ラグビーリーグワン初優勝を狙うクボタの「スゴいコロナ対策」 | FRIDAYデジタル

ラグビーリーグワン初優勝を狙うクボタの「スゴいコロナ対策」

ヘッドトレーナーは伊良部秀輝のメジャー挑戦にも携わった吉田一郎氏。どんな対策を立てたのだろうか

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
主将としてチームをリードする立川理道。試合後、すぐにマスクをつけた(写真:アフロ)

今年1月に発足したジャパンラグビーリーグワンで独自色を打ち出すクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。目下12チーム中2位と好調なうえ、新型コロナウイルスの感染対策でも結果にコミットする。感染者発生による不戦敗で勝ち点を伸ばせない他チームが増えるなか、スピアーズは即日に検査結果がわかる仕組みを策定。悲運の試合中止を未然に防いでいるのだ。

昨季は前身のトップリーグで4強入りを果たし、今季のリーグワンでも3試合を残して2位につけるスピアーズ。活躍しているのは世界的なプレーヤーを含めた現場のメンバー、地道にひいき筋を増やすプロモーションスタッフだけではない。

選手の健康を支えるトレーナー陣も、積み上げてきた専門知識、人脈を用いて、折からの感染爆発に対応する。

「マネジメントスタッフと話しているのは、『陽性者が出た時にどう動くか』。そのシミュレーションも事前にしています」

クラブを代表して語るのは、ヘッドトレーナーの吉田一郎氏。ラグビーの現東京サントリーサンゴリアス、伊良部秀輝氏のメジャー挑戦にも携わった穏やかな重鎮である。

PCR検査の結果を即日で得られる仕組みづくり

リーグワン最上位の「ディビジョン1」では第14節までの全84試合中15試合が感染症のため中止に追い込まれ、一時はリーグの成立要件を整理すべく東海林一専務理事が会見したほど。1月下旬の第3節、2月中旬の第6節では、それぞれ予定された6試合のうち2試合しか実施されなかった。

受難に見舞われる国内トップレベルの舞台にあって、吉田は常々、ひとつのことを説いてきた。

「コロナになった人が悪者になり、本人も申し訳なく思う。僕はそのような差別、区別をできるだけなくしたいからと、選手には『(感染自体は)しょうがないことなんだ。その代わりに、それ以上、広げないようにしよう』と言い続けてきました」

この道に入ってからの約30年で思うことは、「必要な知識が多くなってきました」。時代の変化に伴い、アップデートが求められた。

脳震盪、ドーピングへの認識…。そこへ最近になって加わったのが、感染症への対応力だった。時代が変わった2020年春以降、まずは地元である船橋市の保健所と関係を築いた。顔の利くチームスタッフに窓口となってもらった。

集めた専門知識をもとに、部内での決まりも作った。選手や関係者がクラブハウスへ入るための基準を一覧表にして、共有したのだ。

国内初の緊急事態宣言が解除された時期は、玄関前で「門番」となって練習に来るメンバーの検温、口頭でのコンディション確認をおこなってきた。外出時に問題がなくても、いざ対面した折に体温が37度を超えていた選手を、その場で自宅へ帰したこともある。

「ラグビーはコンタクトスポーツなので、(ぶつかり合いの多い)フォワード同士が結膜炎をうつし合うこともある。ですので、小さな感染症への予防策は前々から(策定して)ありました。インフルエンザの流行る季節が近くなるとワクチン接種について選手に呼び掛け、希望者の予約を一括で取る。手洗いやうがいの用品をクラブハウスで置いて、励行させる…。(いまは)それをよりしっかりやらなくてはいけないという意識になりました」

トップリーグの最終年度が始まる直前から、週に1度のPCR検査が義務付けられるようになった。検査結果がわかるのはチェックした翌日となるケースが多く、週末の試合に向けては「月曜もしくは火曜に検査→木曜に提出」の流れが一般的だ。

ただしスピアーズは、いちはやく即日で白黒をつけられるようになった。トレーナー陣の人脈を駆使し、スピード感に定評のある検査会社を探し出したのだ。

吉田氏はその会社と連絡を取り合い、検査のタイミング、検査キッドの在庫状況を確認する。陽性者が出た際には、かねてつながりを作っていた船橋保健所とともに濃厚接触者を迅速に割り出す。

得られた仕組みをより賢く活用すべく、コーチングスタッフへも協力を仰ぐ。

「月曜は検査だけで練習をせず、陰性を確認して火曜日から練習…という形態をコーチに投げかけました。練習日数が1日減るわけですから、最初のうちは色々と(議論が)ありました。ただ、試合をするためにはどうすべきかを一緒に考えることができました。また、それで陽性反応者が少なくなっていると言えます」

PCR検査の様子。検体数が多いため、一般の人の場合、結果がわかるのは検査翌日になることが通例だが、クボタは検査当日に結果がわかる仕組みを作り上げた(写真:アフロ)

かくしてスピアーズは毎週、陽性者でも濃厚接触者でもない選手を23名以上(専門性の問われるフロントロー6名を含む)、確保できている。コーチ陣は試合をする権利を保ったうえで、メンバー選考に移れる。

生まれたてのリーグワンの感染対策ルールは、昨年までに定められた。感染力の強いオミクロン株が日本で流行る前だったとあり、陽性者や濃厚接触者が増えて試合ができなくなったチームは「不戦敗」になると決まった。

順位を決める勝ち点は、「不戦勝」の「5」に対して「不戦敗」は「0」。さらに断続的な「不戦敗」はその前後の練習のクオリティ、選手のモチベーションにも影響するのだろう。「不戦敗」を経験した7チーム中6つは、第14節終了時点で7位以下に並んでいる。

集団感染のピンチの芽を摘んだ「ファインプレー」

いわば、オミクロン株への対応力が、そのままチームの成績を左右しうる。もはやチーム浮沈のカギを握るとも見られる吉田氏が「激震」を覚えたのは、シーズン序盤のことだ。

とある「月曜日」の検査で陽性反応が計2件、あった。わかったことは、当該の選手たちは「日曜日」のクラブハウスでジムワークをしていたこと、その場にいたもう1人の選手が「陰性」だったことだ。

その「陰性」の選手は濃厚接触者にもあたらなそうだったから、「火曜日」からの練習に参加したいと申し出ていた。しかし吉田氏は、念には念を押してその要望に応じなかった。

「潜伏期間かもしれないから、数日、様子を見よう。3人目の選手にはそう納得させました」

果たして…。

「結局、その3人目の選手は3日後に発熱しました。陽性でした。もしその選手を『陰性だから大丈夫』と練習に入れていたら、感染が広がっていましたね」

裏を返せばスピアーズは、文字通りに一枚岩となって「連敗」のピンチを免れてきた。

他チームの選手と住まいの近い外国人に、ホテル生活を求めたこともあった。各地で頻発する家庭内感染を防ぐためだ。

果たして、上位4強によるプレーオフ進出へ迫る。

「(今後は)100パーセントそうできるかはわかりませんが、練習形態も、生活形態も、少しずつもとに戻せればいいなと思っています。十分な練習ができないと、今度は怪我のリスクが高まりますから。折角、リーグワンがコマーシャルを打ち、お客さんが世界の有名な外国人が出るのを楽しみにしているのに、その選手が陽性反応やコンディション不良で出られないとしたら私たちとしても申し訳ない。感染症と付き合いながら練習の質を上げるにはどうするかも、考えなくてはいけません」

吉田氏は現行ルールに即して最善を尽くしながら、その先も見据えている。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

Photo Gallery2

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事