることが難しい。

③ウクライナ軍を過小評価したための準備不足

そもそもロシアはウクライナ軍を過小評価しすぎた。そのため緻密な作戦もなく、侵攻に踏み切った。おそらく侵攻の意思を秘匿するために、各部隊には演習だとしか知らされていなかったものとみられる。

そのためロシア全土から集まった部隊は、統一された司令部もなく、それぞれ軍管区司令部の指揮で行き当たりばったりにバラバラに動いた。陸海空はもちろん、地上部隊同士の連携もできなかった。

④ウクライナ軍の術中にはまった

ウクライナ軍はおそらく米英の協力を得てロシア軍のこうした弱点を分析し、それなりの対策をしていた。たとえば、歩兵が携帯する小型の対戦車ミサイルや対空ミサイルを大量にNATOから供給され、前もって米英特殊部隊らから訓練も受けていた。

たとえば北東部からキーウ東方に進撃してきたロシア軍部隊などは、幹線道路をキーウ郊外までほとんど無傷で進んできたところを、周囲から対戦車ミサイルや砲撃で狙い撃ちにされ、多大な被害を受けた。おそらくウクライナ側が故意に引き入れて待ち伏せしたのだろう。

こうしたウクライナ側の事前の準備から、彼らの反撃の手法をロシア軍側も研究して対策を施すべきだったが、ロシア軍は相手を過小評価し、充分な検討をしていなかった。

⑤サイバー戦・電子戦での敗北

上記の待ち伏せ攻撃でもそうだったが、ウクライナ側はドローンを駆使してロシア軍の位置を正確に把握していた。相手の位置が正確にわかれば、戦闘ははるかに有利になる。

筆者は当初、ロシア軍は侵攻にあたってサイバー戦や電子戦でウクライナ側の電子システムを破壊あるいは妨害するものと推測していた。遠隔操作されるドローンなども電子戦で使用不能にされる可能性が高く、仮に使った場合、操縦者の位置が割り出されて逆に危険なのではないかとも思っていた。

しかし、実際にはウクライナ軍はドローンを縦横無尽に使っている。ロシア軍は電子戦でドローンの運用を妨害しなければならないが、それがまったくできていないのだ。

しかも、ドローンの偵察情報は米国・スペースX社の衛星回線「スターリンク」を経由してウクライナ軍と共有され、攻撃作戦に使われた。

さらに、ネットや携帯電話も普通に使えており、それがウクライナ軍の作戦にフルに生かされている。つまり、電子戦の分野でロシア軍は有効な手が打てていないのだ。

それどころか、逆に電子戦でやられている。もとより充分な数の軍用通信機器が前線部隊に配備されていなかったようだが、その通信すら妨害されて使えなかったり、傍受・解読されたりした形跡が多くみられる。そもそもロシア軍の技術力が遅れていたせいもあるが、ウクライナ軍の戦力を過小評価したために事前に充分に電子戦防護の準備をしていなかったこともありそうだ。

ただ、おそらくサイバー戦と電子戦の分野では、事前に米英がかなりウクライナ側に協力し、能力を上げていたのではないかと筆者は推測している。前出「スターリンク」の役割などオモテの話は報じられているが、おそらくそれ以外にも、米英の国家機関が極秘にウクライナ側を支援していた可能性がある。

ロシア軍の凄まじい損失と今後の戦況

以上、ロシア軍が1か月半にわたって「苦戦」している要因を挙げてみた。もちろん、これだけがロシア軍の苦戦の原因というわけではないが、この5点はとくに大きな意味を持つだろう。

開戦から1か月半で、作戦に参加したロシア軍はほぼ2割の戦力を失ったともみられている。凄まじい損失だが、ロシア本国で予備役の招集が始まったとの情報も伝えられており、今後は態勢を立て直して巻き返しを図ってくるだろう。戦線を限定し、そこに限られた戦力を集中する。つまり、オーソドックスな戦いのかたちに戻ったともいえる。

東部で行われるこれから数週間の攻防が、事態の趨勢を決めることになりそうだ。

  • 取材・文黒井文太郎写真提供Ukraine Navy/EyePress News/REX/アフロ

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