大河『鎌倉殿の13人』…コミカル路線がハマった「納得の事情」
時代劇の定石を破ったコミカルな描写が、予想以上の好評を博している。
今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の主人公は、小栗旬(39)が演じる北条義時。鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝の右腕として活躍した人物だが、これまでドラマや映画で取り上げられたことはない。義時に関する資料自体も多くはなく、ある意味、脚本家が好きに描ける人物と言えるだろう。
その義時が生きた平安末期から鎌倉時代初期を、脚本を担当する三谷幸喜は想像以上にコミカルに描いてきている。もともと三谷はコメディ作品を得意としているが、重厚な雰囲気が求められるNHK大河ドラマにおいては、それは賛否を呼ぶものとなりがちだ。
が、今回は「楽しい。ドラマをきっかけに歴史学に触れることができてありがたい」、「史実を読み込み、それをどう描くかは脚本家の腕。登場人物が皆魅力的で、高い実力が示されている」などと、総じて好評の感想が目立つ。そのコメントの文体からは、若い世代だけでなく、大河ファン層である年配層からも支持されていることが伺える。
『真田丸』でできた免疫
危険な賭けとも言える“コミカルな大河”だが、今回、これほど上手く視聴者の心にハマった理由は何なのだろうか。無数のドラマを見てきたドラマウォッチャーの編集者や記者たちに話を聞いてみた。
「三谷さんは16年のNHK大河ドラマ『真田丸』でも脚本を務めていますが、やはり当初はかなりコミカルな描き方をしていました。しかしこのときはまだ視聴者が慣れていなかったのか、そのノリに戸惑う声が多かった。そのせいか、後半はかなりコミカル要素が減っていました。唯一、登場する女性人物たちはかなり個性的に描かれ続けましたが、これは最後まで好き嫌いが分かれるコメントが目立っていましたね。
でもこの『真田丸』を経験して、視聴者側にも“コミカルな大河”というものへの免疫ができていたんじゃないでしょうか。実際に放送初回から、主演の小栗旬のコミカルな困り顔やオロオロする表情が『可愛い』『貴重』と、ドラマはツイッターの世界トレンド1位になったりしていました」(テレビ誌編集者)
しかし取材を進めていくと、三谷脚本が好評な真の要因はもっと別のところにあることが見えてきた。その鍵は、“残忍さ”だ。
「鎌倉幕府が興って安定するまでというのは、実に様々な事件が起こっています。平家滅亡、承久の乱など。メリハリがあって、非常に映像化に向いている時代と言えるでしょう。ただそれだけに、権謀術数が渦巻きとにかく残忍なんです。
初っ端から、頼朝の幼い息子・千鶴丸が川に沈められて殺され、視聴者は衝撃を受けました。さらに義時の兄の宗時(片岡愛之助)、義時の妻・八重の親兄弟、先週に至っては頼朝の腹心の部下であった上総介広常(佐藤浩市)までもがあっさり殺されてしまいました。このように、まさかと思うような主要人物が次々と殺される恐ろしい時代なのですが、多くの日本人は意外とこの時代の歴史に詳しくない。それゆえいつものNHK大河のように重々しく描いてしまうと、あまりに残忍でショックを受けてしまうと思うんです。
だからこそ、三谷脚本のコミカルさが救いとなっている。基本が明るくトボけて描かれているので、あくまでドラマ内の“盛り上がり”として受け止めることができ、楽しめているのではないでしょうか。『真田丸』から5年しか経っていないため、『また三谷幸喜?』という声も少なくありませんでしたが、今回は正解だったと思います」(芸能記者)
史実通りに描かれるとなると、今後も「えっ」と驚く人たちが早々に物語から退場していくはずだ。それでもきっと、『鎌倉殿の13人』は純粋にドラマとして私たちを楽しませ、これまで知らなかった歴史を学ばせてもくれることだろう。
取材・文:奈々子
愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。タレントのインタビュー、流行事象の分析記事を専門としており、連ドラ、話題の邦画のチェックは欠かさない。雑誌業界では有名な美人ライター
撮影:島 颯太