21世紀の石原裕次郎・徳重聡「私が″普通の演技″をやめた理由」
独占インタビュー 60分 NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』や 『愛しい嘘〜優しい闇〜』の怪演でついにブレイク
「話題にしていただいていることはとてもありがたいんですけど、正直、怪演しているつもりはないんです」
俳優・徳重聡(43)は、そう言いながら苦笑いした。この冬のドラマ『愛しい嘘〜優しい闇〜』(テレビ朝日系)では、エリートの刑事部長でありながら妻の浮気相手を執拗に付け狙う不気味なDV夫を演じた。’92年の大ヒットドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)で佐野史郎(67)が演じた強烈なマザコン男・冬彦に負けないインパクトから、ネットでは″令和の冬彦さん″という評価を獲得した。
同時期に出演したNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では、「破天荒将軍」として見事な殺陣と、記憶に残る決めゼリフを披露。その″怪演″ぶりが注目を浴びている。
「娘が物心がついたころは悪徳政治家とかクセの強い嫌みな役ばかりを演じさせていただいていたので僕が俳優ということは話していませんでした。でも、『カムカム』でようやく娘にも観せることができた。『パパは俳優だったの?』ってびっくりしてました(笑)」
徳重は’00年に『21世紀の石原裕次郎を探せ!』オーディションでグランプリに輝き、芸能界入り。’04年の『弟』(テレビ朝日系)では石原裕次郎役で出演するなど出だしは順調だったが、次第に迷いが生じるようになったという。
「グランプリに選ばれた経緯も含めて、20代はプライドがあったんだと思います。役どころも『良い人』が多く、演じていてもしっくり来なかった。仕事に手応えを感じていなかったんです」
’18年、『下町ロケット』(TBS系)で演じた根暗で嫌味なエンジニア役が転機となった。
「『未経験の役が来たぞ!』って、嬉しかったですね。それまでは頂いた役を言われた通りやっていた。この役は優秀だけど偏屈で面倒臭い人物。自分で作り込んでいかないとダメだと思い、試行錯誤しました。監督に初めて観ていただいたとき、『この演技、誰かにつけてもらったんですか?』って聞かれたんです。『自分で作りました』って答えたら『いいですね』って。『普通の芝居はしばらくやらない方がいいと思いますよ』とも言われて。複雑な気持ちでしたけど、いま思うと言う通りでしたね」
もう一人、徳重に道を示したのが、デビュー当時から所属した『石原プロモーション』(’21年解散)の社長(’11年に退任)、渡哲也(享年78)だった。
「石原プロで細かな演技を教えてもらったことはないです。社長も『芝居なんて教えて覚えるものじゃない』と、仰ってました。若いころは社長に会えばいつも、『お前トッポい兄ちゃんだな』って言われていた。社長の中の僕のイメージってそれしかなかったんです。それが『下町ロケット』に出てから変わった。ドラマ放送後に電話をくれて、『良かったよ』って言ってくれるようになった。
’19年のスペシャルドラマ『MGCを作った3人の男たち』(TBS系)で瀬古利彦さん(65)を演じたんですが、社長は、『お前は小細工をしないよな。それでいいんだよ。演技の幅を自分で広げていくの、いいよな。お前は王道を往け』って仰ってくれました。
その言葉を最近思い出すんですけど、いまもその意味を考え続けています。『小手先の技術で流すな。自分で考えて作り込め』ってことだと思うんですよね」
裕次郎の命日である’20年7月17日に石原プロモーションの解散が発表された。渡が他界したのは、約1ヵ月後の8月10日のことだった。
「未だに亡くなった実感がないんです。身内の方のみでのお別れ会だったので、僕は最後のお別れをできていない。一つの作品を撮り終わってもソワソワしてるなって思うと、『社長の電話がないからだ』って。社長の電話を待っている自分がまだいるんです。今回のドラマを観てたらなんて言ってくれただろう。社長の意見、聞きたかったです」
新境地を切り拓いた徳重の今後の目標は「未経験の役にトライしたい」だった。
「僕、方言をしゃべる人物ってやったことないんですよ。純粋に娘に観せられる役にも挑戦してみたいですね(笑)」
徳重はこれからも「新たな顔」を見せ続けてくれるだろう。
『FRIDAY』2022年4月29日号より
- PHOTO:足立百合
- ヘアメイク:加藤康