特集!「円安&インフレ」の今こそ狙い目の日本株厳選
1ドル135円台も見えてきた 『カプコン』『任天堂』などのゲーム銘柄、外需で強い『JUKI』ほかミシン関連、食糧危機で注目される『サカタのタネ』……

急激な円安が止まらない。今年3月初頭には1ドル=115円だったのが、3月28日には6年7ヵ月ぶりに一時1ドル=125円台を突破。4月11日に再び125円台へ戻り、「円の底値」として意識される「黒田ライン」の前後で停滞するのが当たり前になってきた。
「従来、円は安全資産とされ、ロシアによるウクライナ侵攻のような有事においては、円高になる傾向がありました。そうでなくなったのは、日米の金利差や日本の慢性的な経常赤字など、構造的な根深い原因があります。簡単に解決できるものではなく、円安は当分続くと考えていいでしょう。1ドル=135円台を超え、160円あたりまで値動きしても不思議ではありません」(株式評論家の渡辺久芳氏)
円安と世界的な原材料の値上げにより、実質的なインフレ状態に陥っている日本。ところが、日経平均株価は3月末に2万8000円台まで回復するなど、「思ったより下がっていない」のが現状だ。これは、日銀による買い支えもあるが、外国人投資家のマネーが日本に集中していることもひとつの要因だ。マーケットバンク代表の岡山憲史氏は次のように言う。
「現在の日本の株式市場は外国人投資家が支配していると言えます。外国人投資家は3月25日までの3週間で、日本株先物を1兆4291億円買い越しています。その後値上がりした株を売り越し、再び割安になった現物株に買いを入れている状況です。このような円安基調の中で、輸出高のメリットを受ける企業に注目です」
円の価値がどうなるかわからない時代だからこそ、「円安銘柄」で株式投資を始めてみるのはどうだろうか。狙い目はどこなのか、トピックごとに見ていこう。
まず、世界で圧倒的な求心力をキープしているゲーム関連銘柄だ。証券ジャーナリストの今野浩明氏は次のように言う。
「『モンスターハンター』や『バイオハザード』が世界的ゲームタイトルになっているカプコンは、海外売上比率が約5割を占めています。一般的な製造業と違い、原材料高が悪影響にならないことも大きい。IP(知的財産)ビジネスやメタバース分野のさらなる展開も期待される企業です」
ゲーム業界のガリバーである任天堂も底堅い。証券アナリストの宇野沢茂樹氏が解説する。
「王道ですが、任天堂は外せません。米国売上高比率は約4割で、円安メリットはとくに大きいです。現在の株価は安いとはいえませんが、まだ上値はあると見ています。『ニンテンドースイッチ』の発売から5年が経ち、新作タイトルも出ていますが、そろそろ次世代ゲーム機への期待が高まってくる頃です」
反対に、原材料高騰で売上高アップが期待されるのが、食糧関連の銘柄だ。前出・今野氏はこう説明する。
「サカタのタネは種苗で国内トップクラス、海外では21ヵ国に拠点を持ち、170ヵ国以上で事業展開しています。海外売上比率が約6割と高いのも魅力です。ウクライナ侵攻は小麦の価格高騰に影響を与えていますが、それ以外の農作物の価格も世界的に上昇し、内需・外需の両方の面で評価が高まっていくでしょう。一般的に、食糧は景気変動や金利上昇などの影響を受けにくい業態ですから、まさに今が狙い目と言えます」
日本の小麦の自給率は約15%で、農林水産省によると今年4月から輸入小麦の主要銘柄平均で17.3%の政府売渡価格引き上げが実施されたという。こうした状況で、日本の食卓を支える「コメ」の価値が再び高まっている。株式アナリストの佐藤勝己氏は、ある銘柄を挙げる。
「倉庫業や物流サービスの準大手であるヤマタネは、精米卸売りの大手としても知られています。世界的に小麦価格が高騰、そこに円安まで加わる状況だと、為替差の影響を受けない国産のコメの価値が見直されます。’07~’08年に小麦価格が高くなり、米食が見直された前例からも、ヤマタネの存在感は高まっていくでしょう」
意外なところで言えば、「ミシン」を製造する日本企業の株が積極的に買われていることをご存じだろうか。ミシン関連はいわゆる「景気敏感株」で、景気が改善して衣類の需要が高まることを期待し、中長期的な目線で買いが入る。そして日本は世界トップクラスのミシン製造企業が多い。前出・宇野沢氏はその中でも割安な銘柄を挙げる。
「1914年創業のペガサスミシン製造は『工業用環縫(かんぬ)いミシン』で世界シェア4割を誇ります。決算も進捗率はかなり高いところまで来ているうえに、為替レートの変動による利益上積みの余地があります。1倍以下なら割安とされるPBR(株価純資産倍率)がまだ0.6倍ほどで、評価の余地はまだまだあります」
ペガサスミシンと事業提携しているのが、アパレル向け工業用ミシンで世界トップのJUKIである。海外売上高が全体の80%を超えるグローバル企業だ。
「’13年にソニーからJUKIが買収した表面実装機(電子部品を基盤上に配置する装置)部門のシェアが伸びてきています。急激な円安進行によって、現レートが続けば数十億円の利益改善が十分に見込めます」(前出・今野氏)
新型コロナウイルスの完全な収束はまだ不透明だが、入国制限は徐々に解除されてきている。やがて「安い日本」のモノやサービスを買いに来る外国人観光客が増えた時には、インバウンド関連銘柄が高騰するはずだ。前出・宇野沢氏はこう語る。
「『ホテル椿山荘東京』などを運営する藤田観光は、主力のビジネスホテルが大きなダメージを受けていますが、内需の箱根エリアのリゾート事業は順調な回復を見せています。インバウンド需要が復活すれば再び人気が出る可能性は高いでしょう。また、ホテル『ドーミーイン』を運営する共立メンテナンスも、和風ビジネスホテル『御宿野乃』などは外国人観光客の人気が高く、インバウンドに期待です。同社の二本柱になっている寮の稼働率がコロナの影響で低下しており、この事業をどう維持するかで業績が変わってくるはずです」
最後に、「円安株」と言えばトヨタ自動車のような自動車関連の輸出企業が注目されることが多いが、今の状況ではどうなのか。前出・佐藤氏は次のように言う。
「トヨタは想定為替レートに対して1円円安になると、対ドルで400億円、対ユーロで70億円の営業利益の押し上げがあると言われています。ホンダや日産自動車も同様に収益押し上げがありますが、電気自動車に力を入れているトヨタを推します。同様に、タイヤシェア世界2位を誇るブリヂストンも、円安の恩恵をダイレクトに受ける企業と言えるでしょう」
今の円安は、これまで日本が迎えてきた局面とはまったく違う。円安の恩恵を受ける輸出関連銘柄と不況に強い銘柄を両睨(にら)みで買っていくのが、中長期的に無難な投資になるだろう。


『FRIDAY』2022年4月29日号より
PHOTO:共同通信社 時事通信社(豊田章男社長)